診療案内

Medical guidance

RSウイルスと乳児の細気管支炎

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

はじめに

RSウイルス(Respiratory Syncytial Virus)は2歳までに、全ての子どもが1回は感染します。現在、一般的な手洗い、飛沫から逃れる以外に予防法がなく、細気管支炎が重症化することがあり、小児感染症の中で最も重要な疾患の一つです。2015~2016年のRSVシーズンも重症例を経験しました。
グローバルな問題でもあるRSV細気管支炎に対する総説がThe New England Journal of Medicineの1月7日号に掲載されました。2014年に発表されたアメリカ小児科学会のガイドラインを基本にしたものですが、これまでの知見が整理されており抄訳してみました。小児にとって負担(burden)が大きいこの疾患の最近までの研究成果がまとめられています。

無呼吸発作の生後19日の乳児

満期AGAにて出生 第4子

生後17日:
38℃ この数日前、すぐ上の2歳の兄が熱と喘鳴で治癒したばかり。
生後18日:
咳があり、受診のため、当院へ向かう車中で顔色不良に気付く。

来院時、酸素飽和度70%、徐脈を伴う無呼吸が断続的に起こる。
胸部レントゲン:右上葉無気肺 RSV(+) PCO2 68.6mmHg
RSV細気管支炎の診断で入院
high-flow nasal cannula(HFNC)、酸素50%を開始 しかし、肋骨下部の陥没呼吸と無呼吸発作を繰り返すため、ICU管理が必要と判断し、大阪府立急性期・総合医療センターに受け入れていただく。
府立急性期・総合医療センターでは、Nasal SIMV(NPPV) → 気管内挿管、人工換気管理に進み、多発性の無気肺を合併し、心臓マッサージも必要な状態を経て軽快し、抜管は入院10日後。入院14日で軽快退院。

生後17日のRSV細気管支炎の最重症例でした。このような症例は全国的に報告があり、RSV感染症の乳児への負担の大きさが問題となっています。乳児期初期のRSV感染は避けたいところですが、同胞からの感染の可能性は高く、兄弟がある家庭ではこの子のように危険に陥ることが起こります。

子どものウイルス性細気管支炎 総説

はじめに

ウイルス性下気道疾患以上に子どもの健康に大きな影響を与える疾患は数少ない。米国で最初の1年間に約80万人の子ども、出生した子どもの20%がRSVによる疾患で診療所を受診し、12ヶ月未満の子どもの2~3%が細気管支炎の診断で入院する。世界的には2005年のデータで、5歳未満児でRSV単独の原因で66,000人から199,000人が死亡したと推計される。この総説は、今日の細気管支炎の理解をまとめたものである。加えて、アメリカ小児科学会の細気管支炎の診断・管理・予防に関するガイドラインを要約する。

臨床症状

細気管支炎を罹患した乳幼児は、冬の数ヶ月に下気道症状を伴う2~4日間の微熱、鼻閉、鼻汁で医療機関を受診し、下気道症状は咳嗽、頻呼吸、呻吟、鼻翼呼吸、肋間および肋骨下部・鎖骨上窩の陥没呼吸を伴う。吸気性の湿性ラ音と呼気性喘鳴が聴診される。細気管支炎には種々の定義があるが、生後12ヶ月未満での最初の喘鳴のエピソードがあったとき、細気管支炎と名づけるのが一般的である。最初の2ヶ月以上の早産児では、無呼吸がウイルス性細気管支炎の初発症状のことがある。

原因ウイルス

分子標的技術の利用で細気管支炎の原因となる種々のウイルス群を特定することが可能になっている。RSVが50~80%、ライノウイルス、パラインフルエンザウイルスが各々5~25%、ヒトメタニューモウイルス5~10%、ボカウイルスは頻度高く検出されるが病原ウイルスというよりbystanderと考えられる。原因ウイルスの違いによる細気管支炎の臨床像の区別は一般的にはつけがたいが、ライノウイルスの細気管支炎はRSVの細気管支炎よりも入院期間が短い。

病原機構

ウイルスの直接的な侵襲と宿主の炎症反応、両者のかかわり
RSVにより引き起こされる免疫反応は、防御的(protective)反応と病原的(pathogenic)反応に区別される。初感染では抗体とT細胞反応の双方が誘導されるが、RSV表面の糖蛋白の抗原変化を検出する能力がないため、RSV再感染は生涯を通して起こる。RSVがどのようにして宿主の防御を回避し、抑制するかは完全には分かっていない。

1960年代に行われたホルマリン弱毒化RSVワクチンの比較対照臨床試験の結果では、ワクチン接種者に防御的免疫反応を誘導することはできなかったばかりか、RSVワクチン接種者がその後RSVの自然感染を受けたとき、比較対照のワクチン非接種者より疾患がより重症化した。このことから、RSVによる細気管支炎の病原機構は、ウイルス増殖による直接的な傷害に加えて、増幅された免疫反応によるものであると理論的に説明される。

RSVの病原機構については、ウイルスによる直接的な細胞傷害とウイルスに対する過剰な(robust)宿主の炎症反応の双方が寄与している。

危険因子

palimizumabによる予防の対象
RSV細気管支炎で入院する乳児のほとんどはリスクのない満期産児である。RSVによる入院の約3分の2は5ヶ月未満であることから、暦年齢は単独で、細気管支炎の最も重要な重症予測指標である。RSV細気管支炎による入院率は出生30日から90日が最も多い。これは、母体からの経胎盤性免疫グロブリンの濃度の低下に一致している。経胎盤性受動RSV中和抗体は満期の乳児で有効濃度に達する。母体免疫グロブリンの大半は第3三半期に移送されるので、早産児は最大量のIgG移送が起こるこの時期にはすでに出生している。この事実が早産児での危険の高さを説明するものと思われる。

29週未満の早産児、先天性心疾患などの合併症を持つ子どもは、より重症なRSV疾患になる危険性がある。

未熟児慢性肺疾患は機械的換気や高濃度の酸素による肺胞の欠損、気道の損傷、炎症、繊維化で特徴付けられる。このような肺損傷は、高い確率で重症の細気管支炎の危険性を増加させる。

血行動態的に異常のあるいくつかのタイプの先天性心疾患、特に肺高血圧やうっ血性心不全で生まれた乳児は 他の乳児に比べて重症細気管支炎の危険が大きい。

嚢胞性線維症、ダウン症候群のような他の疾患で重症細気管支炎の危険性が増加する可能性がある。

細気管支炎と小児気管支喘息

まだ未解明
乳児期初期の重症の細気管支炎は、喘息発症の危険性を高めることと関連がある。特にRSVとライノウイルス細気管支炎では、その関係が強い。乳児期初期の細気管支炎による侵襲が正常な肺の発達に変化を与え、喘鳴を繰り返す体質に変化させるのか、もともとある気道の免疫反応と気道の機能の変異が、重い細気管支炎と繰り返す喘鳴を起こすのか、初期の細気管支炎と繰り返す喘鳴との関係は未解決の問題である。

motavizumab(palimizumabより強力な第2世代のmonoclonal抗体)を2,696人の健康な、full term Native American 乳児に投与する前向き無作為プラシーボコントロール研究が行われ、入院、外来とも投与群と非投与群とでRSV関連下気道炎の有意な差を示した(motavizumab有利)。しかし、3年間の注意深い観察では喘鳴発症の差は認められなかった。この結果は、受動免疫でのRSV予防では、喘鳴を有意に減少させることはできないとのこれまでの考察に一致する。

支持療法

2014アメリカ小児科学会のガイドライン
細気管支炎による重い負担にかかわらず、治療法がないために、最適のケア法を決定することは難しい。細気管支炎の経過を短縮したり、症状の改善を早めたりすることができる治療法はない。治療は支持療法・保存的治療であり、大部分の子どもは治療法の如何にかかわらずよくなる。
子どもの細気管支炎の診断・治療基準を改善するためにAAPは、エビデンスに基づいて作成された診療ガイドラインを発表している。(表・次項)


総説に引用されたアメリカ小児科学会 細気管支炎の診断と管理ガイダンス

介入 推奨 コメント
診断のための検査
胸部レントゲン検査 ルーチンには推奨されない 疾患の重症度または悪化の危険性との相関は乏しい。同じ程度の無気肺や浸潤像に対して、不適切な抗菌薬使用が増えるとの研究結果がある。
原因ウイルスの検索 ルーチンには推奨されない 症状のある患者の隔離に役立つかもしれないが、感染制御対策はほとんどの呼吸器感染症で同じである。
治療
気管支拡張剤 推奨されない 無作為試験で病気の回復、入院の必要性、入院期間に関して一定の評価が得られない。
エピネフリン 推奨されない 大規模多施設無作為試験で細気管支炎の外来、入院での改善結果が示されなかった。
副腎皮質ステロイド治療 推奨されない 大規模多施設無作為試験で有益でないことが明瞭に示された。
高張食塩水吸入 考慮される 3%食塩水吸入は入院期間が3日を超える場合、軽度~中等度の細気管支炎の症状を改善する可能性がある。(ほとんどの入院は72時間未満)
酸素投与 ルーチンな投与は推奨されない(酸素飽和度が90%を超えており、アシドーシスを認めない場合) 一過性の低酸素血症のエピソードは合併症とは関係なく、健康な子どもでもある。
パルスオキシメーター管理 酸素投与が不必要な患者、酸素飽和度が90%を越えている患者では推奨されない。
酸素飽和度は呼吸障害の予知には適さない。ルーチンな使用で救急室管理および入院期間を長引かせる結果を生む。
胸部理学療法 推奨されない 深い吸引処置は入院期間の長期化と関連する。鼻咽頭の閉塞性分泌物の吸引除去は一時的には症状を改善させうる。
抗菌薬治療 ルーチンな使用は推奨されない 重篤な細菌感染症の危険性は少ない。ルーチンなスクリーニングには根拠がない。特に生後30~90日の乳児では。
栄養と補液 呼吸障害のある乳児では、水分摂取および栄養状態の観察のために入院が必要 経静脈的または経鼻的補液は行われてよい。

「 The clinical practice guidelines for the diagnosis and management of bronchitis in children 1 through 23 months of age 」 より

免疫的予防 危険因子を持つ乳児に 流行シーズン中に投与

palimizumabはRSV表面のfusion蛋白上の抗原決定基に直接作用するヒト化マウスIgG1モノクローナル抗体であるが、月1回RSV感染にハイリスクな乳児に予防投与される形で、1998年6月FDAにより認可された。危険因子を持つ乳児に限って、RSV流行シーズンに合わせて月1回投与される。

今後の方向性

現状では感染防御の教育 将来的には ワクチンおよび抗ウイルス薬の開発
RSVは毎年世界中でアウトブレイクし、安全で有効なワクチンが存在しない最後のウイルスの一つである。ワクチン開発のためにいくつかの方法が研究されている。

  1. 経鼻的弱毒化生ワクチンは局所免疫および全身性免疫を同時に刺激する。しかし、適切な弱毒化を達成することができておらず、完成には至っていない。
  2. サブユニットワクチンが開発されたら、抗体陽性患者には有効であると思われる。しかし、臨床治験前に、抗体陰性患者(特に抗体陰性の乳児)には疾患を増悪させる可能性があるという問題点が解決されなければならない。
  3. 第3のアプローチは、nonreplicating vaccineによる妊婦に対する免疫法である。RSV recombinant fusion protein nanoparticle vaccineの治験から、妊娠可能年齢の女性に安全で免疫原性があることが示されている。経胎盤的に中和抗体が移行するなら、生後1ヶ月の間は、乳児は予防されるであろう。このアプローチは、免疫反応が未熟な最初の数週間の乳児に対するワクチン投与を回避できる方法である。

安全で有効なワクチンが利用できるようになるまで、細気管支炎罹患の負担を減らすために、気道ウイルスへの暴露と伝播を減らすことにための教育に重点が置かれる必要がある。ワクチンおよびfusion inhibitorsやnucleoside analoguesのような抗ウイルス薬の開発のための新しい技術革新も重要である。

私たちの診療方針 ステロイド剤、β2刺激薬の投与は推奨されない

上の表のもとになる2014年アメリカ小児科学会の診断治療ガイドラインでは、入院での高張食塩水の吸入と輸液が支持療法として重要で、ステロイド剤の投与、β2刺激薬(プロカテロール:商品名メプチン、サルブタモール:商品名べネトリンなど)は推奨されない=投与すべきでないとされました。私たちもこれに習って、乳児期初期のRSV細気管支炎の入院患者には高張食塩水の吸入(3%食塩水2~4ml/回、1日4~6回)を部分的に取り入れながら、ステロイド薬を使用せず、輸液による支持療法を中心に経過を見守ることを基本にして対処しています。