阪南中央病院

阪南中央病院小児科のトピックス
小児科医 ( 副院長 ) : 中田成慶
(はじめに)細菌性腸炎
一般的に、細菌性腸炎は、3歳以上で、高熱を伴い、時期的には5月~10月に多く、白血球増多やCRPが高値を示すこと、超音波検査で大腸壁の肥厚があること、便の顕微鏡検査で白血球が多数見られること、などが特徴的です。しかし、冷蔵庫の普及で、年中、細菌性腸炎の発生はあります。抗菌薬の使用については、除菌を目的とせず、症状改善を目的に5日間程度(サルモネラの場合は7日間)の投与で切り上げることが勧められています。最近の症例をお示しします。
下痢原性大腸菌性腸炎
大腸菌は、新生児感染症、髄膜炎、尿路感染症の原因菌となりますが、下痢原性大腸菌による腸炎は、カンピロバクタ-腸炎と並んで、細菌性腸炎の大きな原因菌で、最近増加してきている印象があります。腸管病原性大腸菌(EPEC―粘膜接着性あり)、腸管毒素性大腸菌(ETEC-易熱性および耐熱性エンテロトキシン)、腸管細胞侵入性大腸菌(EIEC)、腸管出血性大腸菌(EHEC-VT1、VT2、主にO157,O26,O111)、腸管凝集付着性大腸菌の5種類に分類されます。
【症例1】病原大腸菌O-74腸炎(熱せん妄合併) 4歳 女児
4月19日:
頻回の嘔吐、水様下痢、熱、ぐったりし、F小児科で、外来での点滴を受ける。

4月20日:
39℃、嘔吐、水様下痢が続き、元気がないため、御紹介いただき入院。
腹部エコー検査:大腸全体に壁の肥厚あり、腸間膜リンパ節腫大
CRP<0.2mg/dl 白血球数6600(Band8%,Seg69%) UreaN 23.9mg /dl  Crea 0.36mg/dl 感染性腸炎と考え、抗菌薬投与せず、輸液開始。
夜間、高熱で、視線が合わず、呼びかけに答えない。

4月21日:
高熱が続き、やはり呼びかけに対する反応が鈍い。意識レベルの低下(JCS1)は進行性ではない。午後から、反応は良くなる。頭部MR検査:拡散強調画像に変化なし。熱せん妄と判断。
CRP 3.5mg/dl 白血球数10200(Band52,Seg23 核の左方偏位著明)で、細菌性腸炎との判断で、CTRX投与開始。

4月22日:
意識状態は正常化、解熱。以後、状態は改善。
退院後、入院時の便から、病原大腸菌O-74が検出された。
コメント:
入院時検査で、CRPが低いからといって、細菌性でないとは言い切れない。経過を見て、治療方針の変更が必要になる。CRPは遅れて反応するので、判断に注意が必要。このような症例を数例経験しています。
【症例2】腸管出血性大腸菌感染症の新生児 生後1日 女児
37週6日2920g AS8/9 経腟頭位で出生。
生後1日:
便に粘血が混じる。アプトテストでベビー血の反応。
新生児メレナを考え、ケーツー追加投与。

生後3日:
血便消失

生後5日:
退院

生後6日:
生後2日で提出した便から、E.coli O-157≪VT-1(-)VT-2(+)≫
直ちに家族、保健所に連絡
その後2週間、HUSの発症がないか、外来で検査、経過観察。幸い、合併症なく、菌は陰性化。
母親から、同じO-157が検出され、分娩を介した母児感染(出産前に食べたユッケが原因)例であった。
コメント:
ユッケ、生肝食には腸管出血性大腸菌感染症の危険性がつきまといます。仲間の医師の中に、ユッケは欠かせないので必ず注文するが、食後ニューキノロン製剤1錠を服用する事にしているという人がいます。もちろん、エビデンスはなく、冗談話ですが。グルメの時代のジレンマでしょうか。
分娩食前の母親の腸管感染症は、細菌性、ウイルス性に関わらずべビーに母児感染します。避けられるものは避けるよう、妊婦には健康管理に注意してもらいたいです。
カンピロバクター腸炎
当院小児科の症例としては、この10年以上にわたって、細菌性腸炎の中では、最も多い原因菌です。市販の鶏肉は高率に汚染されており、牛の肝臓は内部まで汚染されている実態があります。潜伏期は通常2~5日、粘血便を伴うことが多いのが特徴です。この1年間で、カンピロバクター腸炎で入院した子どもは9人、年齢は2歳~14歳で、年齢の小さな2人が血便でした。Guillain-Barre症候群の発症に関係しているとされます。カンピロバクターが検出されれば、マクロライドを選択します。カンピロバクターの認知度はまだ低く、もっと一般の方々に知っていただくための啓発、宣伝活動を行っていかなければなりません。
【症例3】カンピロバクタ-腸炎 2歳11ヶ月 男児
6月08日:
生肉を食べる。

6月11日:
水様下痢となる。

6月12日:
熱が加わる。

6月15日:
熱が続き、血便となり、S病院救急外来受診、御紹介いただく。
CRP1.2mg/dl 白血球数5900 腹部エコー検査:小腸壁および大腸壁の肥厚を認める。輸液、CTRX投与で、翌6月16日 解熱、血便消失。

6月16日:
軽快退院。
入院時の便に、C.jejuniを検出、FOM,MINO,セフェム、アミノグリコシド、ニューキノロンに感受性(+)
コメント:
2歳未満でも生肉をたべる時代のようです。どの年齢でも細菌性腸炎を考慮しなければならないようです。CRPはこの症例のように、変化が軽いこともありますが、10mg/dlを越える症例もあります。
サルモネラ腸炎
サルモネラ食中毒は、毎年7月~9月の夏場をピークに発生しています。日本での年間の報告数は約1000例で、感染源は鶏卵および調理器具を介した2次感染が多いと報告されています。また、鶏肉のミンチ、鶏肉からの感染の報告もあります。亀(爬虫類、ペット)には常在していると考えるのが良いようです。2008年米国では、ピーナツバターを感染源とする流行が報告されました。乳児では、骨髄炎や敗血症、髄膜炎等への進展や、年長児では、サルモネラの直接浸潤でない、サルモネラ脳症の発症にも注意が必要です。抗菌薬としては、乳児では、ABPCまたはFOMを選択、投与期間は7日間です。
最新の小児科学会雑誌(2010年4月)に「シプロキサンが有効であったサルモネラ髄膜炎の新生児例」掲載され、ABPC,CTX,MEPMで効果不十分例でした。
【症例4】サルモネラ腸炎・脳症 10歳 女児
8月5日:
生肉を食べる。

8月6日:
高熱が続き、呼びかけても反応が鈍いとの訴えで、H診療所より御紹介いただく。
意識レベルJCS2 CRP17.5mg/dl 白血球数7400(Band42%,Seg13%)
髄液検査:細胞増多なし
下痢は、明るい緑色の粘液便が特徴的
意識レベルの異常が続くため、脳症の重症化を危惧し、大阪市立総合医療センターに転送。頭部MR検査で、脳梁膨大部の拡大と異常信号があり、2~3日幻視のような症状があったが、その後回復。
後日、便検査でSalmonella sp O9群を検出。医療センター入院中、髄液中のネオプテリン、ビオプテリンの高値を認め、サルモネラ脳症と診断された。CTRXとLVFX投与で、治癒した。