診療案内

Medical guidance

学童の不明熱

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

はじめに

不明熱には、あらゆる鑑別診断が必要ですが、小児科の臨床では、経験的に、感染症(細菌、ウイルス、真菌)、川崎病、組織球性壊死性リンパ節炎、血球貪食症候群、免疫疾患・膠原病、その他の順に鑑別を行っています。頸部リンパ節腫大と熱の合併症例の場合も、同様の思考回路で対応していますが、この場合には特に、EBウイルス感染症の可能性が高いことを考慮します。
最近、学童期の不明熱3例を経験しましたので報告します。

(症例1)8歳 女児 約1ヶ月半持続する発熱、左足背痛 sJIA

37℃後半の熱が10日以上続くことで、ご紹介にて当科初診。CRP 5.4mg/dl、白血球数11500、血沈60/114 咽頭発赤、扁桃に膿が付着し、溶連菌迅速検査(+)で、 溶連菌感染症+α として、AMPC投与で外来観察。
AMPC服用8日目に、全身に発疹。AMPCをクラリスロマイシンに変更。しかし、その後も微熱が続く。 発症約1ヶ月、全身状態は良好だが微熱が続き、両足背の痛みと左PIP関節の腫脹、腹部の発疹が出現し、5日間入院。

血沈78/120 CRP 4.8mg/dl 白血球11100 異型リンパ球は認めない
フェリチン263ng/ml  抗核抗体、RF定量、抗DNA抗体、抗RNP抗体:基準値内
MMP-3:159ng/ml(基準値~60)  抗CCP抗体 < 0.5 IgG 1340mg/dl 補体低下なし。
EBVIgG 陽性(既感染) 肝機能異常なし
約1ヶ月以上続く熱、足背の痛み、PIP関節の腫脹、腹部の発疹、血沈の亢進、MMP-3の上昇から、全身性若年性特発性関節炎(sJIA)を疑い、大阪市立大学小児科を受診していただく。骨髄検査は正常、サイトカインプロファイルはIL-18の中等度増加を認め、炎症病態が軽度のsJRAとの診断をいただく。NSAIDsのみの治療では不十分で、ステロイド治療が開始された。

若年性特発性関節炎(JIA)は「16歳未満で発症し、6週間以上持続する原因不明の関節炎で他の病因によるものを除外したもの」と定義されています。わが国の有病率は小児人口1万人に約1人です。JIAの診断には、膠原病のマーカー検査に加え、抗CCP抗体やMMP-3の測定が役に立ちます。主に自然免疫が関与して、インターロイキン(IL)-1、6、18などのサイトカインが過剰に産生されます。著明な全身性炎症にはステロイドなどの抗炎症治療、関節破壊を生じる病態ではメソトレキセートを中心とした治療、更に生物学的製剤による治療が行われます。
高サイトカイン血症により短時間で血球貪食症候群から多臓器不全にいたるマクロファージ活性化症候群(MAS)への移行があり、注意を要します。

(症例2)12歳 男児 6日間の高熱 白血球減少 血球貪食症候群

熱、頭痛、咽頭発赤で発症。40℃の高熱が6日間続き、発症7日目にご紹介いただき入院。
理学的所見に何ら異常を認めず。まさに不明熱。CTRX投与を行いながら観察。
白血球2200 (Band 47%, Seg 11% , Lympho 34%) 血小板13.6万  CRP 3.24mg/dl
血沈10/30 PT 70.3% PT(INR) 1.22 フェリチン580ng/ml TG 111mg/dl
sIL-2レセプター 1894U/ml AST 93IU/L ALT 77IU/L LDH 691IU/L
腹部超音波検査:腹部臓器に異常所見なし
発症9日 高熱が続く。不明熱、2系統(白血球・血小板)の血球減少、肝機能障害、高フェリチン血症、高IL-2レセプター血症から、血球貪食症候群を疑い、骨髄検査を実施。「normocellular bone marrow、組織球が血球を貪食するhemophagocytosisを認める」との結果を得て、血球貪食症候群と診断。 プレドニゾロン1mg/kg 分3 投与開始。
発症10日 解熱、9日間でプレドニゾロン漸減・中止。 発症14日 退院。
発症17日 血液検査データ全て正常化。

血球貪食症候群(HPS:hemophagocytotic syndrome)又は血球貪食性リンパ組織球症(HLH:hemophagocytotic lymphohistiocytosis)は、免疫担当細胞間のcross-talk機能が破綻し、サイトカインストームに陥り、しばしば不可逆的な経過をたどることのある疾患です。
この症例では起因となる疾患が特定できませんでしたが、受診時に咽頭所見あり、何らかのウイルス関連と考えています。
EBVIgG抗体は上昇しており、既感染パターンで、EBV関連HPSではありませんでした。
幸い、ステロイド剤の比較的少量短期投与で病勢は沈静化しました。
再発がないか、しばらく観察を続けています。
重症化した場合には、methazone, VP-16, CSAに加え、中枢神経症状が合併した場合にはMTXの髄注が随時行われるプロトコールが策定されており、小児血液学の専門部門をもつ病院への搬送が必要となります。

(症例3)10歳 女児 熱 嘔吐 CRP高値 白血球増多 川崎病

熱と頭痛で発症。発熱2日目にCRP 11.2mg/dl、白血球17800 局所症状なし。
発症4日目、CRP 14.8mg/dl、白血球18100で、ご紹介にて入院。
項部強直は見られないが、熱と嘔吐の症状から、髄液検査を実施。髄液に異常なし。感染性心内膜炎、川崎病を考慮し、心臓超音波検査を行うも、異常所見なし。頚部表在超音波検査で頚部リンパ節腫大なし。頭部MR検査で、副鼻腔炎・頭蓋内病変なし。手詰まりで、抗生剤(CTRX)投与で経過観察以外に方策なし。
発熱6日目、熱が続き、CRP 15.3mg/dl 白血球12300 AST 118 ALT 59と肝逸脱酵素の上昇あり、体幹に発疹が出現。結膜充血、口唇の発赤も出現。川崎病らしい病像を呈するようになる。第7病日、手掌紅斑も出現、リンパ節腫大を除く5つの症状がそろい、川崎病と診断し、免疫グロブリンを投与。
翌、第8病日には解熱し、以後全ての症状が消失し、検査データも正常化していった。冠動脈に拡大等の異常所見は出現しなかった。

私たちが経験した川崎病の最高年齢は13歳ですが、この例のような10歳の川崎病も比較的稀です。
CRP高値、白血球増多の細菌感染パターンの血液データでありながら、局所の感染巣がまったく見当たらず、熱発からの5日間はオリエンテーションがつかない症例でした。DICや全身性炎症反応性症候群、sepsisを思わせる重症感なく、多臓器障害を示唆する検査データもなく、考えをめぐらしながら経過を観察することで、結果的に適切に対応できた症例でした。