診療案内

Medical guidance

乳児の房室回帰性頻拍・WPW症候群

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

生後36日目の頻拍 心拍数320回/分

38週4日 :
3040g AS 6/9で出生し、順調に発育。1ヶ月健診で問題なし
生後35日 :
哺乳量が低下し、いつもは120ml哺乳できるのに、50~100ml程度に低下、哺乳間隔も5時間以上、長引くようになった
生後36日 :
午前6時に70ml飲んで、それ以後哺乳しないとの訴えで、13時受診した。心拍320回/分 酸素飽和度100%で、一見ではやや元気がない程度であった。

「脈拍があり循環が良好な頻拍のアルゴリズム:小児二次救命処置(PALS)」による評価法

  1. 基礎疾患を特定し治療:気道確保、必要に応じて呼吸補助、酸素、心電図・血圧・酸素飽和度のモニタリング、可能なら12誘導心電図)
  2. QRS時間を評価 : 0.09秒以内か 0.09秒より長いか
  3. リズムを評価 : RR間隔に変化があるか

narrow QRS=上室頻拍と考えられる!

心電図 :
narrow QRSを示す。
心臓超音波検査 :
300回/分以上の頻脈 両室拡大 左室収縮能は保たれているが、頻脈のため心拍出量は低下していると思われる。 心奇形なし

生後36日目で、意識は正常で、体動もあり、循環状態は保たれているように見えるが、前日より哺乳不良があり、良好な全身状態とはいえないことから、酸素カニューレを準備し、小児循環器・不整脈専門医(大阪府立母子保健総合医療センター・循環器科)に相談したところ、まずATP投与を行うよう助言いただく。

ATP bolus投与で、頻脈は屯坐

PALSによると、ATP投与量は0.1mg/kgから始め、効果のない場合0.2mg/kgに増量投与とされている。ATP 1mg(約2mg/kg)投与を推奨いただき、bolus投与。投与1秒後に、頻拍は屯坐し、数秒間60回/分の心室性徐脈を経て、150回/分の洞リズムとなった。

ATP投与の瞬間の拡大

WPW症候群による房室回帰性頻拍 (AVRT : atrioventricular reciprocating tachycardia)

洞リズムにもどった状態で、3次病院に搬送。3次病院では、インデラルを開始、頻脈発作を2回認めたが、その後発作はなく、WPW症候群の診断で、5日後に退院されたとのご報告をいただく。
ATP投与後に洞性リズムに戻った後の当院での心電図、ⅡⅢaVFで、デルタ波を認めていた。

上室頻拍の鑑別診断と治療

小児循環器学会の小児不整脈ガイドラインによると以下のように分類されている。

  • 房室回帰頻拍で、房室結節を順伝導するタイプは、潜在性の副伝導路を逆行し回帰する。日常の心電図ではデルタ波を認めない。
  • 房室結節を逆伝導するタイプは、電気刺激は顕性の副伝導路を順行し、房室結節を逆行する。このため、心室の部分的早期収縮によるデルタ波が生じる。
  • 房室結節リエントリー性頻拍(AVNRT : atrioventricular nodal reentrant tachycardia)は、房室結節内で伝導速度の遅い線維と早い線維がある場合に起こり、電気刺激がslow fiberを順行し、fast fiberを逆行する小さな回路が形成されることで生じる。
  • WPW症候群の薬物治療としては、乳児以下では、βブロッカー、ATPが使用される。乳児ではCaチャンネル遮断薬は心停止を生じる可能性があり、一般的には使用されない。乳児期初発の房室回帰頻脈患者の約70%は自然寛解する。この症例の場合、自然寛解も期待でき、カテーテルアブレーションの適応とはならないが、その適応は拡大しつつあり、重症例では1歳以上が適応とされる。(接合部異常による頻拍に生後4ヶ月からの実施・成功例の報告がある。)