冠動脈拡大病変をきたした「軽症」川崎病と不全型川崎病
小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶
熱4日、自然軽快の「軽症」川崎病で、冠動脈拡大をきたした症例
症例と経過 4歳3ヶ月 男児
- 第1病日 :
- 熱と結膜充血
- 第2病日 :
- アデノウイルス(陰性) 溶連菌(陰性)
- 第3病日 :
- 頸部リンパ節腫大 S病院受診 CRP 6.75mg/dl
- 第4病日 :
- 川崎病の疑いでご紹介いただく。手背に発赤? 口唇紅色?
川崎病診断基準 2(~4)+ 熱4
- 第5病日:
- 免疫グロブリン治療(IVIG)なしに自然解熱 CRP 3.5mg/dlに低下
心臓超音波検査:右冠動脈 2.1mmで拡大なしと判断
- 第8病日 :
- CRP 0.54mg/dlにさらに低下。
しかし、右冠動脈起始部1.8mm、その末梢で2.3mmに拡大
インフルエンザ流行中であり、フロベン投与開始
- 第14病日 :
- CRP 0.04mg/dl 右冠動脈2.3mmで、内壁は不整
発症30日での退縮・正常化を期待しながら経過観察中

臨床的には「軽症」でも、決して侮れない
熱4日でIVIG投与なしに自然に解熱し、まさか冠動脈病変を合併するとは想像しなかった、臨床的には、極めて軽症な、不全型と思われた川崎病が、解熱後に、冠動脈の拡大が見つかった結果、川崎病確定例となりました。一般的には、臨床的に軽症な症例は合併症も少なく、臨床的に重症な症例は合併症も多いと予想されますが、見かけの重症さと血管病変の発症とは必ずしもパラレルでないことをしっかり認識して、川崎病治療にあたる必要を再確認しました。
IVIG治療への不応を予測するスコアシステムを利用して、治療抵抗性と考えられる川崎病に対してステロイド剤や免疫抑制剤を最初から併用する治療法が導入され、難治例への治療法の選択肢が増え、現場での川崎病治療が一歩進みました。しかし今回、軽症又は不全型川崎病に対しても、侮らずに、しっかり対処することを教えられました。
「不全型」川崎病の後遺症はむしろ多い!臨床医の力が問われる不全型の治療開始時期
「川崎病心臓血管後遺症の診断と治療に関するガイドライン(2013年改訂版)」に不全型川崎病について説得的な記載があります。これまでの研究成果をもとに、不全型川崎病に対する現在の知識が簡潔に整理されています。手引きやガイドラインの文言に縛られるのでなく、それを応用して臨床に活かす努力が求められています。不全型の治療・治療開始のタイミング決定には、小児科臨床医としての力量が問われます。 不全型という曖昧な病名に引きずられることなく、不全型川崎病の病態を理解した上で、臨床医としてしっかり対処せよとの内容です。不全型の治療については、これまでのガイドラインの改定も視野に入れた意欲的な内容といえます。しっかりと受け止め、診療に活かしていくよう努力していく必要があります。
概要は以下の通りです
- 不全型の診断は単なる数合わせでない。
乳児におけるBCG部の初赤や年長児での多房性頸部リンパ節腫脹などは特異度の高い症状である。 - 不全型は決して軽症ではなく、冠動脈の合併も少なくない。むしろ、定型例よりも冠動脈病変の合併リスクが高い。
- 典型的な症状が揃わないために、診断することが困難で、その間に冠動脈病変が進み、後遺症の頻度が増すことが考えられる。
- 他の川崎病様疾患を除外することは必須であるが、不全型であるとの理由のみで、治療開始を遅らせるべきでない。
- 4主要症状があれば、定型例と同様にIVIG療法を考慮する必要があるし、3主要症状以下でもそれに準じた対処が望まれる。
- このため、今後、診断の手引きの改訂やガイドラインの変更、あるいは米国並に容疑例を含めてIVIG全例投与も検討に値する。
冠動脈後遺症がない川崎病の外来でのフォローと予防接種
外来でのフォロー
後遺症が残った症例は、カテーテル検査実施を含めて、小児循環器科の専門医による経過観察のもとにおかれます。後遺症なしに対して「川崎病の管理基準 日本川崎病研究会運営委員会編(2002年改訂)」があり、その後のガイドラインでも、この内容が踏襲されています。
川崎病心臓血管病変の重症度分類では、Ⅴ段階に分類され、後遺症がない場合は、このうちⅠとⅡにあたります。いずれも「運動制限なし、5年間の経過観察」を推奨しています。私たちも発症5年間の経過観察を行っています。幸いこれまでのところ、再発例を除いて、5年間の経過観察中に心血管系の疾患の発見は一例もありません。
- 重症度分類Ⅰ:
- 冠動脈病変のないもの(発症1ヶ月以内の急性期心エコー検査上、冠動脈の拡大が認められないもの
- 経過観察:
- 発症1ヶ月、(6ヶ月)、1年、発症5年をめどに経過観察。以後は主治医と保護者との協議で個々に対応
- 運動制限:
- 必要なし
- 重症度分類Ⅱ:
- 一過性冠動脈拡大病変(発症1ヶ月に正常化しているもの)
- 経過観察:
- Ⅰに準じる
- 運動制限:
- 必要なし
ワクチン
発症後、2ヶ月経てば、麻疹・風疹(MR)、水痘、ムンプスワクチンの4種類の生ワクチンを除く、ワクチンの接種は可能となります。Hib、PCV13、HBワクチン、4種混合、BCGはγグロブリンによる影響はないと考えられており、この時期以後、接種可能です。
麻疹・風疹(MR)、水痘、ムンプスワクチンは、γグロブリン2g/kg投与後では、投与6か月以後に、1回目のγグロブリンに不応でγグロブリンを2回以上使用した場合は、最低9か月以後に接種することが推奨されています(米国では、大量投与では11ヶ月後とされています)。
依然、多発する川崎病
2014年末から、2015年1月にかけて、川崎病は多発、臨床の場で、川崎病診療は、大きな比重を占めています。新しい研究成果と知識を臨床の場に活かすため、努力していく必要があります。
- 参考・引用:
- 川崎病心臓血管後遺症の診断と治療に関するガイドライン(2013年改訂版)
小児内科 ピンポイント川崎病 Vol.46 No.6 2014(6月号)