阪南中央病院

阪南中央病院小児科のトピックス
小児科医 ( 副院長 ) : 中田成慶
11月になると、破傷風のことを思い出します。4年前の11月のことを、今一度振り返ってみます。
11歳男児:全身の持続的な硬直
2005年11月14日、11歳10ヶ月の男児が小児科初診。前日から、軽い息苦しさと後弓反張様の反り返りがあり、呼吸に力が入り、呼吸しづらい、全身、特に頚から脊柱にかけて筋の持続的な硬直がある、無表情などで、受診されました。
意識は正常、車椅子で反り返り姿勢をとり、頚から体幹全体の持続的な硬直が特徴的でした。
熱はない。
髄膜刺激徴候である後頚部硬直とは全く異なる。前屈も後屈も制限されている。
制吐剤による錐体外路症状に似ているが、錐体外路系の失調ではない。
薬物の使用もない。
血液検査でCa値は正常で、テタニーではない。過呼吸もない。
検査データでは、CPK1093I(U/l)のみ、異常値を示す。
このような、これまで経験したことのない、全身硬直でした。
小児喘息の既往があり、聴診でわずかな乾性ラ音を聴取、喘息の発作かと考え、入院。外来診察が終了後の昼過ぎ、患児のベッドサイドでの診察で、破傷風に違いないとやっと気がつきました。開口障害は、前日からで、顔は無表情で、典型的な痙笑(us sardonicus)を呈し、第3期とされる発作的な後弓反張(opistotonus)もみられました。
軽い怪我でまさかの発症
破傷風図患児は、喘息のため3種混合ワクチン接種を行っていませんでした。
11月5日、近くの公園で、枯れ木が、右下腿前面に、トンネル状に刺さりました。傷の開口部は1.0cm、深さは1.9mmでした。
11月8日、近くのM先生を受診し処置を受け、外科で破傷風の予防を行ってもらうよう指導されました。
11月9日外科を受診、破傷風の心配はないか相談された外科のドクターは「まさか発症することはないだろう」と予防(この場合は破傷風免疫グロブリン)の注射を行わず、傷の洗浄、消毒、抗生剤を投与、経過を観察した結果、11月12日ごろから筋肉の硬直や開口障害が始まり、14日典型的な破傷風となりました。
予防の大切さ、ワクチンとTIG=破傷風免疫グロブリン
予防の最大の武器は、ワクチンです。3種混合ワクチンの接種が100%になるように努力することは、私たちの役目です。また、破傷風にかかってもワクチンでの予防を行わない限り、何度でもかかる疾患なので、必ずワクチン接種が必要です。患児も、退院後破傷風ワクチン接種を行いました。
怪我した時、破傷風予防のために免疫グロブリン注射を行うのか、トキソイドを注射するのかは、受傷までのワクチン接種の回数と創の汚さで、基準が作られています(Red Book)。阪南中央病院では、独自のマニュアルを作成しています。病院HPの小児科トピックスに今月号と一緒にアップしておきます。
まさかこの程度の傷で破傷風が発症することはあるまいと思ったら、そこが落とし穴です。ワクチン接種歴のない患者さんは常に破傷風にさらされていることを知っておくべきです。
破傷風トキソイドワクチン、破傷風免疫グロブリン製剤(TIG)投与基準
ワクチン接種の既往 破傷風を発症する
危険性が高い創*3
破傷風を発症する
危険性が低い創*4
ワクチン/TIG ワクチン TIG ワクチン TIG
不明または3回未満 ×
3回以上 ×*1 × ×*2 ×
  • *1 最終接種から5年以上経過している場合は投与
  • *2 最終接種から10年以上経過している場合は投与
  • *3 危険が高い創 :汚物、糞便、土、唾液で汚染された傷、刺創、裂傷、射創、挫滅創、火傷、凍傷など
  • *4 危険が低い創 :その他のきれいで、小さな傷
その後の経過
11月14日 :
(当院受診当日)
大阪市立総合医療センターに受け入れていただき、転院。
デブリドマン、TIG、ペニシリンG投与、鎮静鎮痙療法、気管切開、人工換気(呼吸器装着)21日間実施。

12月5日 :
人工呼吸器から離脱

12月9日 :
気管カニューレ抜去。リハビリ開始。

12月末 :
日常生活に殆ど支障がない程度に回復し、退院。

1月 :
3学期は最初から登校。

2月 :
少年野球クラブに復帰。

最近の破傷風情報
感染症発生動向調査からは、日本では毎年約110人が罹患、約7人が死亡とのデータが出ています。その多くが65歳以上、死亡の殆どは75歳以上です。2008年兵庫県で、新生児の破傷風が報告されました。10年ぶりの発症だそうです。新生児破傷風の最大の原因は不潔な臍帯切断と母親の抗体レベルの低さによるものです。清潔な出産管理とともに、ワクチン接種の徹底が望まれます。乳児期のⅠ期DPT3種混合ワクチン(初回3回+追加1回の計4回)と、Ⅱ期DTトキソイドワクチン(11歳以上、13歳未満、標準接種年令11歳)の接種率の向上が望まれます。
海外での破傷風の情報としては、先進国での薬物常用者で注射部位からの破傷風の増加、ワクチン忌避による発症例、ニワトリにつつかれた傷からの破傷風の発症などが報告されています。頭部の外傷からの発症では、開口障害が見られる前に、局所の麻痺が先行することがあるので、顔面麻痺のときの鑑別に加える必要があります。
1988年WHOは、1995年までに新生児破傷風をなくす行動計画を策定、しかし計画はおくれ、次に2005年までに、母親の破傷風を含めて根絶することを計画してきました。新生児破傷風は2004年の推計では128,000人で、この10年間で約10分の1に減少していますが、2008年現在で、なお、新生児破傷風未排除国は46カ国にのぼっています。新生児破傷風は世界の貧困と不平等の指標です。