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阪南中央病院小児科のトピックス
小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶
臨床現場でのマイコプラズマ肺炎の流行
昨年10月頃から、マイコプラズマ肺炎の増加があり、当院での入院症例も増加しています。過去1年間の入院統計の中から、マイコプラズマ肺炎が主病名の症例数です。
これと軌を一にしたように、国立感染症センターの感染症発生動向調査・週報(IDWS)でも、2010年10月13日集計以来、2011年7月までの週報で、毎週「過去5年間を上回る流行がある」ことがコメントされ続けています。小集団での密接な環境で感染するとされる肺炎マイコプラズマが、局地的な小流行でなく、全国的な広がりで流行していることを示しているようです。
実感のなかったマクロライド耐性化の進行
昨年(2010年)秋以来の当院でのマイコプラズマ肺炎は、マクロライド治療への抵抗例が多く見られるようになり、治療が長期化する症例を実感するようになりました。耐性化が進んだことと、流行で症例が増えたことによると考えられますが、過去の流行と様子が違ってきています。
マイコプラズマのマクロライド耐性株は、2000年以降、日本でも分離されるようになり、小児では、40%にも及ぶとの報告がなされています。耐性機構はマイコプラズマの蛋白合成系23SリボゾームRNA(23SrRNA)のドメインⅤの点変異によるものと解析されています(2063位のA→Gと、2064位のA→G)。この変異により、マクロライド薬が菌のリボゾームの作用点に結合できなくなり耐性が生じるとされています。
しかし、in vitroでの耐性化の確認後も、これまでの臨床現場ではマクロライド薬は有効であり、耐性化の進行は現実には感じられませんでした。このことは、マクロライドの免疫修飾作用(サイトカイン抑制作用)が治療効果に反映されているからであろうと推測されていました。
医療現場での耐性化の実感
7歳以下の入院23症例中6症例がマクロライド抵抗性
マクロライド耐性化が報じられていても、白血球が10000以下で、好中球増多を示さず、CRPも高値とならない肺炎は、マクロライド薬投与で、『歩いて』帰宅し、walking pneumoniaの名の通り、歩き回りながら治癒に向かうことが期待できました。胸痛が強い、咳がひっきりなしなどで入院を余儀なくされる場合でも、マクロライド経口投与でほとんどが治癒に向かい、耐性化の実感はありませんでした。(流行がなく、症例が少なかったためかもしれません。) しかし、昨年からのマイコプラズマ肺炎は、実際にマクロライド薬に抵抗性で、臨床上の耐性化の進行を実感させるものとなっています。入院したマイコプラズマ肺炎のうち、ミノサイクリン投与を避けたい8歳未満児は23人、そのうちマクロライド薬で改善せず、ミノサイクリンを投与した症例が6例(26%)ありました。
耐性菌の趨勢
小児呼吸器感染症診療ガイドライン2011によると、2000年に札幌でマクロライド耐性肺炎マイコプラズマ(macrolide-resistant Mycoplasma pneumonia)がはじめて検出されて以来、2003年(4%)、2004年(12.5%)、2005年(13.8%)、2006年(30.6%)、2007年には40%をこえ、年々増加してきています。
マクロライド耐性肺炎マイコプラズマの増加は世界的な現象で、フランスで9.8%、アジアにおいて進行が早く、上海、北京では耐性株の分離率が90%であると報告されています。今後、小児科医が取り組む厄介な疾患になってくる可能性があります。
小児用ニューキノロン期待と乱用への警鐘
7歳以下では、ミノサイクリンの使用をできるだけ避けたいので、ニューキノロンに期待がかかります。実際、当院でもニューキノロンを使用する症例が増えてきています。8歳未満のマクロライド薬投与で改善が得られなかった29人中、5人をトスフロキサシンで治療しました。又、ミノサイクリンによる吐き気、ふらつき、薬剤熱などの副作用発現の際にも有用です。
トスフロキサシン小児用顆粒(12mg/kg/日、分2)については、重症例にたいする切り札として保存すべき薬剤で、決して乱用すべきでないとの正論・警鐘を、耐性化の進行の中でどのように実現するのか、現場での慎重な判断が必要とされています。
治療の実際
マイコプラズマ肺炎を疑った場合の治療はファーストラインはあくまでもマクロライド薬
(EM、CAM、AZM)
治療は7~10日(AZMは3日)
臨床症状と血液検査が改善すれば、レントゲン検査での肺炎像の消失まで抗菌薬を継続する必要は
ない。
48時間以内に解熱しない場合、ミノサイクリンまたはトスフロキサシンに変更
経口服薬が不可能な場合
クリンダマイシン(5~6mg/kg/回、1日3~4回)または、 ミノサイクリン
重症例、治療抵抗例
短期のステロイド剤の併用を考慮
肺炎患者で同居家族がマクロライド耐性マイコプラズマ肺炎の場合
マクロライド薬は使用しない
マイコプラズマの病態のまとめ
  • 病原体のリザーバー : ヒト(感染者または健康保因者)
  • 飛沫感染
  • 潜伏期 : 2~3週
  • 細胞壁を持たないためβラクタム系薬は無効
  • 気道線毛上皮に接着、上皮表面を遊走する性質が特徴、気管支から直角に分岐する側枝(娘枝)に容易に感染し、炎症領域が拡大していく。細胞障害性は弱い。
  • 菌の細胞膜表面のリポ蛋白は強力なサイトカイン誘導物質で、宿主の免疫応答反応を過剰に刺激し、肺炎および多彩な肺外疾患(スティーブンスジョンソン症候群など)を起こす。重症例にステロイド剤が有効な理由でもある。(当科ではこの1年間でITP合併1例)
参考 :
・小児呼吸器感染症診療ガイドライン2011 日本小児呼吸器学会・日本小児科学会
・日本医事新報No.4507(2010年9月11日) 「マイコプラズマ肺炎の特徴と話題」
・小児科ピクシス25 小児感染症 中山書店(2011.1)
・小児耐性菌感染症の治療戦略 医薬ジャーナル社(2011.4)