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強い腹痛が先行し、腹痛が遷延したHenoch-Schönlein紫斑病

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

はじめに

Henoch-Schönlein紫斑病は、その病態として免疫にかかわるIgA抗体が関与する免疫複合体性血管炎の一つに位置づけられ、2012年にアメリカのChapel Hillで開かれた血管炎の国際会議でHenoch-Schönlein(ヘノッホ-シェーンライン)紫斑病からIgA血管炎に呼称が変更されました。現状では、HSP(IgAV)の呼称を使用することとします。

HSP(IgAV)は

  1. 触知できる紫斑(palpable purpura)―血小板減少や凝固異常を伴わない
  2. 関節炎/関節痛
  3. 腹痛
  4. 腎疾患の臨床的4兆候(tetrad)

を特徴とする疾患です。約90%が小児です。

【症例1】 6歳 女児

間欠的な腹痛がはじまり、第3病日に入院。輸液治療開始。腹痛以外、他の症状がなく、検査所見ではD-dimerの上昇、凝固13因子活性37%の低下があり、HSPを疑う。プレドニゾロン1mg/kg、2日間投与で腹痛のコントロールが不十分であったため、2mg/kgに増量し、プレドニゾロン投与開始8日で腹痛消失。

紫斑はプレドニゾロン投与中、腹痛発症10日目に初めて出現した。プレドニゾロンは約1週間かけて漸減・中止し、退院。

退院後も腹痛の再発を繰り返し、その都度プレドニゾロン1mg/kg/日 2~3日間投与で軽快。腹痛は間欠的に2ヶ月に及んだ。腎合併症を発症。

【症例2】 6歳 男児

6ヶ月前にHPSを発症し、腹痛が強くステロイド薬投与の既往がある。
腹痛で発症、夜間痛みで眠れず、第2病日、緑色胆汁嘔吐、腹部エコー検査で上部小腸壁に肥厚を認める所見で、HSPの再燃と診断し、プレドニゾロン 2mg/kg/日の投与を開始。

第8病日:
腹痛消失しやっと食事がとれるようになる。
第9病日:
プレドニゾロン2mg/kg投与中、両側膝関節の痛みが出現し、立てなくなる。右大腿屈側の痛みが強く、MRI検査で筋膜下出血を認める。
第13病日:
紫斑が出現。(写真)

第15病日:
歩行可能となる。
第30病日:
プレドニゾロン減量で、なお腹痛が再発するため、1ヶ月以上かけての少量漸減スケジュールとする。
第37病日:
退院。
第40病日:
尿所見の異常:尿蛋白(2+)、潜血反応(2+)が始まり、観察中。

退HSP (IgAV) の臨床症状

皮膚症状

特徴的な皮膚症状はpalpable purpuraですが、一部は初発症状が皮疹でないことがあります。皮疹以外の症状から初発する場合、診断が困難ですが、多彩な合併症の広がりを知り、鑑別にこの疾患を思い浮かべる必要があります。

腹部症状 強い腹痛ではじまる

痛(腸管の炎症浮腫、出血などによる)が皮膚症状に先行するものが10~20%あり、紫斑がなくてもHSP(IgAV)を鑑別にあげる必要があります。臨床診断で、ステロイド剤の投与を開始することも必要になるので、その場合には小児科医としての判断が問われることになります。一部の症例では、線溶系の亢進や凝固13因子の低下などが見られ、診断の補助として役立つことがあります。腹部エコー検査での腸管の部分的な浮腫・肥厚の所見は、補助診断としてだけでなく、ステロイド薬の減量開始時期の決定などにもたいへん有用な情報となります。

腹痛が長期に続く場合、プレドニゾロン1~2mg/kg/日の継続投与が必要になります。ステロイド薬の減量・中止で、繰り返し腹痛が断続する場合には、ステロイド薬に加えて、追加的治療が望まれます。症例1および症例2ではそれを強く感じました。しかし今のところ、ステロイド薬の増量(プレドニゾロン2mg/kg/日)以外には、定まった治療法はありません。とりうる手段としてはステロイドパルス療法があり、より重症例には血漿交換が選択される場合があるかもしれません。2014年2月の小児科のトピックスで触れましたが、Up To Dateでは、ステロイド薬は、症状の改善だけでなく病態の改善まで、4~8週間かけて漸減することが望ましいと記載されていますが、今回の2症例ではこの記載が当てはまると感じました。

DDS(diamino-diphenyl sulfoneレクチゾール)の効果について触れた文献はありますが、日本皮膚科学会の「血管炎・血管障害ガイドライン2008」 によると、DDSは皮膚症状のみ、又は皮膚症状と軽症の腹部症状を呈するHSP (IgAV)に使用される薬剤とされており、重症の腹痛には推奨されていません。

小児救急の場では、急性陰嚢症、陰嚢や精巣の腫脹・疼痛・出血を発症したり、腸重積(0.4~0.6%)を併発したりする報告が取り上げられ、稀ながら、小児科医として知っておくべき合併症とされています。

関節痛/関節炎および多彩な臨床症状

症例2では、膝関節痛と大腿部屈筋の筋膜下出血による歩行障害、前頭頭皮部のクィンケ浮腫などが出現しました。紫斑、関節痛/関節炎、腹痛、消化管出血、腸重積、腎障害、浮腫、脳症・脳出血、精巣炎など、多彩な臨床像を呈することが知られています。

腎障害

急性期を過ぎた時期に、最も懸念されるのが腎炎の合併です。腎炎の発症率は約50%で、紫斑の出現から2週間以内に発症することが多いとされていますが、4~6ヶ月以内に発症してくることがあり、最低6ヶ月間の検尿を行う必要があります。著しい血尿、蛋白尿が持続する場合、高血圧がある場合、腎機能障害を呈する場合には、速やかな腎生検による治療方針決定が必要となります。小児慢性腎不全の5%を紫斑病性腎炎が占めます。