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阪南中央病院小児科のトピックス
小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶
比較的珍しいことですが、学童・幼児の化膿性筋炎と化膿性関節炎の入院がありました。筋肉・骨・運動器の炎症性疾患としては、骨髄炎、関節炎、筋膜炎、筋炎があります。多くは、MRSAが原因とされています。軟部組織の細菌感染症では、注意すべき疾患としては、A群溶連菌による劇症型溶連菌感染症(溶連菌性筋膜炎)があります。小児科と整形外科の協力で対処しています。
症例1 化膿性筋炎(左腰椎部脊柱起立筋炎) 7歳 男
受診までの経過
2010年10月 左腰部の痛みを訴え(第1病日)、近くの整形外科医院受診、骨には異常がないと言われ経過観察となる。第2病日、腰部の痛みは激しくなり間歇的に泣き叫ぶほどとなる。第3病日、腰部の痛みのため体幹の運動制限が著明となる。39.9℃の熱で小児科クリニック受診。白血球14500、CRP7.3mg/dlでご紹介いただく。
初診時の所見
左腰部に限局する痛み、圧痛あり。腫脹はあるが、皮膚発赤はない。
腰部MR検査 L2~5の部位で、左傍脊柱筋(脊柱起立筋)にT2 highの炎症所見
咽頭:溶連菌(-) 血液検査(細菌は検出・培養されず) CPK:49IU/l
表在超音波検査:L2~5の左側、傍脊柱筋内に、小さいAbcess Echoと周辺の高エコー化、炎症性血流増加を認める。
診 断
化膿性筋炎、または筋膜炎
鑑別診断と治療、抗生剤の選択
MRSAによる化膿性筋炎、劇症型溶連菌感染症の可能性などを考慮。
この症例では、empiric therapyとして、PAPM/BP+CLDMの併用を選択。
入院後の経過
入院日(第3病日)と翌第4病日は高熱であったが、第5病日以後下熱、腰部の痛みも徐々に軽減。
CLDM6日間、PAPM/BP20日間投与。CRP0.2mg/dlおよび血沈15mm/hが1週間持続した時点で、抗生剤のDIVを中止、経口抗生剤(CFPN-PIフロモックス)に変更し退院。原因となる菌は検出されず、ASLOの上昇も認めず。
第45病日:疼痛(-)、運動制限(-)、CRP<0.2mg/dl、白血球数8000で治療終了。
腰部表在超音波検査所見
症例2 左化膿性股関節炎 6歳 女
2010年11月 左股関節痛と歩行困難で、第3病日にご紹介いただく。左股関節に関節液の貯留を認める。
CRP5.4mg/dl、白血球11300(好中球74%)、関節穿刺:白血球数35600/μl(好中球87%) 関節液、血液からは菌は検出されず。
股関節:掻破、洗浄し、ドレーン留置
診断
左化膿性股関節炎
治療
MRSAによる化膿性股関節炎を考慮し、VCM+CLDMで治療開始。第12病日VCM10日間使用で、CRP0.8mg/dl、白血球7800に改善。リネゾリド(ザイボックス)DIVに変更。第15病日、ドレーン抜去、現在治療中。
筋肉・骨・運動器の化膿性疾患
化膿性運動器疾患としては、骨髄炎、化膿性関節炎、化膿性筋炎、劇症型溶連菌感染症(壊死性筋膜炎)などの鑑別が必要となります。水痘後の合併症として、軟部組織の化膿性疾患が引き起こされることがありますが、水痘の罹患数に比べると稀なものです。
誘引なしに発症するものが大半で、文献検索による最近の報告では、溶連菌による上肢の化膿性筋炎、腓腹筋内側頭に生じた化膿性筋炎、多発した化膿性筋炎と壊死性筋炎(MRSA)、化膿性股関節炎と思われた化膿性筋炎などの報告が散見されます。原因菌としては、MRSAであったとの報告が殆どで、一部が肺炎球菌、溶連菌、(5歳までならHibも考慮)でした。
起炎菌としてMRSAが大半を占める現状では、empiric therapyとしては、PAPM/BP+CLDM、VCM+CLDMを選択せざるを得ない状況にあります。
「小児科学レビュー2010(総合医学社)」のレビューで、Cli.Infect.Dis 48:1201-1210 2009の論文が紹介されています。小児の化膿性関節炎に対する10日間の経静脈的治療(+短期の経口薬投与)と30日間の経静脈治療との比較試験の報告です。短期投与ではCRPが2.0mg/dl未満を満たせば抗生剤を中止し、経口セフェムに変更。結果は両群同等の効果であったと報告されています。短期での治療終了には勇気が必要で、今後のエビデンスの集積を期待します。
劇症型溶血性連鎖球菌感染症
A群連鎖球菌感染症のなかで、もっとも重篤で、敗血症ショックを起こし、致命率が高い疾患です。まだ、経験した事はありません。感染症法では五類全数把握対象疾患で、診断したら報告の義務があります。発症したら数十時間でショック状態に陥り、軟部組織壊死に拡大し、DICやMOFに進展します。
ショックへの治療、壊死組織切除(debridement)が必須です。抗菌薬としては、ペニシリン又はβラクタム剤にCLDMを併用するのが標準治療です。CLDMが併用される理由は、①ペニシリンと異なり非増殖状態にある菌にも作用する、②菌の外毒素やM蛋白産生を抑制する、③単球からのサイトカイン産生を抑制することなどからです。また、γグロブリンの投与も行います。
RED BOOK(2009)では、Streptococcal Toxic Shock Syndrome with Necrotizing Fascitisの病名が採用されています。抗菌薬治療としては、細胞膜の形成を抑制するbacteriocidalな抗菌薬で、βラクタマーゼ抵抗性ブドウ球菌にも有効な抗生剤の最大量および酵素、毒素、サイトカインの産生を蛋白合成レベルで抑制する薬剤(クリンダマイシン)の併用が示されています。現状では、PAPM/BP+CLDMということになります。