阪南中央病院

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阪南中央病院小児科のトピックス
小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶
SIDS :
SUID :
SRID :
ALTE :
sudden infant death syndrome
sudden unexpected infant death
sleep-related infant death
apparent life-threatening event
: 乳幼児突然死症候群
: 予期せぬ乳幼児突然死
: 睡眠関連乳幼児死亡
: 乳幼児突発性危急事態
過去には、百日咳の咳発作が、無呼吸の形で現れた早期の乳児のALTE例や、保育所でのうたた寝中の突然死で、剖検の結果、心内膜線維弾性症と診断された例など、ALTEや SUID症例を経験してきました。最近経験したALTE症例を提示し、ALTE、SIDS、SUIDへの対応について検討します。  
ALTE
「それまでの健康状態および既往歴からその発症が予想できず、しかも死亡するのではないかと観察者に思わしめるような無呼吸、チアノーゼ、顔面蒼白、筋緊張低下、呼吸窮迫などのエピソードで、その回復に強い刺激や蘇生処置を要したもののうちで原因不詳のもの」とされ、疾患概念として定義されてきた旧定義から、諸外国同様に、以下のように徴候概念として定義することに変更されました(日本小児救急医学会雑誌Vol.12No.3 2013)。
  • 新定義
    呼吸の異常、皮膚色の変化、意識状態の変化のうち1つ以上が突然発症し、児が死亡するのではないかと観察者に思わしめるエピソードで、回復のための刺激の手段・強弱の有無、及び原因の有無を問わない徴候とする。
  • ALTE徴候の原因が不明の場合
    上記徴候を認めて、諸検査にても器質的異常を認めず、原因が特定できない場合を「idiopathic ALTE(特発性アルテ)と呼称する。
    原因の有無・回復刺激の強弱や方法を問わない、観察者に児の死亡を予測させる徴候であるとするのが新定義のコンセプトです。今後、idiopathic ALTE症例の集積を通して、SIDSとの鑑別・予防可能性などにつながることが期待されます。
ALTE 症例
症例1 無呼吸発作 生後1ヶ月24日
出生暦:38週2日 2150g出生(3パーセンタイルのIUGR)
出生後、自宅に帰った後、哺乳後チアノーゼが起こることがあった。生後40日を過ぎて、睡眠時にも、呼吸を止め、チアノーゼを発症するようになり、生後1ヶ月24日でT小児科受診し、当科へご紹介いただく。当日当科受診、入院。
血液検査、脳波検査、頭部MR検査、心電図検査、胸部レントゲン検査:異常所見を認めず
腹部エコー検査:幽門の通過良好
当科入院後、酸素飽和度は、97~98%でキープされ、睡眠時の酸素飽和度の低下なし。入院後チアノーゼは認めず、4日後退院、外来観察中。
  • 考案
    preterm,late pretermにありがちな無呼吸発作の延長上のものか。繰り返すようなら、GERD【gastroesophageal reflux(regurgitation) disease】の検討も必要と考えている。
症例2 10分間、目を離した間に、うつ伏せで皮膚色不良、ぐったり。生後3ヶ月
出生暦:40週3日 3810g出生
ワクチン暦:Hib、PCV13、HB:2回  四種混合:1回
16時過ぎ、母は台所仕事で、上向きに寝かせて、目を離した。10分後、児は、うつ伏せで、顔色不良であり、急いで抱き上げた。呼吸ができていない様子であったので、背中をたたき、口-口の人工呼吸を実施。呼吸は出たが、15分ほど啼泣なし。この間背中をさすったり、たたいたりを続けた。救急車を依頼し、救急車内で、啼泣、手足の動きも出てきた。
発見から約30分後、当院到着時には、意識状態に異常なく、追視可能、あやしに応じて笑顔あり、筋緊張正常。
つい2~3日前に、初めて寝返りが観察されていた。寝かせていた布団は柔らかくて、窒息の疑いが強い状況であった。
頭部CT検査、胸部レントゲン検査、血液・尿検査、心電図検査に異常なく、現在外来にて観察中。
  • 考案
    寝返りし始めで、柔らかい布団での窒息の可能性が高いと考えられる。ALTE症例に間違いないが、窒息によるsleep-related infant deathとなる危険性が高かった症例である。死亡にいたった場合は、SIDSと判断される場合もありうるが、窒息が原因とされれば、Accidental Suffocation and Strangulation in Bed(ASSB)と呼ばれます。
SIDSとSUID
アメリカでの取り組み
アメリカでは1994年から「Back to Sleep」キャンペーンを展開し、SIDSの発症は約3分の1に減少しましたが、この10年間は横ばい状態で、睡眠時の窒息や絞扼事故によるベッド上での死亡は上昇傾向にあることが示されています。2014年NIH(アメリカ国立衛生研究所)は、「Back to Sleep」を前提にして、さらに「Safe to Sleep」に進むキャンペーンを行っています。
歴史的には、1980代にSIDSは脳幹機能障害が関連するとの疾患概念が確立し、オーストラリア等でうつぶせ寝での睡眠がSIDSの危険を高める研究発表が出されました。1990年代の前半時期には、あお向き寝又は横向き寝での睡眠を推奨する運動が始められ、SIDSは50~70%減少しました。1992年アメリカ小児科学会(AAP)は仰向け寝又は横向き寝での睡眠を推奨。1994年「Back to Sleep」キャンペーンが開始されました。1990年代後半、AAPはあお向け寝での睡眠のみを推奨。ベッド表面がfirm(一定の硬さ)であることが望ましいとしました。脳幹の機能障害が体温調節、上気道の働き、呼吸、心拍数、血圧に変動を与え、SIDSにつながるとの知見が明らかにされてきました。2005年AAPはおしゃぶりの使用推奨と添い寝に対する注意を勧告し、2011年にはSIDS及び他の睡眠関連乳幼児死亡(sleep-related infant death)を含む拡大勧告を提唱しました(小児科トピックス70)。
SUIDは、突然死のうち、あらゆる検査、調査を行った上で、窒息、低酸素、絞扼、感染、誤飲、代謝障害、不整脈、外傷と診断されるもの、及びSIDSを含む広い概念であり、SIDS対策は、SUID全体を減少させる対策として、拡大して取り組まれるべきであることが提唱され、2011年のAAPの拡大勧告として発表されています。現在の「Safe to Sleep」キャンペーンの基本骨子となっています。
日本での取り組み
日本では、1998年から厚生労働省のSIDS防止キャンペーンとして、①うつぶせ寝は避ける ②タバコはやめる ③できるだけ母乳で育てる を、3点を推奨してきました。これによって、1995年ごろに比べて1/3~1/4に減少してきたことが知られていますが、今でも年間100余名のSIDS発症があります。NPO法人SIDS家族の会は、厚生労働省に3点のほかに、◎SIDSがどんな病気か正しく理解しよう ◎赤ちゃんを暖めすぎないようにしよう ◎なるべく赤ちゃんをひとりにしないで の3点を重要事項として加えています。2012年には、厚生労働省から、「SIDS診断ガイドライン(改訂版)」「SIDS診断のための問診・チェックリスト」の改訂版が、より適切な診断のためのツールとして発表されています。ALTEの定義の変更もこの流れの中にあります。
今、付け加えたいこと
①2番目のALTE症例のように、適度な固め(firm)のベッド(布団)にすることをもっと積極的に推奨すること。羽根布団のようなやわらかい上布団を、決して下布団としないよう注意喚起する必要があります。
②寝返りが可能となった直後には、寝返りによるうつぶせ寝で、窒息やSIDSの危険が高まる時期であると予想されるので、特に注意する必要があること。うつぶせ寝ではSIDSの危険は5倍となり、いつも仰向けに寝ている児がうつぶせ寝になった場合には、7~8倍になるとされます。症例2は、①と②の組み合わせによるALTE症例と考えています。
③AAPのパンフレットでは、これまでうつぶせ寝をしてこなかった児が、はじめて母親以外の保育者に預けられ、いつもと違う環境のもとでうつぶせ寝で寝かされた場合、SIDSの危険率は18倍となることが述べられています。ベビーシッターの利用等が前提になっているのだと思われます。大阪でも、行政が行っているファミリーサポート制度で赤ちゃんを預けたその日に、ALTEが発症した悲しい事例があります。家庭でも、母親以外の保育者すべてが、あお向け寝を励行するよう、父親、祖父母、ベビーシッター等に正しい知識を普及させることが重要です。阪南中央病院の分娩直後の退院指導では、このことを強調しています。(小児科トピックス71参照)
④SIDS家族の会が取り上げている、暖めすぎへの注意も、もっと知識として普及させる必要があります。
⑤受動喫煙は危険率を2.5倍にします。タバコによるSIDSの発症の増加分は完全な大人の責任です。
タバコによる二次的な喫煙の危険性はしっかりと認識される必要があります。
参考:
・日本小児救急医学会雑誌 Vol 12 No.3 2013
・NIHアメリカ国立小児保健発達研究所「Safe to Sleep」Campaign June 12, 2014
・阪南中央病院あんしんねっとわーく No.70(2011年11月)、 No.71(2011年12月)
AAP「SIDSおよび睡眠関連乳児死亡 乳幼児の安全な睡眠環境に関する拡大勧告」2011
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