診療案内

Medical guidance

マイコプラズマ肺炎の再流行の兆しと治療指針

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

はじめに–マイコプラズマ感染症流行の兆し

国立感染症センターの定点報告によると、前のマイコプラズマ肺炎の流行は、2011年5月に始まり、2013年1月をもって終焉しています。2014年には、マイコプラズマ肺炎は現場から姿を消しました。4年後の今年(2015年)、初夏から流行周期の始まりを予想させる学童期の肺炎が増加してきています。かつてはオリンピック肺炎とも呼ばれ、4年ごとの流行がありましたが、2003年から2011年までは、明らかな流行がなく、その名称は廃れてしまいましたが、再び4年ごとの周期での流行が復活する勢いです。

肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針2014

前回の流行を受けて、日本マイコプラズマ学会は2014年5月、「肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針」を発表しました。小児科学会も2013年「小児肺炎マイコプラズマ肺炎の診断と治療に関する考え方」を示しており、指針はこの{考え方}と矛盾しない形で文章化されています。私たちは、前の流行の真っただ中の2012年4月、小児科のトピックスで、「流行続くマクロライド耐性・肺炎マイコプラズマの治療戦略」をまとめました(小児科のトピックス75号)。これらを基礎に、流行に備える必要があると考えています。

日本マイコプラズマ学会「肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針」

治療指針SUMMARY(小児版)

  • マイコプラズマ肺炎の急性期の診断はLAMP法を用いた遺伝子診断、および、イムノクロマトグラフィー法による抗原診断が有用である。
  • マイコプラズマ肺炎治療の第1 選択薬に、マクロライド系薬が推奨される。
  • マクロライド系薬の効果は、投与後48−72時間の解熱で概ね評価できる。
  • マクロライド系薬が無効の肺炎には、使用する必要があると判断される場合は、トスフロキサシンあるいはテトラサイクリン系薬の投与を考慮する。ただし、8歳未満には、テトラサイクリン系薬剤は原則禁忌である。
  • これらの抗菌薬の投与期間は、それぞれの薬剤で推奨されている期間を遵守する。
  • 重篤な肺炎症例には、ステロイドの全身投与が考慮される。ただし、安易なステロイド投与は控えるべきである。

治療指針SUMMARY(成人版)

  • マイコプラズマ肺炎の急性期の診断はLAMP法を用いた遺伝子診断、および、イムノクロマトグラフィー法による抗原診断が有用である。
  • マイコプラズマ肺炎治療の第1 選択薬に、マクロライド系薬の7-10日間投与(アジスロマイシンを除く)を推奨する。
  • マクロライド系薬の効果は、投与後48-72時間の解熱で評価する。
  • マクロライド系薬が無効の場合には、テトラサイクリン系薬、または、キノロン系薬の7-10日間の投与を推奨する。
  • 呼吸不全を伴うマイコプラズマ肺炎ではステロイドの全身投与の併用を考慮する。

日本マイコプラズマ学会「肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針」

指針はマイコプラズマ肺炎治療現場で即戦力として役立つことを目指した実践的な内容となっています。

  • 急性期の確定診断には、LAMP法の実施が望ましいと推奨されました。抗体検査(PA法)では、時間経過での抗体上昇を確認する必要があり、治癒に近い段階での確定診断には有効ですが、急性期の診断には難があります。今季の流行では、LAMP法での診断が力を発揮するものと考えられます。
    • LAMP(Loop−Mediated Isothermal Amplification)法を用いた遺伝子診断法は、迅速性と簡便性に優れた検査法である。
      また、従来、迅速診断法として血清を用いたイムノクロマトグラフィー(ImmunoCard®Mycoplasma)法は多用されていた。血清中の特異IgM抗体を検出する方法であるが、肺炎の病像形成から血流中にIgMが検出されるのに3−4日を要し、感染初期に用いると偽陰性を示したり、成人の再感染例ではIgMの上昇が得られないこともある。また、罹患後も長期間陽性となる場合もあるため、迅速診断検査としての有用性は限定的である。
      2013年6月より、同様のイムノクロマトグラフィー法を用いた方法で、咽頭ぬぐい液を検体とし、マイコプラズマ抗原を検出する迅速診断キットが上市されている。検出感度は60-75%程度であるが、特異度は100%近いと報告されている(指針)。
  • 耐性化が進んでいる現状でも、第1選択薬にはマクロライドが推奨され、トスフロキサシン、テトラサイクリン系薬を第1選択とする安易な使用は控えるべきとされています。
  • 有効性は、マクロライド投与後48時間~72時間以内の解熱で評価します。無効の場合、2次選択薬、トスフロキサシン、8歳以上ならミノマイシンを選択しますが、8歳以下にはミノマイシンは原則禁忌です。
  • それぞれの薬剤の順守すべき投与期間は以下の表にあらわされています。
  • 登園・登校基準は、発熱、咳嗽など主要症状が改善すれば可です。
  • 重篤症例にはステロイド全身投与が必要になる場合があります。宿主の過剰な免疫反応により、重篤な臨床像を呈する場合、ステロイド全身投与が必要となります。目安として発熱が7日以上、LDHが480IU/Lを越えるものが適応となると報告されています。しかし、安易な投与は控えるべきとの警告つきです。

熱が15日間続いたマイコプラズマ肺炎症例 6歳女児

経過:
熱と咳嗽が続くため、第5病日クリニック受診、クラリスロマイシン投与を受ける。
第6病日:
解熱せず、症状悪化したために、ご紹介いただき入院。
胸部レントゲン;右下肺に軽度の肺炎(写真1)

CRP1.35mg/dl 白血球5500
マイコプラズマ抗原迅速キット(陰性)
マイコプラズマ肺炎+細菌感染疑いで、トスフロキサシン+セフトリアキソン投与開始

第9病日:
高熱が続くため、マイコプラズマ肺炎に対する過剰免疫反応と考え、プレドニゾロン1㎎/㎏/日投与開始
第10病日:
下熱得られず、その後も高熱が続く
第12病日:
CRP上昇、下熱得られず、右下肺炎は拡大を示す(写真2)

CTRX耐性菌による細菌感染を考えメロペネム開始、プレドニゾロン中止

第14病日:
マイコプラズマPA抗体の明らかな上昇を確認 アジスロマイシン3日間投与開始
第15病日:
マイコプラズマに対する強い過剰免疫反応と判断し、プレドニゾロン2㎎/㎏/日開始
第16病日:
下熱 以後 プレドニゾロン2㎎/㎏/日 頚静脈投与4日間 経口2日間のあと、漸減中止、メロペネム中止 咳嗽は徐々に軽減。肺炎も改善

プレドニゾロン1㎎/㎏で下熱が得られず、15日間も高熱が続いた重篤な症例で、2㎎/㎏でなければ抑えることができない症例でした。流行が拡大すれば、このような過剰反応や合併症を伴う難しい症例も増える可能性があり、しっかりした診断の重要性と抗生剤の適正使用について、反省させられた症例でした。