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ウイルス性筋炎 起きられない~下肢の筋痛と筋力低下~

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

筋肉に関する小児疾患は比較的稀で、「小児科のトピックス」でも、インフルエンザによる筋炎(39号 2009年4月1日)と、脊柱起立筋の化膿性筋炎(59号 2010年12月1日)を報告しました。今回は急性上気道炎に続き、筋肉痛と起立困難が生じた9歳の男児例を経験しましたので報告します。

症例 6歳 男児  下肢の筋肉が痛い

第1病日:
咽頭痛が始まる
第2病日:
第3病日:
熱、下肢の筋肉痛、歩き方がぎこちない。整形外科医院受診、骨には異常がないと言われる。I医院受診、咽頭発赤と舌のアフタ及び夏風邪に伴う筋肉痛としてご紹介いただき、当科を受診。意識は正常。
血液検査:CPK 4204IU/l、AST 122IU/l、ALT22IU/L、LDH 284IU/L、白血球6500、インフルエンザ迅速検査A(-) B(-)
第4病日:
解熱。朝、筋力低下が進み、起き上がれない、筋肉痛は肩~上腕に及ぶ。しかし夕方には、起き上がれるぐらいに回復
第5病日:
データはCPK 11223IU/L、AST 469IU/L、ALT 104IU/L、LDH 912IU/Lに上昇したが、筋痛は軽減、起床・歩行はほぼ自由に可能となる。
MR検査:T2強調画像で両側腓腹筋は高信号を示す。s/o myositis
第9病日:
CPK 309IU/L、AST 54IU/L、ALT 55IU/L、LDH 567IU/L に低下し筋痛は腓腹筋下部のみ走ることも可能
第12病日:
通常通り登校開始
第22病日:
検査データはALT 15IU/L、CPK 234IU/L、その他すべて正常化し症状も消失しており、治癒と判断。

急性ウイルス性筋炎の診断

上気道炎に続き、突然の筋痛と筋力低下で始まり、2~3日の歩行障害の後、急速に回復した経過から、良性小児ウイルス性筋炎と診断しました。

急性心筋炎の合併はないか

急性筋炎は横紋筋に生じる疾患で平滑筋の障害は起こらないと考えられており、ウイルス性筋炎での心筋炎の合併の報告を見つけることはできませんでした。
とはいえ、臨床経過では、CPK高値から、心筋障害が合併していないかが気になるところですが、この症例でも、CPK-MB:上昇なし、心筋トロポニン:陰性、心臓超音波検査:心筋機能に異常なし、心電図:不整脈やST—Tの異常は認めず、心筋障害はないものと判断しました。

ウイルス性筋炎について

  • ウイルス感染を契機に小児で発症する筋炎です。数日の経過で治癒する下肢に限局する良性小児筋炎から、四肢の筋群の筋痛と脱力で2~4週間で治癒する中間型の急性筋炎、大量のミオグロビンが形成される横紋筋融解症(rhabdomyolysis)を起こす重症型までの広い一連のスペクトラムがあり、特に横紋筋融解症を伴う場合は、PICU対応が必要となります。
  • 急性良性小児ウイルス性筋炎と呼ばれる一群は、数日~10日で完治します。この症例は、筋炎スペクトラムの中で軽症の良性小児ウイルス性筋炎と診断します。
  • ウイルス性筋炎及び横紋筋融解症を引き起こす原因ウイルスとして、以下のウイルスが報告されています。
    インフルエンザA・B、パラインフルエンザ、コクサッキー、エコー、アデノ、単純ヘルペス、EBV、CMV、麻疹、VZV、HIV、デング熱など。
    この症例ではウイルスの同定を行うことができていません。この時期に流行している小児ウイルスの感染情報(大阪府立公衆衛生研究所感染情報及び国立感染症センター)を参考に、目的ウイルスの種類をしぼって、凍結血清でのペア抗体検査を行う予定です。
  • 筋炎の病態については
    1. ウイルスの直接浸潤による
    2. myotonic cytokinesによる
    3. ウイルス感染で誘発された免疫学的過程で、筋の障害が起こる

    などが推察されています。この症例ではフェリチンの上昇はなく、フェリチンを代理マーカーとする高サイトカイン血症の存在は否定的ですが、②又は③に相当するのではないかと考えています。

横紋筋融解症rhabdomyolysisについて

横紋筋融解症は骨格筋の壊死による細胞内成分が循環血流に放出され、腎不全や不整脈などの合併症を生じる症候群とされます。
古典的症状としては筋肉痛、筋脱力、褐色尿の3つが挙げられます。大量のミオグロビンやカリウム、リンが壊死した筋組織から静脈ないに大量に放出され、ショックや代謝性アシドーシス、急性腎不全が進行します。血液中に放出されたミオグロビンはmonomerで蛋白結合性がなく、尿として排出され、褐色尿、褐色円柱として排出されます。
急性腎不全の発症には複合的な要因が関与していますが、循環血漿量が減少し、アシドーシスが進行し、尿が酸性化した結果、ミオグロビンが糸球体内でゲル化し、遠位尿細管を閉塞させることが大きな要因です。
筋痛、脱力等の場合、CPK高値を確認したら、ミオグロビンの測定を行うことが重要ですが、リアルタイムにミオグロビン測定ができない一般の医療機関であれば、潜血反応と褐色尿、褐色円柱に注意を払う必要があります。この症例では、尿潜血反応は、最初から陰性、6病日に測定した尿中ミオグロビンは10ng/ml未満でした。