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阪南中央病院小児科のトピックス
小児科医 ( 副院長 ) : 中田成慶
侵襲性肺炎球菌感染症(Invasive Pneumococcal Disease:IPD)
侵襲性肺炎球菌感染症(IPV)とは、常在菌でもある肺炎球菌が本来存在しない場所で増殖し疾患が発症する場合を言います。髄膜炎、敗血症、(大葉性肺炎に合併した)菌血症などです。疾患の重要性から、肺炎・気管支炎・中耳炎・副鼻腔炎などから区別されます。
当科では、2009年に2例の肺炎球菌菌血症を経験しました。
【症例1】 肺炎球菌菌血症 3歳女児
4月17日:
高熱

4月18日:
高熱(39.5℃)が続く。PL病院小児科救急受診、上気道の変化、呼吸器症状、髄膜刺激症状を認めず、CRP6.0mg/dl、白血球数27000(好中球84.2%)、検尿:異常なし。胸部レントゲン検査:肺炎を認めず。「菌血症の疑い」診断で、当科へ御紹介いただく。培養検査の後、ABPC/SBTによる治療開始。

4月19日:
解熱、血液培養でG(+)球菌を検出→肺炎球菌でPc(感受性:Intermediate)と判明。臨床的にはABPC/SBTによく反応しており抗生剤はそのまま継続使用で治癒。
【症例2】 肺炎球菌菌血症 2歳女児
4月26日:
高熱と嘔吐

4月27日:
40℃、嘔吐も続き、I小児科受診、御紹介いただく。上気道の変化なし、呼吸器症状なし、胸部レントゲン検査:肺炎を認めず、項部強直なし、下痢なし、検尿:異常なし、CRP6.1mg/dl、白血球数26000(Nand14% Seg70%)、髄液検査:異常なし、培養検査の後PAPM/BMP(カルベニン)投与で治療開始。

4月27日:
解熱、嘔吐も消失。血液培養で、G(+)球菌を検出→肺炎球菌と判明、Pcに対する耐性は認めず、PSSPであったが、PAPM/BMPが著効しており、Pcへの変更(deescalation)は行わず治療続行、治癒した。
当院での肺炎球菌性肺炎症例数
2009年1月~2010年2月の14ヶ月で、肺炎球菌肺炎の入院数は32例でした。やはり肺炎球菌肺炎が、小児感染症の中で大きな位置を占めていることが分かります。(肺炎球菌肺炎の診断は、レントゲン検査で肺炎があり、①咽頭または喀痰培養陽性の肺炎、②尿中肺炎球菌莢膜抗原陽性で、CRP高値、白血球増多があるもの、としました)。この中で、細菌性髄膜炎の合併を疑って髄液検査を行ったのは2症例でした。
月別症例数
09年1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 10年1月 2月
1 1 1 2 3 4 1 4 4 2 3 2 3 1
年齢別症例数
0才 1才 2才 3才 4才 5才 6才 7才 8才 9才
11 1
IPDを含む肺炎球菌感染症が入院に占める割合は、相当あり、ワクチンの導入でIPDの大半と、肺炎の一部を減少させることができれば、小児医療にとって大きな前進になると考えられます。
7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)の発売
2010年2月24日7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)が発売開始されました。既に、ニューモバックスの商品名で23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPV23)が導入されていましたが、T細胞刺激性がなく、小児の予防接種には不適でした。PCV7は、侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の主な原因である7種の莢膜抗原(ポリサッカライド血清型4、6B、9V、14、18C、19F、23F)の各々に、ジフテリア変異株の産生した無毒性変異ジフテリア菌毒素を結合させたもので、T細胞を介して抗体産生を誘導するワクチンです。
既に、10年前から世界的に使用され、2才未満の子どもの分析で、各疾患の低下が報告されています。
①ワクチン型の減少率、②全血清型と減少率:IPD(①89%②63~74%)、急性中耳炎(①55~57%②29%)、肺炎(29~32%)。
さらに、PCV7は接種者以外に、高齢者を含む非接種者のIPDも減らす間接的な集団免疫効果があることも知られてきました。また、近年増加してきているペニシリンを始めとする各種抗菌薬に対する耐性率を低下させることも報告されています。
しかし、一方で、PCV7導入前後で、乳幼児の鼻咽頭粘膜に常在する非ワクチン型肺炎球菌株の増加(15%→29%)が摘され、特にワクチン導入国で、19A株によるIPDの増加の報告が増えてきています。
世界的な流れとしては、19Aをカバーする新しい13価のタンパク結合型ワクチン(PCV13)への変更が進められています。(既にチリで承認済み)
PCV7(プレベナー)の接種時期と接種回数
通常、生後2ヵ月から、4週(中27日)以上の間隔で3回、1才を過ぎたら(12~15ヵ月)4回目を接種
接種スケジュール
接種年齢 接種回数 接種スケジュール
生後2ヵ月~6ヵ月 4回 1回目から4週(中27日)以上の間隔で2回目
2回目から4週(中27日)以上の間隔で3回目
生後12~15ヵ月に4回目
生後7ヵ月~1才未満 3回 1回目から4週(中27日)以上の間隔で2回目
生後12~15ヵ月に3回目
1才 2回 1回目から60日以上の間隔で2回目
2才~9才 1回 1回のみ
(最短、2ヵ月の誕生日にヒブワクチンと同時に接種、3ヵ月からはヒブワクチン・3混ワクチンと同時接種する方法が可能です。同時接種にはインフォームドコンセントが必要です。)
ワクチンで予防可能な疾患(Vaccine Preventable Disease::VPD)
現在、日本では、ムンプスワクチン、水痘ワクチン、ヒブワクチン(アクトヒブ)、PCV7(プレベナー)、PCV7と同時に発売された子宮頚癌予防の4価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン(=サーバリックス)が、利用可能ですが、すべて任意ワクチンで、有料・自己負担です。
細菌性髄膜炎を予防するためには乳児期初期に、ヒブワクチンとPCV7を接種することが望まれますが、ヒブワクチン8000円×4回、PCV7 1万円×4回では、7万円以上の費用がかかります。任意であるために、公的な形でワクチンの有用性、副作用も含めた正しい情報が親達に提供されることもなく、情報は、もっぱら医療機関の窓口とマスコミから提供されるだけです。これでは、親の生活水準や経済状態の差がワクチンの接種率にそのまま影響し、子どもの健康の格差となり、格差拡大に拍車をかけることになります。
2月号で米国の2010年のワクチンスケジュールをお示ししましたが、その政策目標は「ワクチンで予防可能な疾患は全て接種率を高めて駆逐する」というもので、国を挙げての取り組みがなされています。EU諸国でも、公的な形でワクチン政策が進められています。「野ばなし」「ワクチンギャップ」と呼ばれる日本の現状を早急に打開し、必要なワクチンが公費で接種できるよう改善して行く必要があります。