診療案内

Medical guidance

シルエットサインと胸腺陰影

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

シルエットサイン(silhouette sign)

胸部CT検査が普及した現在でも、単純撮影は医療現場での大きな武器であり、その読影力は 小児の臨床に携わる医師の能力と比例すると言っても過言ではないと考えます。
胸部PA像で心臓、大動脈、横隔膜などの境界陰影が消失する所見をシルエットサインと呼びます。胸部放射線診断の大御所、Benjamin Felsonが1950年に提唱したサインで、エアブロンコグラム( airbronchogram)とともに、胸部レントゲンフィルムを読影する際の基本的な方法です。例えば、右下肺野に濃度上昇物=consolidationを認め、心臓右縁下部が不明瞭になっている場合、シルエットサイン陽性と判断し、右中葉に病変部位が存在すると推測します。左横隔膜のシルエットが消失している場合、左横隔膜上に病変があることを示します。
【写真1】は、ごく最近経験した右下及び左横隔膜のシルエットサイン陽性の写真です。

症例 1歳5ヶ月 男児 右下心臓のシルエットサイン陽性

当科で

数日間、喘鳴が続き、喘息性気管支炎として、I先生より、ご紹介いただき、入院。胸部レントゲン検査【写真2】で心臓右縁下部のシルエットサイン陽性、CRP<0.02mg/dl、白血球数14000で、「喘息性気管支炎及び肺炎+無気肺」の診断で、クラリスロマイシン及び気管支拡張剤で治療を行い、咳・喘鳴は軽減し、4日間入院、その後、外来観察。

1週間後の胸部レントゲン検査【写真3】で、心臓右縁下部のシルエットサインの改善は全く得られず。「右中葉の無気肺」の診断で、早期の呼吸理学療法が必要と判断し、大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター小児科にコンサルテーションをお願いする。

大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター小児科で

肺分画症の鑑別の必要を考慮して、胸部造影CT検査が実施され、無気肺と思われた異常陰影は胸腺【写真4、5】と判明。座位と仰臥位の胸部レントゲン撮影で、体位により胸腺が移動、坐位で明瞭にシルエットサイン陽性【写真6】、仰臥位でシルエットサインは陰性化する【写真7】ことが確認される。診断は「異所性胸腺」で、理学療法等の治療は不要と判明。

胸腺による右下部のシルエットサイン

胸腺による心臓右縁下部のシルエットサイン陽性であったとの報告をいただいても、実際のCT検査の写真を確認するまでは、納得ができず、納得した後では、足下をすくわれた感とともに、小児の呼吸器疾患に関する高度医療機関を近くにもつことのありがたさを痛感しました。
我々の病院にも、64列の高性能CTがあり、CT検査で鑑別診断を行うべきとの判断ができておれば、診断をつけることはできたはずですが、単純正面像の病変は、無気肺であり、無気肺の早期解除のための最新の理学療法が早急に必要との考えを優先させました。
小児では被曝をできるだけ避けるため、胸部単純正面像をできるだけ深読みすることを心がけ、側面やCTの撮影は極力減らすことを原則としていますが、この症例の経験からは、単純写真の読影力をより一層磨くこと、64列CT検査の有効的な活用を組み合わせて、より質の高い診療を心がける必要があることを教えられました。

胸腺のレントゲン像

DonnellyのDIAGNOSTIC IMAGING:PEDIATRICSから、正常胸腺像のKey Factを訳出しました。この症例に見られる右下心縁のシルエットサインを示すような重力による垂れ下がりと思われる胸腺については触れられていません。

  • 大きさ、形態は多様
  • 5歳までは胸部レントゲン検査ではかなり大きく撮影される
  • 10歳までには相対的に小さくなる
  • 20歳までには胸腺像として突出した形態はとらなくなる
  • 男児でよく見られる:張り出した胸腺像では80%が男児
  • 輪郭:凸型で、肋骨で波形を作る=胸腺ウェブサイン(thymic wave sign)
  • 形:多様
  • セイルサインsail sign:帆のように側方に三角形に張り出すことがある
  • 濃度:一様、カルシウム沈着なし
  • 正常の胸腺は、位置を変えない。気道や血管を圧迫しない。
  • 乳幼児:凸の境界線の四辺形
  • 10歳代:三角形
  • 胸腺は化学療法で40%減少し、もとに戻る。
  • もし、年令相当の大きさでなく、張り出しが強い場合、以下の3つの選択肢を考慮。
    1. 6週間後にレントゲン検査を再検
    2. 造影CT検査
    3. 超音波検査で、正常構造であるかどうかを検査
  • 胸腺が最大になるのは、10歳代
  • 胸部の大きさに対して相対的に最大となるのは乳児期
  • normal variantとして、retrocaval thymus
  • 異所性頸部胸腺aberrant cervical thymus : thymopharyngeal ductに沿って異所性に形成される)
    (頸部胸腺は我々も症例経験があります)