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阪南中央病院小児科のトピックス
小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶
はじめに
新生児期から乳幼児期に、主にミルク摂取後に、血便、嘔吐、腹満などから、栄養摂取が困難になる症例が、ハイリスク新生児の入院施設を中心に多数報告されるようになっています。この疾患の早期の認識、重症化予防、適切な栄養管理のために、新生児-乳児アレルギー疾患研究会から「新生児-乳児消化管アレルギー診断治療指針」が出されています。前月のトピックスに取り上げたIgE抗体の関与する即時型アナフィラキシーとは病態が異なるものです。診断が容易でないため、診断治療の遅れから、イレウス、発達障害を起こす場合もあり、速やかな診断と治療の実践のために、指針として出されました。今後、知見の積み重ねによって、病態がより明らかになってくるものと期待されます。
私たちも今年に入って、重症2例と軽症1例の計3例を経験し、この疾患がより広く認知されるべきだと考えています。10月27日付の朝日新聞にも「ミルクアレルギーの赤ちゃん増 500人に一人、治療は可能」の小見出しで、報道され、新しい疾患概念として定着しつつあります。
症例報告(2重症例、1軽症例)
症例1 5月10日生まれ 41週0日 3065g AS8/
生後2日目から嘔吐を繰り返す。その後も、嘔吐と腹満が続き、哺乳がまったく進まないため、中心静脈カテを挿入し、アミノ酸栄養輸液開始。 生後7日目からニューMA1ミルクを開始、哺乳は順調に160ml/kgまで増加、MA-miに変更したところ再び嘔吐が始まり、生後17日目で大阪府立母子センターに転院。エレンタールPと母乳で栄養摂取が可能となる。
症例2 5月31日生まれ 40週1日 3294g AS8/9
新生児入院中、哺乳は増加し、6月5日産科を退院。退院翌日の6月6日から嘔吐が始まり、6月7日嘔吐が続くため入院。TPNを行いながら、エレンタールP投与を試みるが、緑色胆汁嘔吐になり、大阪府立母子センター転院。転院後も経腸栄養摂取が進まない状態が続く。
症例3 10月20日生まれ 37週2日 2986g AS9/10
生後8時間から、ミルク開始、生後2日目(10月22日)には1回量が20~30mlになったところで、粘血便が続くようになる。全身状態は良好。ブドウ糖輸液を行い、絶食とする。10月25日血便は消失、母乳10ml/回から開始し、順調に増量中。
「指針」による診断と治療の手順の5つのステップ
  • Step1 : 症状から本症を疑う
  • Step2 : 検査による他疾患との鑑別
  • Step3 : 治療乳へ変更し症状消失を確認
  • Step4 : 1ヶ月ごとに体重増加を確認
  • Step5 : 確定診断および離乳食開始のための負荷試験
Step1.
症状から本症を疑う
哺乳開始後の嘔吐、血便、下痢、腹部膨満、不活発など。血便のみがみられ、全身状態が良好な群はFood-protein induced proctocolitisという病名で呼ばれ、緊急性は低い。(症例3はこれに当たる。)
Step2.
検査による他疾患との鑑別
壊死性腸炎、消化管閉鎖、新生児メレナ、ヒルシュスプルング病、その他との鑑別。
検査では、リンパ球刺激試験(研究班に依頼)、便粘液細胞診で、好酸球が石垣状に見られる、末梢血好酸球が+3SD以上の高値、牛乳特異IgE抗体(陽性率32%)、など。
Step3.
治療乳への変更
牛由来ミルクで発症した場合は母乳、母乳で発症した場合は加水分解乳、アミノ酸乳を選択する。
Step4.
Step5.
省略しますが、負荷試験の方法について、詳しく解説しています。
「指針」による治療乳選択のアルゴリズム(牛ミルク由来で発症した場合)
牛ミルク由来で発症
まとめ
新生児期、乳幼児期に、主としてミルク摂取後に、血便、嘔吐、腹部膨満、下痢などの消化器症状を認めた場合に疑います。壊死性腸炎(NEC)、消化管感染症、外科的疾患の鑑別は重要です。鑑別診断をしっかり行ったうえで、臨床判断でミルクを除去し、母乳、治療乳(エレンタールP、エレメンタルフォーミュラ、MA1など)に切り替え、改善したのち、再悪化の危険を考慮しながら、抗原負荷試験で診断することになります。
過去に、数週間血便を繰り返したベビーや、腹満が続くベビーで、そのうち改善した症例を数例思い出しますが、それらは、今回取り上げた疾患であった可能性があると考えられます。血便の場合は、便培養とPIVKA及び凝固機能検査、K2投与を繰り返し行ったりしましたが、今後は便粘液中の好酸球や、治療乳への変更などが対処法のレパートリーとして加わることになります。
多くの症例が1歳までに自然寛解し、ミルクを摂取できるという特徴もあり、アレルギーで説明することが困難で、「未熟な消化管に起こった一時的な好酸球性炎症」と理解し、「新生児ミルク誘発性好酸球性腸炎」などの呼び方も提唱されています。今後のエビデンスの集積と更なる病態の解明が期待されます。
参考 :
「ハイリスク新生児入院施設における新生児ミルクアレルギー疑診時の診療の手引き」2009.4 厚生労働省研究班
「新生児・乳児消化管アレルギー診断治療指針」2010.1.11 新生児-乳児アレルギー疾患研究会  http://www.fpies.jp/
「新生児ミルク誘発性好酸球性腸炎」
高増哲也 日本醫亊新報 No.4507(2010/ 9/ 11)