診療案内

Medical guidance

食物アレルギーと臨床現場の動向

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

食物アレルギーが原因のアナフィラキシーへの備え

a.タマゴによるアナフィラキシー症例 2歳 男児
過去にタマゴを食べて全身のじんましんが出たため、卵は完全に除去してきた。
たまたま祖母に預けることになり、祖母が昼食に溶き卵を入れ煮立たせたチキンラーメンを食べさせた。少し口に入れただけであったが、数分後に顔色不良、犬吠様咳、呼吸困難でもがくようになる。救急車で到着時には呼吸困難は軽減、犬吠様咳と喘鳴は続いていた。抗ヒスタミン薬投与、ボスミン吸入、ステロイド剤の投与、1泊入院。
好酸球21%、IgE 13325 、immunoCAP IgE :卵白75.4UA/mL、オボムコイド 34.7。
当面、タマゴの完全除去の徹底とアレルギー外来での経過観察、エピペン導入の準備等を進めている。

b.集団生活でのアナフィラキシー対応に関して、学校や幼稚園・保育所から指導や助言が求められる機会も増えています。「食物アレルギー診療ガイドライン2012」に則って対応します。

集団生活でのアナフィラキシー対応(食物アレルギー診療ガイドライン2012より)

【軽い症状(口や目の周りのじんましん、かゆみ、まぶたの腫れ、軽い咳など)】
EBウイルスは咽頭、唾液腺上皮で増殖し、ウイルス血症、末梢Bリンパ球に感染、さらに、肝臓・脾臓などの網内系全体への感染が起こる。唾液の飛沫を介して感染する。潜伏期は6週間と長い。
【やや強い症状(全身のじんましん、強いかゆみ、複数回の嘔吐、強い咳など)】
熱、リンパ節腫大、咽頭炎、軟口蓋の微小出血、脾腫は半数に、肝腫大は20~30%に出現。末梢血中に異型リンパ球。ABPCで皮疹が出現。
【強い症状(のどや胸がつかえる、声がかすれる、強い腹痛、何度も吐く、 ゼーゼー、ヒューヒュー、苦しさ、顔色が悪くなる、ぐったり、意識消失など)】
対応:ショックに近い状態です。救急車。本人用エピペンがあればすぐ注射

食物アレルギーの治療:<食べて治す>経口免疫療法の実際

  • 治るまで食品を除去し改善を待つ、又は一生除去するいう、食物制限の時代から、免疫寛容療法による食べて治すという治療法が導入され、食物アレルギー治療の主流となりつつあります。
    アナフィラキシーを起こす危険性を踏まえ、アナフィラキシーの既往のある子どもでは通常一年程度は負荷試験は行わず除去を基本とします。入院でアナフィラキシーへの態勢を整えた上で、少量(微量)摂取からはじめ30分ごとに倍量に増やし、症状が出た場合はその量で中止、症状がない場合は予想目標量までの負荷試験を行います。摂取できた量の2~4分の1の量を1週間に(2~)3回継続的に摂取し、期間をおいて、負荷テストを行い、閾値の上昇を確認しながら、食べる量を増やしていきます。以下はその実際例です。
  • タマゴアレルギーの経口免疫(寛容)療法の1例  7歳 男児
    生後2ヶ月で顔面湿疹。生後3ヶ月で卵白RAST+3、カステラを食べると体調が悪くなり、母の判断でタマゴを除去してきた。2014年タマゴ負荷試験で32分の1個でじんましんが出現、タマゴ含有の食パン、ドーナッツ、クッキー程度は食べられる範囲で食べてよいことにした。2015年、加熱全卵負荷試験目的で入院。64分の1(0.78g)負荷から開始、舌のかゆみ、鼻のすすりがあったが10分後に治まり、30分ごと倍量負荷を続け、8分の1を3回摂取、合計タマゴ2分1個摂取が可能であった。この結果から、タマゴ4分の1を週3回摂取することにし、3週間後からは加熱全卵2分の1・週3回スケジュールとした。

離乳期からのピーナッツ接種がピーナッツアレルギーを減らす!
乳児期初期から食べて予防する:LEAP Studyのインパクト

2015年2月 The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINEに「ピーナッツアレルギーの危険性と乳児のピーナッツ摂取に関するランダム化比較臨床試験(LEAP Study)」が掲載されました。この論文は「乳児期早期からピーナッツを食べるとピーナッツアレルギーの予防になる」「ピーナッツ早期摂取でアレルギー抑制」「5歳までにピーナッツを食べさせるべし」などの見出しで、報道されました。以下、論文の要約です。

背 景

西欧諸国ではこの10年間でピーナッツアレルギーが倍増し、アフリカやアジアでも増加しつつある。我々はアレルギーの危険性の高い乳児を選び、ピーナッツの摂取と除去の何れが、ピーナッツアレルギーの発症を効果的に予防できる方法であるかを検討した。

方 法

重症の湿疹、タマゴアレルギー、又はその両者をもつ乳児640人を摂取群と除去群とに分けて、60ヶ月観察した。参加者は4ヶ月から11ヶ月までの乳児で、ピーナッツエキス皮膚プリックテストに対する過敏性で、皮膚反応0(陰性)群と1~4mmの膨疹(陽性)群に分類され、各々が、摂取群と除去群にランダムに振り分けられた。その結果、60ヶ月でのピーナッツアレルギーを発症した割合が得られた。

結 果

皮膚テスト陰性グループ530人では、60ヶ月でのピーナッツアレルギーの発症率は、除去群では13.7%、摂取群では1.9%であった(p<0.001)。皮膚テスト陽性グループの98人では、除去群で35.3%、摂取群で10.6%であった(p<0.004)。両群での重症な副反応の出現率に差はなかった。ピーナッツ特異IgG抗体価は摂取群で高値を示した。除去群ではより多くの割合でピーナッツ特異IgE抗体価の上昇がみられた。皮膚プリックテストでの膨疹の大きさ及びピーナッツ特異IgG4/IgEの低値はピーナッツアレルギーと相関があった。

結 論

乳児期早期のピーナッツ摂取はピーナッツアレルギーのハイリスク状態にある乳児でのピーナッツアレルギーの発症を有意に減少させ、ピーナッツに対する免疫反応を変化させた。

この論文のインパクトは大きく、2015年6月に日本、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ヨーロッパ、イスラエル、国際学会を含めた10のアレルギー学会がこの論文の評価に関する以下のような統一見解を発表しました。重要と思われる部分を要約しました。

  • 近年のピーナッツアレルギーの増加でUSA、カナダ、イギリス、オーストラリアでは学童の50人に1人がピーナッツアレルギーであり、発展途上国でも増加が見られる。
  • LEAP Study は、4~11ヶ月の早期のピーナッツ摂取がアレルギー発症の相対的危険度を80%減少させることを示した。この声明は、乳児期早期にピーナッツを摂取することのメリットを医療・保健従事者によりよく理解してもらうことを目的としている。来年の国際学会で乳児期初期の食のあり方とアレルギー発症の危険性に関する公式のガイドラインを予定している。
  • 既存のガイドラインおよびLEAP Studyに基づいて、次の暫定的な手引きを提案する。
    • ピーナッツの導入を遅らせることがピーナッツアレルギーのリスクを高める可能性が示されたので、ピーナッツアレルギーの多い国では早期(4~11ヶ月)にピーナッツを導入することを推奨する。
    • その際、LEAP Studyで行われたように、重症湿疹、タマゴアレルギーの子どもではアレルギーの専門医の診断のもと皮膚テストや負荷試験による診断を受けた上で早期のピーナッツ導入が行われることが望ましい。
    • 摂取群では毎週7.7gのピーナッツ蛋白が60ヶ月まで投与された。耐性誘導のための最適量や最短期間は不明であり、途中で中止した場合の危険性も不明である。

日本アレルギー学会はこれに対して次のような注釈を加えている。

  1. 我が国において離乳早期にピーナッツを積極的に摂取すべきかどうかはこれからの研究課題
  2. この研究ではピーナッツアレルギーの子どもは危険性が高いとして研究対象から外しており、早期導入の予防効果はピーナッツアレルギーを発症していない子どもに限られること、発症している子どもへのピーナッツ投与は極めて危険な行為であることは言うまでもない。

食物アレルギーに対する治療戦略 前提となる正確な診断

これまでの一般的な対策 = 症状が出なくなるまで除去

→最少限の除去
→食べて治す(免疫寛容療法)
→食べさせて予防する(LEAP Study)

食物アレルギーに対する対策・対応・治療に関する考え方・治療戦略は大きく変わりつつあります。その前提となるのが正確な食物アレルギーの診断です。
現時点では経口負荷試験が唯一の確定診断法です。特異IgE抗体値はアレルギー発症の確率的な可能性を示しますが、特異IgE抗体の高値をもって除去や治療の根拠とすることができないことは常識となっています。
経口食物負荷試験は、①確定診断 ②耐性獲得の診断 ③症状誘発リスクの評価に欠かせないものです。しかし、この試験では、アナフィラキシー誘発の危険性が常にあり、入院していただいた上で、慎重に検査を行うことが基本となります。この負荷試験を元に、食物アレルギーに対する経口免疫療法は、これまで除去を続けてきた子どもたちの食物に対するQOLを改善する治療法として有効で、今後よりいっそう普及させる必要があります。
また、早期から避けずに食べることの意味を証明したLEAP Studyの成果を子どもたちの食生活に正しく応用する今後の研究が期待されます。