阪南中央病院

阪南中央病院小児科のトピックス
小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶
日本の結核の現状
2010年の日本の結核罹患率は、人口10万対18.2になり、減少を続けており、小児結核は、2009年新規登録患者が73名で、著しい減少を示しています。しかし、欧米先進国の結核罹患率は5前後で、それに比べると約4倍で、依然としてかなり高い値を示しており、「中等度蔓延国」に位置づけされます。なかでも大阪は、大阪府29.9、大阪市42.2で、都道府県別、市町村別ともに、全国ワースト1を続けているのが現状です。私たちの周りでも減少傾向にあるとはいえ、院内感染や新生児の結核などの話題で、結核が身近に感じられる状態は続いています。
院内感染・医療事故報道事例
集団感染は、厚生労働省の資料で、39%が事業所で、23%が学校等で、21%が病院で発生しています。病院に配信される医療事故報道事例でも、毎月数ヵ所での結核院内感染事例が報道されてます。2012年7月の最新のものでは、一つの医療機関で入院患者5人が発症、他の患者と職員26人が感染した例や、別の病院の認知症病棟で、78人感染、3人死亡が報道されています。
結核の院内感染を起こさないためには、結核を見逃さない診療と職員の感染管理、健康管理が重要です。
「2週間以上持続する咳」 → まず、結核か百日咳を疑う!
2週間以上続く咳の患者さんには、結核または百日咳を必ず疑う必要があります。入院時や検診では結核を否定しなければなりません。「肺結核の胸部X線所見は多彩」で、「どのような陰影であっても、結核の可能性を検討すること」が求められます。
小児と新生児の結核
BCG接種前の乳幼児は結核菌に未感作で、結核菌に対する細胞性免疫と遅延型過敏反応が未成立であり、この状態で結核菌に感染すると、感染と同時に発症し、血行性に結核菌が播種され、髄膜炎、粟粒結核、浸潤型結核性肺炎などに進展します。乳幼児の結核は全国統計で年間100例以下になっていますが、急速に進展することに注意する必要があります。primary complex→latent tuberculosis infection(LTBI:潜在性結核感染症)=化学予防→発症=治療 の経過をとる成人型の慢性経過とは異なります。
今年6月13日の大阪新生児相互援助システム(NMCS)の例会で、日令18に発症した新生児結核の報告がありました。感染経路は、①母親の結核→血行性に胎盤感染→胎児感染、または②母親の子宮付属器結核→出生児の産道感染が考えられます。生後1週間前後の熱では新生児ヘルペスを否定しなければなりませんが、生後2〜3週後の熱、呼吸障害、肝脾腫には結核を鑑別診断に入れなければならないことを示しています。
小児と新生児の結核
ツベルクリン反応による化学予防と治療基準
有力な診断のための検査法です。日本結核病学会から示されている基準は以下の通り。
  • ツベルクリン反応検査の結果に基づく措置のための基準 (日本結核病学会予防委員会)
阪南中央病院小児科のトピックス
”結核感染が考えられる”、”結核感染の可能性が有意に大きい”有意な反応
なお、小児とくに乳幼児においてはこれよりも小さい値を基準として用いることが有用である
*原則として咯痰塗抹陽性患者との接触をする。ただしそれ以外でも感染性と考えられる患者との接触を含む
ツ反を、繰り返し行うことで反応が強くなるブースター現象があり、ツ反をくりかえし行う場合(感染者との接触後、2週間目のツ反のあとで、その数週間後に再検査を行う場合など)には、判定に慎重さが求められます。
また、BCG接種後は、陽転することで、ツ反による結核の診断が困難となる欠点があります。しかし、新生児~乳児期に接種を行った例では、7~10年経過するとその影響はほとんど認めなくなることも示されています。
QFT(QuantiFERRON TB Gold In-tube;QFT-GIT) 
小児での基準 12歳以上:QFT優先 5歳以上:ツ反優先・QFT併用
結核菌に感染し抗原感作されたメモリーT細胞からIFNγ産生を強く誘導する性質を持つ結核菌特異抗原を被験者の血液に添加・培養して、リンパ球から遊離されるIFNγの多寡により結核感染の有無を判定する検査法です。QFT-GITは、あらかじめ採血用試験管内に3種の結核菌特異抗原が添加されている製品です。
日本結核病学会からは「QFTは、小児については成人の判定基準は適用されない。12歳未満では低めに出る。」と報告されており、5歳未満ではツ反優先で判断、5~12歳ではツ反を優先しつつQFTを併用、中学生(12歳以上)では、QFTを優先することが現状でのコンセンサスとなっています。発病者との接触+画像所見で結核が強く疑われながら菌検出が陰性の場合、QFT陽性は診断的価値が高い、有力な検査法となります。逆にQFTのみの陰性で感染を否定することは不適切とされています。
BCGの効果と副作用
BCGの効果
BCGの粟粒結核・結核性髄膜炎に対する予防効果は86%とされており、現在の結核罹患率の状況下でBCGを中止した場合、5年後には0~4歳の発病者は現在の41人から230人に増えると推計されています。罹患率が、欧米先進国の4倍の現状では、BCGのメリットが不利益を上回ることになります。今しばらくBCG接種は継続する必要があります。
しかし、BCGには特異的な副作用があり、BCGの続行が必要な現状では、その副作用についても熟知しておく必要があります。
BCGの副作用
A.
真のコッホ現象
2週間以内にツ反実施 10mm以上なら、感染または発病!
BCGは通常、接種後3週間経過した頃から接種部位の針痕発赤が出現、膿疱化し、約2ヶ月で消褪する経過をとります。これが正常反応ですが、結核既感染者にBCGを接種した場合には、この局所反応が接種後2週間以内にみられます。これをコッホ現象と呼び、結核感染者を示す根拠となります。コッホ現象を示した子どもには、BCG接種2週間以内にツ反を行い、発赤径が10mm以上の場合、真の「コッホ現象」として、化学予防か治療に進むことが必要です。
偽コッホ現象
真のコッホ現象に対して、1週間以内で消失する非特異的な反応があり、これを偽コッホ現象と呼びます。「真のコッホ現象」では、①針痕部の発赤が翌日に出現する ②コッホ現象をきっかけにして発病が判明した症例では、発赤は1ヶ月以上消褪しない ③針痕部の発赤に加えて1カ所以上の硬結または化膿疹が出現する、などの特徴があるとされています。

B.
腋下リンパ節腫大
3cm以下のものは治療を必要とせず、自然縮小を期待して経過観察です。
腋窩リンパ節腫大は、時に見られる副作用です。最近、哺乳不良・体重増加不良の乳児で、BCG接種後、腋下リンパ節が約1.5cm腫大を示した乳児があり、基礎疾患の有無を検討いただくために、大阪府立母子保健総合医療センターでみていただいたところ、ウイリアムス症候群(第7染色体異常)との診断をいただきました。経鼻胃チューブからミルクの補充を行い、体重は増加し、栄養状態が改善し、結果、リンパ節も小さくなってきています。

C.
皮膚結核様病変
統計上、年間20例程度が報告されています。今年1月生まれで、5月9日にBCG接種を受け、7月初めBCG痕は痂皮形成、7月中旬から、体幹に数十個の1~2mmの丘疹が出現、同時にBCG痕部から再び浸出液漏出がみられ、皮膚科で皮膚結核様病変と診断された症例を経験しました。投薬等なしで、観察中です。

D.
播種性BCG感染症(播種性BCG炎) 及び BCG骨炎
2001年播種性BCG炎例を経験しました。2月BCG接種、4月約3cmの膿瘍化した腋下リンパ節が皮膚に瘻孔を形成、同時期から頸部及び鼠径部に1.5〜1cmのリンパ節が多数出現、熱を繰り返すようになりました。腋下リンパ節膿瘍からの膿を結核予防会結核研究所で検査していただいたところ、BCG菌と確定。INH2週間投与で解熱せず、RFP併用で解熱。免疫不全・IFNγ/IL-12関連の検査を大学(関西医大、九大)で実施していただき、基礎疾患はなく、その後、感染症で重症化することなく成長しています。
また、BCG骨炎は、年間数例の報告が続いています。日本小児科学会雑誌2012年No.7にも症例報告が出ています。
以上のように、BCGの副作用報告が続くのは、今しばらくやむを得ない状況のようです。Doctor’s delayといわれる診断の遅れのないよう、結核を疑う習慣を持ち、結核の診断、コッホ現象及びBCGの副作用に対する迅速で正しい対処などを行っていく必要があります。