診療案内

Medical guidance

新しい熱性けいれんガイドライン2015

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

はじめに

2015年3月小児神経学会から「熱性けいれん診療ガイドライン2015」が発表されました。最新の知識とエビデンスをもとに、A~Dに層別化した推奨グレードが付されています。今後、かなりの期間にわたって、我が国の熱性けいれんの標準として、力を発揮することになります。新しいガイドラインに基づく標準的な診療を医療の現場で実践することが求められており、一緒に学ぶ機会としたいと思います。
ガイドライン2015を実践に役立てるために、順不同で、そのエッセンスを整理しました。

  • 「発症5分」をけいれんを止める治療開始の目安にする
  • 適応基準を明確にして、予防的なジアゼパム投与を積極的に行う
  • 静注ルートの確保ができにくい場合の代替法
  • 予防接種は体調がよければ速やかに行ってよい、長くても2~3か月以上は開けない
  • 熱性けいれんをもつ子どもに抗ヒスタミン薬・キサンチン製剤の投与は行わない
  • 髄膜刺激症状、30分以上の意識障害、大泉門の膨隆等があれば、積極的に髄液検査

熱性けいれんの初期治療 5分以上の持続で薬物による治療開始を

  • けいれん発作が5分以上持続している場合、ジアゼパムまたはミダゾラムの静注が可能な施設に搬送する
  • いずれも呼吸抑制には注意する

けいれんを止める治療開始の目安が5分とされました。熱性けいれん重積状態は、国際的に以前は30分と定義されてきましたが、最近では短くする方向の議論が行われてきました。けいれん発作は5~10分で自然に止まることが多く、それより長く続く場合は30分以上持続する可能性が高くなります。ガイドライン2015では、発作が5分以上持続している場合を薬物治療の開始を考慮すべき熱性けいれん重積状態のoperational definition(実地用定義)とし、5分での薬物治療をグレードAで推奨しています。
5分での薬物介入推奨は、今回のガイドラインの大きなポイントとなっています。

入院(入院可能な病院への搬送)を考慮する目安

  • 地域によって異なるが以下が目安となる
    1. けいれん発作が5分以上続いて、抗てんかん薬の静注を必要とする場合
    2. 髄膜刺激症状、発作後30分以上の意識障害、大泉門膨隆が見られたり、中枢神経感染症が疑われる場合
    3. 全身状態が不良、又は脱水所見が見られる場合
    4. けいれん発作が一発熱機会に繰り返し見られる場合
    5. 上記以外でも診察した医師が入院が必要と考える場合

入院可能な病院に紹介するかどうかは重要な問題であり、以上の目安が示されました。小児の入院ベッドをもつ医療機関として、熱性けいれんの紹介・搬送に対して、受け入れをスムーズに行うことができるよう一層努力する必要を求められた推奨項目です。

静注以外の投与法 MDZ:鼻腔、口 DZP:注腸

  • ミダゾラムの鼻腔投与、口腔投与、筋注、ジアゼパムの注腸は静脈ラインが確保されていない小児における発作の治療として有効と考えられる。ジアゼパムの固形の坐剤は有効血中濃度に達するのが投与後約30分で、早急に発作を止める目的には向かない。

このガイドラインでは、けいれん重積の治療として、上記の薬剤の投与法が「承認されていないため推奨としては記載しないが、エビデンスが高い報告が多い」として、静注以外の投与法の有効性を確認しています。即座に静脈ルートを確保することが難しいと判断した場合、静注以外の代替投与法は実際的な治療法として有効です。

【参考】
日本神経学会 てんかん治療ガイドライン2010より
ミダゾラム口腔、又はミダゾラム鼻腔内投与 0.3mg/kg
ジアゼパム注腸 0.2~0.5mg/kg

来院時に、熱性けいれんが止まっている場合

  • 熱性けいれんが止まっている場合、外来でルーチンにジアゼパム坐薬を入れる必要はない

「熱性けいれんが止まっている場合には、応急処置として当日のジアゼパム坐薬の予防投与はルーチンには不要」との見解が示されています。けいれんが一発熱機会内に繰り返す場合には、入院が必要とされます。重積例でなく、既にけいれんが止まっている場合には、ジアゼパム坐薬を使用せず、帰宅させることが可能です。

熱性けいれんの既往とジアゼパムの予防投与の適応基準

  • 熱性けいれんの再発予防の有効性は高い。しかし副反応も存在し、ルーチンに使用する必要はない
  • 以下の適応基準1.又は2.を満たす場合に使用する

    1. 遷延性発作(持続時間15分以上)
    2. 次のⅰ~ⅵのうち二つ以上を満たした熱性けいれんが二回以上反復した場合
      1. ⅰ.焦点発作(部分発作)又は24時間以内に反復する
      2. ⅱ.熱けいれん出現前より存在する神経学的異常、発達遅滞
      3. ⅲ.熱性けいれんまたはてんかんの家族歴
      4. ⅳ.12か月未満
      5. ⅴ.発熱後1時間未満での発作
      6. ⅵ38℃未満での発作

発熱時の予防的ジアゼパム坐剤の使用法

  • 37.5℃を目安として、1回0.4~0.5mg/kg(最大10mg)を挿肛し、発熱が持続していれば8時間後に同量を追加する
  • 鎮静・ふらつきなどの副反応の出現に留意し、これらの既往がある場合は少量投与にするなどの配慮を行いつつ注意深い観察が必要である。使用による鎮静のため、脳炎・脳症の鑑別が困難になる場合があることにも留意する
  • 最終発作から1~2年、もしくは4~5歳までの投与がよいと考えられるが、明確なエビデンスはない

ジアゼパムに対する反応は遺伝的な背景による個人差があり、鎮静効果が過度に現れる個人があります。副反応が強い場合には、投与間隔を8時間でなくもっと間隔を開けるか、減量することを考慮せよとの推奨です。予防的投与で事足れりとせず、経過観察を怠ってはならないと述べられています。

予防接種と熱性けいれん 最終発作からの接種間隔

  • 現行の予防接種はすべて接種してよい。ただし、個別にワクチンの有用性と起こりうる副反応、および具体的な対応策を十分説明し、保護者に同意を得ておく
  • 当日の体調に留意すればすべての予防接種を速やかに接種してよい
  • 回の熱性けいれん後のワクチン接種までの経過観察期間には明らかなエビデンスはない。長くとも2~3か月程度に留めておく

ワクチン接種は積極的に行おうとのメッセージとなっています(グレードA)。
副反応が多いワクチンとして、MRワクチンの2週間以内(7~10日)、肺炎球菌ワクチンPCV13の接種後に発熱率が高いこと、ワクチンによる発熱に対しても、適応基準に基づいて、ジアゼパムの予防投与を行ってよいことが述べられています。

最終の熱性けいれん発症からの推奨される期間は、体調がよければ速やかに、長くとも2~3ヶ月と明文化されました。

抗ヒスタミン薬とテオフィリン等のキサンチン製剤は使用しない

  • 熱性けいれんの既往のある小児に対しては発熱性疾患罹患中における鎮静性抗ヒスタミン薬使用は熱性けいれん持続時間を長くする可能性があり推奨されない
  • サンチン製剤も3歳以下では同様に推奨されない

熱性けいれん自体がけいれん準備性の高さから発症するとすれば少しでもその特性に影響を与えうる可能性がある場合には「Do not harm」の原則に従うべきとの見解から、子の推奨がおこなわれました。臨床現場では、抗ヒスタミン薬は多用されていることもあり、熱性けいれんの既往のある子どもに鎮静性抗ヒスタミン薬は使用しないとのメッセージはしっかりと受け止めなければなりません。

髄液検査は必要か

  • 髄液検査をルーチンに行う必要はない
  • 髄膜刺激症状、30分以上の意識障害、大泉門膨等の細菌性髄膜炎をはじめとする中枢神経感染症を疑う所見を認める例では髄液検査を積極的に行う

熱とけいれんの子どもの診療に際しては常に「細菌性髄膜炎」を意識した診療が求められます。新ガイドラインでは髄膜刺激症状、30分以上の意識障害、大泉門膨を具体的に挙げて、熱とけいれんの子どもに対する細菌性髄膜炎を見逃さない手だてを提案しています。
AAP(アメリカ小児科学会)は、髄膜炎を疑わせる症状経過がある症例に対しては髄液検査を行うこと、一方、Hib、肺炎球菌ワクチンを接種されていない6~12か月の子ども、および熱性けいれん発症前に抗生剤を投与されている子ども(髄膜炎の臨床症状がマスクされている可能性があるため)には髄液検査をオプションとして検討するとのガイドラインを策定しています。ワクチン接種の重要性、および抗生剤投与が細菌性髄膜炎の臨床症状をマスクする可能性にたいして、私たちはもっと注意を払う必要があります。