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生後3ヶ月未満児のパレコウイルス感染症報告と敗血症のパラダイムシフト

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

はじめに

立て続けに3ヶ月未満児のパレコウイルス感染症のニュースが報告されています。まだ、経験したことのない、確認したことのない感染症ですが、3ヶ月未満児のパレコウイルス感染は発疹を伴い、重症例が多く、小児科医にとっては注目の感染症です。

パレコウイルス3型(HPeV-3)

パレコイルスは、1999年、エコーウイルス22、23とされていたウイルスが、他のエンテロウイルスとは血清学的、遺伝子的に異なることから、ピコルナウイルス科(Picornaviridae : pico=小さい、rna=RNAウイルス)の中に、パレコウイルス属(par(a)=傍、echo=エコー)として創設されました。このウイルス科には、エンテロウイルス属(ポリオ、コクサッキー、エコーウイルス等)、ライノウイルス属などが属しています。旧echo22→Human parechovirus 1=HPeV-1、旧echo23→HPeV-2とされ、その後、日本でHPeV-3が報告、現在6型までに分類されています。
この夏、日本の各地でHPeV3感染症多発の報告が出されています。

3ヶ月未満児でのパレコウイルス感染症の特徴

有熱の新生児、3ヶ月未満児ではパレコウイルス感染症を疑うことが重要です。

  • 特徴的発疹:体幹に発疹を伴うこともあるが、約80%に手掌・足底に紅斑を認め、「有熱の新生児、幼弱乳児での手掌・足底紅斑は、HPeV-3の有力な根拠になる」と報告されています。
  • 敗血症を呈し、重症化する傾向が強い
  • 中枢神経系症状(髄膜脳炎の危険性)
  • 腹満(麻痺性イレウス)を伴う報告が複数ある
  • 血液検査では、CRPの低値と白血球減少傾向が特徴
  • 特異的な治療はない。重症化した場合、重症度に応じた強力な支持療法(PICU管理など)が必要になることを考慮しておく必要がある。

日本では約80%の4歳児で、HPeV-3抗体は陽性化しており、幼児では重症例の報告がほとんどないのに対し、3ヶ月未満児のHPeV-3感染では、特徴的な発疹と敗血症を呈し、重症化する場合が多いという、際立った特徴をもつ感染症のようです。エンテロウイルス71による手足口病とともに、敗血症誘発性ウイルス疾患として注目しなければなりません。

3ヶ月未満の入院児の検討

4月~8月末までの5ヶ月間の有熱の3ヶ月未満児の入院を振り返り、HPeV-3感染症の可能性を検討しました。インフルエンザB、RSV感染症、川崎病、尿路感染症など明確にHPeV-3を否定できる症例を除くと、有熱症例は、0ヶ月4人、1ヶ月4人、2ヶ月7人でした。発疹を伴った症例は0で、白血球5000未満は1人でましたが、軽症でした。フェリチン2900ng/ml、可溶性IL2-R 2025U/mlを示し、白血球減少・血小板減少を伴わず、7日間熱が持続した2ヶ月児が1人でました。血球貪食像は見られず、不明熱・高フェリチン血症と診断せざるを得ませんでした。2014年6月時点で、HPeV-3感染症は考慮外であったために、ウイルス検索は行えていません。高フェリチン血症を示した症例報告もあり、今後は3ヶ月未満の重症不明熱に対して、HPeV−3のウイルス検査依頼を行っていく必要を感じています。

敗血症のパラダイムシフト

敗血症(Sepsis)= SIRS + 感染症

熱と全身状態不良の子ども、特に3ヶ月未満児では、診療に際して、重症感染症=広義の敗血症との疑いをもち、全身感染症を想定した幅広い検査(full sepsis workup)を行うことが小児科医療の基本の一つです。感染巣が特定できない全身感染症も少なくありません。
従来、敗血症は「菌血症+全身症状を伴う重症な状態」とされてきました。しかし1992年以来、新たに【感染症が関与していると考えられる全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome : SIRS)を敗血症とする】ことが提唱されてきました。バイタルサインと白血球数のみによって、実地診療で、簡単に明瞭に、そして迅速に敗血症を認識し、早期の治療開始に結びつけることを可能にするものです。重要な点は、この敗血症規定では菌血症を必要条件とはしていないことです。
敗血症は、「血液培養陽性+ill appearance」ではなく、「SIRS+感染症」というパラダイムシフトです。
この規定によると、ウイルス感染が原因と考えられた場合でも、SIRS基準を満たせば敗血症と診断し、迷わず早期の積極的なempiric therapyを開始し、重症化やショックに備えるということになります。3ヶ月未満児で、この規定で「敗血症」診断がなされた場合、鑑別診断としてパレコウイルス感染症を念頭に置き、ウイルス検索を最初から行うこと、重症化とショックに備えることが必要との結論になります。

敗血症:全身性炎症反応症候群(SIRS)が感染により引き起こされた場合とする

【表1】小児SIRS(年齢別)基準(日本の低血圧基準として改訂が検討中)

【表2】臓器障害の基準