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Medical guidance

地域の小児科センター病院での2014年の川崎病治療戦略

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

地域の小児科センター病院での2014年の川崎病治療戦略

川崎病は、この数年間、1年間に1万人を超す発症数が続いていると考えられます。冠動脈病変は、ガイドラインの推進による治療法の改善によって減少したとはいえ、約10%に冠動脈病変(CAL)が発症し、3%に後遺症(冠動脈瘤CAA)として残ることが示されており、依然として重大な問題点です。IVIG不応症例には、CAL/CAAの発症率が高く、IVIG不応症例に対する治療戦略は、川崎病によるCAL/CAAを予防のための治療戦略と同義であるといえます。IVIG不応症例に対して、改訂ガイドラインで、エビデンスレベルに基づいた治療法が提案されていますが、どのような段階的な治療法が最適かを模索する努力が続けられています。

最新の治療戦略 - 第38回近畿川崎病研究会(2014年3月1日)

2014年3月1日、恒例の近畿川崎病研究会が開催されました。治療法の基礎となる有意義な報告が多数あり、2014年における最前線の治療戦略が、それぞれの医療機関から報告されました。現場で治療戦略に生かすため、IVIG不応症例に対する段階的治療について、研究会の報告の趣旨を改訂ガイドラインの段階治療に沿って箇条書きにしてみると以下のようになります。

1st line

大阪川崎病治療研究グループから、大阪スコアによる不応例の層別化とステロイドパルス療法の1st lineでの使用による治療効果の改善が報告されました。
群馬、久留米、大阪のスコアを使用して、症例を層別化した上で、ステロイド剤を1st lineから積極的に併用している医療機関は増加していますが、大半を占めるにはいたっていないのが現状です。

2nd line

IVIGの再投与を2nd lineとすることは一致した対応策として認知されています。

3rd line

CsA :
和歌山医大からCsAが治療戦略の重要な一翼を担う有効な薬剤であるとの報告がありました。
CsA投与中止のめどは、CRP 1mg/dl以下とされています。
IFX :
九州大学・九州厚生年金病院から難治性川崎病に対するIFXの使用24例で、約8割の有効性が報告されました。
血漿交換 :
横浜市立大学から「IFXと血漿交換が追加治療の両翼を担う、重症川崎病に対する段階的治療法の実際」の報告がなされ、血漿交換の豊富な経験をもとに、難治性川崎病の治療の実際が示されました。IFX投与が可能な症例で、その効果を見る余裕がある場合は、まずIFXを投与、不応であれば、血漿交換。IFX投与ができない症例、IFXの効果を見る余裕がない場合には、血漿交換。①IVIG→②IVIG→③IFX→④血漿交換 の段階的な治療法が、血漿交換の豊富な症例数をもとに説得的に報告されました。

千葉大学 尾内善広先生から『川崎病の遺伝的解明にむけて』の演題で、川崎病の遺伝子レベルでの最新の研究の成果についての特別講演がありました。この研究の先に原因究明の展望を予感させる興味深い講演でした。

地域の小児科センター病院での2014年の川崎病治療戦略

2014年の改訂ガイドラインでは、「組織的に汎冠動脈炎が始まる8~9病日以前に治療が奏功し、有熱期間の短縮や炎症マーカーの早期低下を目指す。不全型でも診断がつき次第、発熱症例には全例IVIGを開始することが望まれる」とされています。川崎病の診断→治療開始→解熱を、10病日までに実現するための、日数逆算の治療法の選択を考慮すべきという、研究会における座長の締めくくりに、重い意味が含まれています。IFX、血漿交換は高度医療機関に担っていただくとして、地域の小児科センター病院として、私たちはこれまでの治療経験・2014年の最前線の研究会での報告を基礎にして、2014年の川崎病治療戦戦略を次のように考えています。

  • 不全型川崎病の診断:逆算の必要性からすれば、診断基準を満たすまで、いたずらに経過観察というわけにはいかない。小児科医として川崎病以外の疾患は否定できると判断した場合、診断基準を満たしていない不全型川崎病を、川崎病と診断し、治療を開始する姿勢で診療にあたる。=診断と治療開始の前倒し
  • 群馬・久留米・大阪スコアを参考に、1st lineでの、IVIGとステロイド剤の併用を考慮する。群馬スコアは当てはまる症例が多数となり、ステロイド剤の多用につながる可能性があり、当面、大阪スコアを重視した対応を考える。(小児科のトピックス2013年8月号)
    川崎病の全症例に診断時点で、不応例の層別化を行い、mPSLの併用が望ましいかを必ず検討する。
    群馬のRAISE Studyにはエビデンスがあり、CAL/CAAを減少されるためには、層別化を経た上で、1st lineでIVIGに併用する薬剤(ステロイド又はCsA又はそれ以外)の併用が今後、標準的治療として確立されていく可能性があり、今後の臨床研究の進展が望まれる。
  • ASA(インフルエンザ流行時、または水痘未罹患児で水痘の流行がある場合は、フルルビプロフェン)を、ガイドラインに沿って併用する。
  • 2nd lineとしてIVIGの再投与を行う。初回のIVIG投与後、24時間以内に解熱しないか、再燃で熱が出たとき、IVIGの再投与をためらわずに行う。この際、UTI(ウリナスタチンの併用を考慮)。2nd line以降では、凝固促進作用などを考慮して、ステロイド剤は使用しない。
  • 3rd lineとして、CyA投与を選択する
  • 4th lineとして、CyA投与3日以内に反応がないとき、難治性川崎病として、高度医療機関へIFX又は血漿交換のために搬送する。発病10日のdead lineが迫っているとき、又はCALの差し迫った危険があるときなどには、血漿交換を強くお願いする形で血漿交換治療が可能な施設へ搬送することも念頭に置く。

昨年の考え方との違い

2nd lineでのIVIG単独投与、すなわち、ステロイド剤の不使用
3rd lineでのCsAの位置づけの明確化
不全型川崎病の診断をためらわない

小児科のトピックス2013年8月号の時点では、「①IVIGへの不応例の予測スコアを参考に、1st lineでステロイド剤を併用する。②IVIGに不応な場合、追加IVIGに加えてステロイド剤の併用も考慮する。③血管病変の危険性が高い場合には、凝固機能を亢進させるステロイド剤の使用を控え、シクロスポリンの選択を考慮するなどが、現時点での治療戦略だと考えています。さらに、病状が沈静化しない場合には、レミケード、血漿交換が選択肢ですが、その場合は我々の守備範囲を超えており、後送高度医療機関へ搬送させていただきます。」が我々の方針でした。
しかし、IVIG再投与での不応例に対するCsAの有効例を複数経験することで、ステロイド剤の使用は、1st lineで不応予測例に対しのみ、IVIGと併用して使用することとし、2nd lineはIVIG単独再投与(UTIの併用はありうる)、3rd lineではCsAを使用することとしました。

症例1 3rd lineでCsAを使用した生後7ヵ月 男児

既往歴 :
生後2ヶ月未満で川崎病を発症 IVIG2g/kgで軽快。CAL(-)
生後7ヶ月で、熱発
第2病日 :
頸部の紅斑
第4病日 :
紅斑拡大、結膜充血出現、頸部リンパ節腫大2cm、口唇・口内粘膜発赤、手掌紅斑あり、川崎病再発と診断。IVIG2g/kg+ASAで治療開始。
第5・6病日:
解熱せず
第7病日 :
IVIG 1g/kgなお、解熱しないため
第8病日 :
IVIG 1g/kg
第9病日 :
37.7度
第10病日 :
解熱するが不機嫌 左右冠動脈径とも3mm軽度拡大 CsA4mg/ kg投与開始

以後、解熱、全身状態改善  冠動脈径は13病日には2.0mm以下に正常化 IVIGの再投与で、解熱したが、不機嫌さとCALの出現があり、再再燃の可能性が高いと判断し、CsAを使用し軽快しました。

症例2 急性炎症反応を示さない不全型川崎病へのIVIG治療 生後10ヶ月 女児

熱と咳で発症 熱と咳が続く

第3病日 :
熱と咳で、ご紹介にて当科初診。
右上葉に肺炎あり、CRP1.13mg/dl、白血球数17800、band18%、Seg34%。肺炎の診断でCTRX開始。
第4病日 :
解熱、体幹に発疹、BCG痕の発赤明瞭
第5病日 :
熱発、胸部レントゲン:右上葉無気肺  CRP0.76mg/dl、白血球11800
その後も、熱が続くが、川崎病の症状は、発疹とBCG痕の変化のみ
第8病日 :
解熱せず、不全型川崎病の診断で、IVIG1g/kg投与
第9病日 :
解熱
第10病日 :
再び熱発、IVIG1g/kg追加投与。以後、解熱

熱と発疹、BCG痕の発赤、白血球数軽度上昇、CRPの上昇なし。全身状態は良好な状態が続いていました。第8病日:不全型川崎病の診断で、IVIG1g/kg投与し、いったん解熱、しかし第10病日に再発熱あり、IVIG1g/kgを追加し、軽快しました。経過中、CALを認めず。その後、無気肺も消失しました。