診療案内

Medical guidance

予防接種開始前の赤ちゃんの百日咳をなくすために

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

はじめに

百日咳は Bordetella pertussis菌による、感染性のきわめて強い気道感染症で、2~3ヶ月(約百日)続く重篤な咳が特徴です。人のみを宿主とし、軽症な場合でも、数週間にわたって菌が排出され、飛沫感染します。
大人では稀に強い咳発作で肋骨骨折を起こすこともありますが、軽症なこともあり、このことが診断を遅らせ、感染を拡大させる原因となっています。感受性者での潜伏期は約7~10日。2週間以上続く、発作性の咳き込みがある場合には百日咳を疑います。
小児では、発作性の強い咳発作(レプリーゼ、whoopを伴うstaccato)を発症します。特に、6ヶ月未満の乳児では、呼吸困難、チアノーゼ発作、無呼吸発作で発症し、生命の危険がある感染症です。予防接種前に罹患すると、末梢リンパ球は著明に増加します。(通常15000以上、70%はリンパ球)。CRPの上昇は認めず、体温上昇もせいぜい微熱程度です。
マクロライド系抗菌薬、その他の保存的治療が必要です。予防接種は、きわめて有効で、感染予防の決め手です。

父親由来、2ヶ月児の百日咳症例

【症例1】生後2ヶ月の百日咳 

生後53日 :
咳が始まる
生後59日 :
診療所受診、RSV(-)。その後、夜中の咳がひどくなる
生後64日 :
診療所再受診、CRP 0.5mg/dl 白血球数12300、リンパ球71.9%

父親が一ヶ月前から咳が続いており、夜間の咳のひどさから、百日咳の疑いありとして、ご紹介いただく。百日咳の疑い診断で入院。
EM(経口)とPIPCを併用、免疫グロブリン300mg/kg 1回投与
入院後、3~10秒ぐらい息が止まり、唾液の泡を吹き出し、チアノーゼ、嘔吐、そのあとぐったりのいわゆる百日咳の咳発作(paroxysms)を夜間に数回繰り返す。レプリーゼは目立たず、無呼吸の形をとる。
約2週間で咳は軽快傾向となる。

【症例2】 ベビーの父親

27歳の父親からの感染で、母親は顕性感染せず、ベビーのみが家族感染した症例でした。幸い、後遺症なしに回復しました。百日咳の予防接種は4種混合として、生後3ヶ月から開始されますが、3回接種が終わる5~6ヶ月までの乳児を百日咳から守ることは、現在の予防接種スケジュールでは不可能で、このような症例は今後も発症し続けることになります。
百日咳の早期診断は重要ですが、大人も含めた、百日咳の罹患そのものを減少させ、なくすための対策が必要になってきています。

百日咳の疫学

大阪府立公衆衛生研究所による定点観測データによると、2007年~2012年には、年間 250例以上で、2013年は180例、そのうち、1歳未満は約40例が報告されています。実際にはこの10倍程度の感染があると考えられています。
年長者では、典型的な症状を示さず、見逃されている症例も多いと推測されています。14日以上咳が続く場合、百日咳を考慮した診療を心がけることが必要です。

百日咳の治療と感染管理

2012年5月のあんしんねっとわーく76号「百日咳~最近の動向とEIA法による百日咳IgG抗体の測定への変更~」に載せた治療と感染管理法についての重要項目を再確認・再掲します。いつも、思い起こしながら診療をする必要を感じています。呼吸不全、脳症、多臓器不全などの最重症の場合、PICUでの対処が必要になります。白血球増多による多臓器不全への進行の危険の報告があり、追記しました。

  • 治療薬としては EM:14日またはCAM:7(~14)日
  • 経静脈投与薬としてはPIPC
  • 乳児の重症例には免疫グロブリン
  • 家族内や保育施設内の濃厚接触者には、出来るだけ早く予防内服(治療と同様)
  • 濃厚接触者:3フィート以内での接触、1時間以上の同室
  • 接触21日までの観察(潜伏期7~10日、最長21日が根拠)
  • 百日咳が疑われる医療従事者は、適切な抗菌薬(通常CAM)を5日間内服終了まで就業制限
  • 日本の学校保健安全法では「特有の咳が消失するまで、又は5日間の適正な抗菌薬による治療を終了するまで」とされている。
  • 6ヶ月(特に3ヶ月)までの乳児は重症化しやすい。白血球数が50,000/μlを超える場合、毛細血管閉塞による多臓器不全を防ぐため、交換輸血などの対策が必要となる。

Tdap(ジフテリアと百日咳の抗原量を減量した思春期・成人用三種混合ワクチン)
による思春期以後・成人に対するワクチン接種計画-進んだ取り組み

アメリカでの百日咳予防

アメリカの予防接種スケジュールでは、①2ヶ月、②4ヶ月、③6ヶ月、④15~18ヶ月、⑤4~6歳で、5回のDTaPを子どもの基礎的予防接種としています(小文字のaは百日咳ワクチンが百日咳菌体のhole cellular vaccineでなく、より安全なa-cellular vaccineであることを意味します)。
その後も、11~12歳で⑥Tdapを追加し、10年後に成人してからもう1回⑦Tdapを接種、その後10年ごとにTd(のブースター接種が推奨されています。百日咳ワクチンの追加は、周りに罹患者があり、感染の危険がある場合にTdapを適宜追加するよう推奨されています。
さらに、出生直後のベビーを感染から守るために、妊娠ごとに、妊娠後期:第3三半期(妊娠27~33週)に、Tdapを受けるよう推奨しています。生まれたばかりの赤ん坊を百日咳から守るために、感染防止に十分な受動免疫を経胎盤的にベビーに与えることを目的としたものです。

百日咳の感染性と危険性からは、このような予防接種計画が、過剰対策ではなく、現実に必要な対策で、近い将来日本でも見習うべき対策だと考えます。

日本

日本では、現在、四種混合ワクチン(DPT-IVP)が、生後3ヶ月から一か月ごとに3回、1年後にもう1回、計4回のスケジュールとなっています。それ以後の百日咳を対象としたスケジュールは準備されておらず、今の状態が続けば、今回の報告のような、新生児期、乳児期初期の百日咳症例の発症は避けられないものと考えられます。ワクチンスケジュールを改変・充実させるのは一朝一夕では出来ないことですが、この間のワクチンギャップへのキャッチアップで満足せず、なお一層の努力が必要だと痛感しています。