診療案内

Medical guidance

軟部組織、運動器の細菌感染症・膿瘍

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

症例1 左側頸部膿瘍 生後28日 男児

40週3日 3214g ApS:9/9 出生
生後28日 熱発とともに左頚部の腫脹が出現。その前日から哺乳量が減少し、不機嫌であった。Hクリニックの午後診を診察受診し、18時過ぎ、ご紹介にて当院を受診。
左頚部に大きな皮下腫瘤、皮膚の発赤は認めない。
表在エコー検査:甲状腺の左側に30mmのカプセルに包まれた嚢胞:内容物は粘稠で、膿瘍を疑わせる。
CRP 10.5mg/dl 白血球21,800(好中球57.4%)
先天性頸部嚢胞の膿瘍化と判断。エコーガイド下で穿刺・排膿を実施。約15mlの黄白色の膿汁を吸引 塗抹でグラム陰性球菌 ― 培養でM(B).catarrhalis
抗生剤(MEPM)投与。翌日、解熱するも、膿瘍は再び元の大きさに拡大したため、大阪府立母子保健総合医療センター外科に転院していただく。
転院先では、抗生剤(ABPC/SBT)で、膿瘍は一旦軽快。梨状窩瘻を疑い、約2週間後に、頚部膿疱切除術をうける。梨状窩瘻は確認できず、病理所見は胸腺嚢胞、または甲状腺嚢胞の組織像とのご報告をいただく。

頚部嚢胞としては以下の3種類の嚢胞・瘻孔があります。

  • 正中頸嚢胞
  • 側頸瘻:第1鰓裂―顎下腺部、第2鰓裂―胸鎖乳突筋前縁下1/3に瘻孔、大部分は第2鰓裂由来
  • 梨状窩瘻:小児外科学会のHPには以下の記載があります。
    「小児にみられる頸部の疾患のうち、梨状窩瘻は比較的最近まで原因が分からなかったものです。頸部の真ん中よりやや外側に膿瘍瘻孔ができ、治ったり再発したりを何度も繰り返します。正中頚嚢胞や側頸瘻と区別する必要があります。のどの奥にある梨状窩という所から細い管が甲状腺に向かって伸びていることからこの名前がつけられました。左側に多く、急性化膿性甲状腺炎の原因としても重要な疾患です。」

梨状窩瘻が強く疑われた症例でしたが、その確認ができず、病理組織診断は胸腺または甲状腺嚢胞の診断となりました。

症例2 右下腿筋膜下膿瘍 1才5ヶ月 男児

第1病日:
熱、立位を嫌がる、立てなくなる
第2病日:
インフルエンザ迅速検査でインフルエンザA(+)、タミフルの処方を受ける
第3病日:
38℃以上の熱が続き、右下肢を触れると痛がる。CRP 3.16mg/dl 白血球9,700
第11病日:
熱と右下肢の痛み、歩行不能で、ご紹介にて当院入院。右下腿に腫脹あり、触れると痛がる。CRP 11.9mg/dl 白血球19,300。経静脈的にCTRX投与。
第14病日:
MRI検査:右下腿の腫脹、皮下組織の浮腫を認める。腓腹筋の腫脹、信号上昇を認める。整形外科と共観で、膝窩部をエコーガイドで穿刺、少し赤みがかった黄白色内容物1.5mlを採取。グラム染色:菌(-)。筋膜下膿瘍と診断、抗生剤はCEZ+CLDMに変更。以後、腫脹・疼痛は徐々に消失。
第20病日:
下肢の動きは改善。CRP 0.06㎎/dl
第23病日:
歩行可能となる。経静脈的抗生剤投与終了。抗菌薬をCLXにoral switch

軟部組織感染症は黄色ブドウ球菌とA群連鎖球菌(GAS)の可能性が最も高く、劇症型連鎖球菌感染症は予後不良で、早期のデブリが必須となります。骨関節感染症(関節炎、骨髄炎)の起因菌はブドウ球菌が最多で、インフルエンザ菌、大腸菌、サルモネラ、連鎖球菌(GAS、GBS)、腸球菌などです。培養陰性ではKingellaを考慮する必要があります。抗生剤使用前の起因菌検索と起因菌に向けた適切な抗菌薬治療が、長期(4~6週、MRSAの場合はより長期)に必要です。

症例3 側腹部腹直筋膜下膿瘍 アトピー性皮膚炎 5ヶ月 男児

重症のアトピー性皮膚炎とそれによる低アルブミン血症(1.4g/dl)の乳児で、母親が左側腹部の腫瘤に気付いて当院受診。CRP 0.69㎎/dl。 左側腹部皮下に波動を伴う約30mmの嚢胞を触知。隆起皮膚の発赤は認めない。
エコー検査:腹直筋膜下に30×20×10mmの嚢胞、内容は不均一な低輝度。周辺組織の炎症を疑わせる輝度の上昇は軽度。
穿刺・排膿:約5mlの黄灰白色の膿汁を吸引 検鏡ではグラム陽性球菌、連鎖状とブドウ状が混在(培養結果からは GAS)
CEZ投与、治療中に膿培養結果がGASと判明しましたが、皮膚からはMSSAとGASが検出されたため、CEZのまま1週間投与を継続。膿瘍は縮小し、oral switchでCFDN(セフゾン)を3日間投与し、治療終了。

CRPの上昇がなく、周辺の皮下組織、筋組織に炎症所見の乏しい腱膜下膿瘍でした。GASによる扁桃周囲膿瘍は最近でも多く発表されています。軟部組織・骨関節感染症は減少傾向にありますが、今なお、重要な位置を占めています。 溶連菌感染後急性糸球体腎炎は今年に入って2例経験しました。リウマチ熱の報告も散見され、溶連菌感染症を侮ってはならないと自戒しています。