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Medical guidance

福島県における小児甲状腺がんの多発

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

福島県民健康調査で117人の甲状腺がん

2015年2月12日福島県は、東京電力福島第一原発事故を受けて、当時18歳以下の県民を対象にしている甲状腺検査の現状を発表しました。
先行検査(1巡目)として約30万人の健診結果が出揃い、2巡目の検査で新たに8人の甲状腺がん又は疑い例があることが明らかになりました。
1巡目の結果と合計して福島県における子どもの甲状腺がんは117人となりました。
このうち4人は先行検査(1巡目)で異常なしとされていた子どもで、検査間隔2年以内で、新たな8名の甲状腺がん患者が増加したことになります。
手術件数も87例となりました。原発事故と甲状腺がんの多発の重大な関連性を示唆するものとして注目しなければなりません。

異常に高い甲状腺がんの発症率 小児甲状腺がんの疫学

福島県立医大・鈴木眞一教授(乳腺内分泌甲状腺外科)は福島県内における甲状腺スクリーニングを始めるにあたって、「本邦、欧米とも年間発生率は人口10万人当たり約0.2名とされています」と述べていました。当初は、甲状腺がんの多発を全く予想していなかったことが伺えます。
福島県民健康調査結果では、先行検査は3年間(2011~2013年)で行われました。子ども10万人あたりの甲状腺がんの発生率は109/297046×100000=36.7となります。全人口10万人あたりにすると、その約4倍となり、100を超すこととなります。
また、2巡目の結果では、約3/4にあたる対象者の検査が未終了段階ですが、発表された値で計算すると、この2年間で新たに発症した甲状腺がんの発症率は8/75311×100000=10.6となります。全人口10万人あたりにすると、その約4倍になります。

あくまでもスクリーニング効果と言い張る

「ヨウ素の放出量は少なかった、放射性ヨウ素を含む食品は規制されていた、チェルノブイリと違い子どもたちにヨウ素不足はなかった、外部被曝による被害は問題ない程度である」というような、古びた安全神話からの風評とも言える安全キャンペーンは目に余るものがあります。SPEEDのデータ隠し、子どもの甲状腺内部被曝の検査放棄(ヨウ素131は半減期が約8日で、事故後の早い時期に甲状腺内部被曝の検査が行われる必要があった)など、これらの根拠となる事実は測定されなかったか、隠されたままです。
原子力発電所事故、放射線曝露から1~3年での甲状腺がんの多発は、4年後から甲状腺がんが多発したとされるチェルノブイリの経験からは、あり得ないこととされてきました。
しかし、調査結果は甲状腺がんの多発を示す結果でした。このような高い発症率に対して、あくまでも被曝による影響を否定するために、スクリーニング効果であるとの新しい安全神話づくりが大々的に行われてきました。極めて高い甲状腺がんの発症率および1巡目では全く正常とされた子どもから2巡目で甲状腺がんが発見された事実から、福島の事実に依拠した対応が必要なはずですが、データを発表した県民健康調査検討委員会は依然として、原発事故の影響は考えていないとの見解です。

手術を必要とする子どもの際立つ多さ

原発事故後に、甲状腺がんで手術を受けた子どもは87人に達しており、福島医大は、子どもの甲状腺手術の日本最大の担い手となっています。
「一般的に若年者の甲状腺乳頭がんは成人に比べてリンパ節転移や遠隔転移の頻度が高いものの、生命予後は良好なことが知られている」とされますが、甲状腺がんと診断されたら手術が必要となります。手術を必要とする症例が理解を超えるほど多発していることに対して、医療関係者からは、過剰診断・不要な手術を行っているのではないかとの疑問も出され、これに対して、鈴木教授は、転移や嗄声などのがんによる症状が出たため、手術が必要だったと説明しています。
もし、スクリーニングの検診で、これほど多くの甲状腺がんが発見され、続いて手術が必要であるとするなら、世界中の子どもの甲状腺スクリーニングが必要との提言があってしかるべきです。(勿論、子どもの甲状腺スクリーニング検査の必要性はどこからも提言はありません。)

被害者の立場に立った健診が必要です

先行検査としての1巡目での甲状腺がんの極めて高い発生率に対して、福島医大・福島県・政府関係者は「現時点においては、放射線による甲状腺の健康被害はない」として、スクリーニング効果であり、本来、気づかず大人になって発見される癌をたまたまの検査で発見したにすぎない、前倒しで見つかったものと説明しています。
「甲状腺がんは、原発事故と関係なしに発生しており、それはスクリーング効果による早期発見であり、その責任は発症した家族が負うべき」との福島県立医大・福島県・政府の現対策の基本的考え方は、早急に改められなければなりません。
甲状腺がんの発生率の異常な高さと、2巡目の検査で甲状腺がんの発生がとどまっていない事実からは、念のために検査を行っているのではなく、福島第一原発事故による被害を最小限に食い止めるために、繰り返し、精密な検査を行っていく体制を早急につくらなければならないとの認識に立つ必要があります。多発と新規発症の現実のもとで、2年毎に1回程度の検診では事態を正確につかむことは困難で、より綿密な健診・検査体制をとるべきだと考えます。