診療案内

Medical guidance

子どもの胸痛と胸膜疾患

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

症例 13歳 男児 胸痛

前日からの左側胸部痛 

受診前日の起床時から、呼吸をするたびに左胸が痛み、息苦しさが出現。酸素飽和度は99%、気胸の疑いでご紹介いただく。熱なし、外傷なし。
左側胸部に限局する胸郭運動に関連する痛みを訴える 呼吸を止めると痛みは消失
胸部レントゲン単純:異常所見なし 心拡大なし
血液検査: CRP 0.04mg/dl1 白血球数 6200 好中球 53.1% 血沈 3/8
CPK 86IU/l 心筋トロポニン(-) BNP <5.8pg/ml
心電図:WNL  ST-Tの異常を認めず
AST 19 ALT 15 LDH 180IU/l  Amy 77IU/l
検査所見に異常なデータが見当たらず、痛みの強さから、担当医は帯状疱疹の初期症状ではないかと考え、アセトアミノフェンを処方し外来観察。

2日後、胸部CTで胸膜肥厚を認める

2日後、軽減傾向だが左胸痛が続く。皮疹は見られず。胸部単純X線像を繰り返し眺めても所見は見あたらない。胸痛が続くため胸部CT検査を施行。
胸部CT所見:右肺S8に10mm大の結節あり。形態的には良性と思われるが、3ヶ月以内での経過観察が必要。左S8に実質性索状影あり、炎症後変化か?これに接して左葉間に胸膜肥厚あり。骨折、肋骨の変化は認めない。縦隔には有意なリンパ節腫大は認めない。「以上より肺炎、胸膜炎があったと思われ、これが痛みの原因か?」
胸部表在超音波検査:左側胸部に胸膜と考えられる実質性病変を認める。血流あり。
ウイルス性胸膜炎又はマイコプラズマ感染を考えクラリスロマイシンを4日分処方。2ヶ月後の診察予約。

2ヶ月後、胸膜変化は残存

2ヶ月後、痛みは全くなし。
血液検査:前回同様、問題なし
胸部CT:右S8の結節影は著しく縮小。炎症性であったと考えられる。
左S8に実質性索状影あり、前回と変化なし(炎症瘢痕か)。

子どもの胸痛

まず、緊急性の高い疾患を除外(Rule-Out)します。

心臓:冠動脈病変(特に川崎病既往の子ども)、心膜炎、心筋炎、心筋症、乳頭筋断裂など。
肺・胸膜:気胸、肺塞栓、重症の胸膜炎、肺炎
過去に、実際に経験した心筋炎は、心窩部痛の訴えでしたし、CTR 80%のウイルス性心膜炎は痛みというより、元気のなさでの受診でした。実際に緊急性の高い子どもの胸痛はきわめて稀なことですが、決して見逃さないよう重症緊急疾患のrule-outが必要です。

胸膜、肺、縦隔、横隔膜病変

胸膜炎では、「痛みは病変部位に限局しており、深呼吸、咳、上腕の運動で増強する」
と記載されていますが、まさに、この症例の胸痛に当てはまるものでした。しかし、単純X線検査では、病変をとらえることができず、CT検査が必要でした。
流行性胸膜痛epidemic pleurodyniaは、主にコクサッキーB群による胸壁・腹壁の筋炎および胸膜炎による胸痛で、流行性に多発することがあるようですが、このような流行には遭遇したことがありません。この症例もウイルス性胸膜炎の経過である可能性があり、現在コクサッキーB群の抗体検査を提出中です。
胸水貯留を伴う胸膜炎では、結核、SLEをはじめとする免疫疾患を鑑別する必要があります。EBウイルスによる血球貪食症候群で著明な胸水貯留を起こした4歳男児の経験もあります。

皮膚・骨格病変

帯状疱疹:皮疹が出る数日前から痛痛が出ることがあり、皮疹出現前だと診断が難しい場合があります。他の胸痛を引き起こす疾患に比べて、格段にポピュラーな疾患であり、この症例でも、最初は強く疑った経過があります。
肋軟骨炎:外傷やウイルス感染が先行することもありますが、多くは原因不明です。若者に多い疾患です。対症療法のみで治癒します。
Tietze症候群:第2~5肋間軟骨移行部に好発する非化膿性の有痛性疾患です。自発痛、圧痛があり、熱感や発赤はなく 、非化膿性で、成人に多く、本態は不明です。多くは自然に治癒します。
他にも、思春期の男児で、胸骨・肋骨関節部の痛み=synovitisにニキビ、手掌足底膿胞症・発疹を伴う稀な胸痛疾患として:SAPHO症候群(Synovitis,Acne,Pustulosis,Hyperostosis,Osteitis)などもあります。

特発性胸痛、心因性胸痛

小児の胸痛は、非器質性の胸痛が最も多いとされています。このうち、心理的要素がないものを特発性胸痛、胸痛の出現に明らかな心理的ストレスや感情的葛藤が関与したものを心因性胸痛と分類するようです。器質性の胸痛疾患を見逃すことは許されませんが、特発性胸痛・心因性胸痛に対して過剰な検査を行うことも不適切です。
今回の症例のように、単純X線検査と血液検査からでは、特発性胸痛の診断になっていた可能性もあり、「胸痛」は、必要で適切な対処・検査を行う臨床医の力が問われる侮れない訴えであることを再確認しました。

胸痛を侮ってはならない

この症例の男児は、呼吸のたびに左胸痛を訴えるというはっきりした症状がありましたが、全身状態は悪くありませんでした。全身状態の良さから、検査データに異常がなければ、CT検査に進まず、胸膜の肥厚をとらえることができていなかった可能性があります。X線CT検査の明らかな有用性をもっと理解して、被曝のデメリットも十分考慮した上で、小児科医としてCT検査を活用する力量を磨く必要性を感じています。
発症2ヶ月時点で、胸膜肥厚は残っており、超音波検査で瘢痕病変の経過を観察していきますが、ウイルス性胸膜炎の瘢痕治癒としてよいかどうか、まだ、問題点は残されています。引き続き、経過観察を行って、きちんとした決着を図りたいと考えています。