診療案内

Medical guidance

3ヶ月までの赤ちゃんの熱

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

3ヶ月未満児の熱の患者では、重症感染症であっても、「なんとなく活気がない、元気がない」など、非特異的でその徴候がとらえにくい場合が多く、例えトリアージにおいて全身状態良好と判断しても、重症細菌感染症の可能性が否定できず、慎重な対応が必要とされます。 ネルソンの教科書では、病巣を伴わない発熱(fever without unknown origin)の章で、以下の表が記載されています。

症例1) 生後7日 熱と哺乳力低下:GBS髄膜炎 敗血症

38週:
3910gで出生、母親がGBS+で分娩時に抗生剤の点滴を受けた。
生後4日:
産婦人科医院から退院
生後7日:
熱と哺乳力低下で、診療所を受診、ご紹介いただく。
活気がない、視線が合わない、筋緊張に異常はないが、四肢をあまり動かさない、大泉門:膨隆  ill-appearanceで、大泉門の膨隆あり、髄膜炎・重症感染症疑いで入院
髄液検査:キサントクロミー・混濁(写真)細胞数2706(多核球98%)
髄液G染色でG+レンサ球菌陽性(GBS)
白血球5300(好中球65%) CRP 3.43mg/dl フェリチン252ng/ml
細菌性髄膜炎(GBSによる)の診断でABPC 300mg/kg 分3 + CTX 200mg/kg 分3 2剤併用投与開始
生後8日:
両上肢の伸展けいれんあり、ミダゾラム投与 血液培養からもG+レンサ球菌陽性
CRP 21mg/dl 白血球22300(好中球72%)
生後9日:
哺乳可能となる。解熱傾向だが、熱は続く。経過は良好。
生後12日:
完全に解熱、哺乳力良好 髄液・血液培養結果からGBSの感受性テストを確認しABPC単剤に変更。合計3週間抗生剤投与。頭部MRI検査で異常所見なしを確認、退院。

化膿性髄膜炎は比較的稀な疾患ではあるけれど、身近に存在します。1ヶ月未満の新生児の熱に対しては、常に化膿性髄膜炎の可能性を考慮して診療に当たることを心がけています。

症例2) 生後16日 熱 哺乳不良 顔色不良:RSV細気管支炎 無呼吸発作

38週5日:
3040g出生 第4子 数日前、すぐ上の2歳児が熱と喘鳴を発症し、治癒。
生後16日:
夕方38℃ 哺乳力低下 咳、喘鳴は見られない。
生後17日:
受診のため当院へ向かう途中で、顔色不良。来院時、酸素飽和度70%
無呼吸発作を繰り返す。胸部レントゲン:右上葉無気肺または肺炎 RSV(+)
RSV感染症による細気管支炎・無呼吸発作の診断で入院。
High flow nasal canulaを酸素50%、flow 2L/kg/分で開始するも、肋骨下部の陥没呼吸は改善せず、呼吸不全に陥る危険性が高いと判断し、3次救急病院へ搬送。

3次救急病院でNPPV実施にもかかわらず無呼吸発作が続き、気管内挿管、ventilator装着、入院10日で抜管、退院。
RSウイルス感染症はどの季節でも小流行はありえますが、12月~3月は、3ヶ月未満のRSウイルス細気管支炎発症の特に危険な時期となります。ワクチンがない現状では、乳児期早期の流行性疾患の中で、頻度が最も高く、最も危険な感染症の一つです。

症例3) 生後43日目の熱:インフルエンザA

母が4日前から熱でインフルエンザAと診断されている。

第1病日:
軽い咳、熱、当院外来受診。咽頭軽度発赤。胸部レントゲン:肺炎なし
白血球5600(好中球21.7%)CRP 0.15mg/dl ill-appearanceでない。
インフルエンザ疑いで、観察入院。
第2病日:
39℃代の熱、インフルエンザA(+)。全身状態の悪化なく、抗ウイルス薬は投与せず、輸液のみで観察。
第3病日:
38℃代の熱、哺乳良好。自然治癒を期待できるとして、退院、外来観察。

母親が感染したとき、赤ちゃんへのインフルエンザの感染を避けることは困難です。幸い、この症例は軽症に経過しました。

症例4) 生後2ヶ月 熱と湿性の咳:細菌性肺炎

託児園児 数日間、咳が続き、湿性の咳となり、熱発。発熱翌日、当科受診。
胸部レントゲン検査で右上葉の肺炎。
CRP 3.4mg/dl 白血球12400 インフルエンザ(-) RSV(-)
CTRX投与で、翌日解熱し、軽快する。

ヒブ、肺炎球菌ワクチンにより、これらの細菌による侵襲性感染症は減少していますが、ワクチンの恩恵にあずかれない早期の乳児には、依然として危険な細菌性肺炎の発症があります。初期の乳児ではこの症例のように重症化する場合を想定して早期の対応が必要です。

症例5) 生後4ヶ月 不明熱のまま退院 次の熱発で尿路感染症と診断

生後4ヶ月:
病巣不明の熱 CRP 8.2mg/dl 白血球22300
尿検査:蛋白(-) 潜血(-) 尿中白血球 1~4/HPF  髄液検査:異常なし病巣を特定できないまま、細菌感染症としてCTRX投与を行い、7日間入院。
尿路感染症に準じて、合計2週間の抗生剤投与(経静脈投与6日 経口8日)
生後5ヶ月:
高熱が4日続く。尿蛋白(-) 潜血(-) WBC 5~9。
CRP 5.6mg/dl  白血球19200  尿路感染症の疑い診断で経静脈的抗生剤投与。
入院2日目の腹部エコー検査で、一過性の水腎症をとらえる。VURが原因の上部尿路感染症と診断。(あんしんねとわーく2016年4月号症例)

その後も、尿路感染を繰り返し、右腎の瘢痕化が疑われ、両側のVURの存在を確認して、大阪府立母子総合医療センター泌尿器科にて膀胱尿管新吻合術を実施していただきました。乳児期の熱には、尿路感染症を考慮すること、尿路感染症の診断にはカテーテル尿を採取し、白血球数と細菌培養による起炎菌検索を行うことをこころがけています。

ウイルス感染による敗血症 特にパレコウイルス感染症(HPeV感染症)

乳児期初期では軽症と思われるウイルス感染症といえども侮れません。今年(2016年)の小児救急医学会で発表された「緊急対応を要した3ヶ月未満のウイルス感染症6例の検討」では、頻脈、末梢循環不全徴候を伴い、ショック状態であった6例のうち、3例がHPeVで、その他コクサッキーV、エコーウイルス、ライノウイルスが各々1例と報告され、HPeVの危険性があらためて指摘されました。HPeVは新生児~乳児期初期にウイルス性敗血症、脳炎・脳症をおこす危険がある危険なウイルス感染症です。HPeV-3型は春~夏、HPeV-1型は秋~冬に流行することが多いと報告されています。 有熱の新生児、幼弱乳児での手掌・足底紅斑は、HPeV-3の有力な根拠になること、高フェリチン血症がHpeV感染症に特徴的な所見とされます。