診療案内

Medical guidance

川崎病 2012

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

2012年夏の川崎病症例

この夏には、「発熱と頸部リンパ節炎のみが先行する川崎病」「熱と膿尿のみが先行する川崎病」を経験しました。小児科医としても診断に苦慮する症例でした。

【症例1】 13歳8ヶ月 発熱と頸部リンパ節炎のみが先行する川崎病

  • 経過
    頸部リンパ節炎と熱で発症、第4病日CRP13mg/dl、白血球13500、第6病日CRP6.3mg/dlに低下、化膿性頸部リンパ節炎の軽快過程として観察。
    第9病日、解熱したにもかかわらず結膜充血、イチゴ舌、前胸部の発疹が出現、CRP15.5mg/dlに再上昇し、当院へご紹介いただく。この段階で、川崎病の診断基準5/6を満たす確定症例であった。項部強直あり、髄液検査を実施(髄液細胞数5/μl)後、心臓超音波検査を行い、両側冠動脈の拡大を認めたため、近畿大学医学部附属病院の小児科にご紹介し、受け入れていただく。
  • 考察
    1. 年長児でのリンパ節炎:13歳という年令では、熱と頸部リンパ節炎の鑑別診断で川崎病は、EBV感染症、化膿性リンパ節炎、組織球性壊死性リンパ節炎(菊池病)に次ぐ位置にあります。第21回川崎病全国調査では、二年間で32730人の発症者のうち、10歳以上は180人(0.76%)との統計が示されています。16歳の症例もあり、小児ではどの年令でも川崎病があることを認識する必要があります。
    2. 本症例のように、熱とリンパ節炎のみが先行する症例の場合は、特に診断には困難が伴います。最新(2012年9月)の日本小児科学会雑誌にもその区別について検討した文献が掲載されていますが、検査データでの区別は実際上不可能です(検査値で、有意な差が検出されたのは、血小板数で、川崎病の病初期では血小板が32万以下のことが多いが、化膿性リンパ節炎では32万以上のことが多い)。年長者の川崎病では、後遺症の発症率が高い結果が出ているので、診断基準を満たさない不全型川崎病の可能性を常に考慮すること以外に対策はなさそうです。
  • 性別・年齢別心障害の出現率

【症例2】 2歳8ヶ月 熱と尿所見異常のみが先行する川崎病

  • 経過
    熱のみで発症し、第3病日、CRP21.1mg/dl、白血球10800で、当科へご紹介いただく。尿検査で、蛋白2+、潜血反応3+、尿沈渣RBC20~29、WBC10~19。尿路感染症の診断で入院。CTX投与。第5病日、熱が続き、尿所見の改善なし。尿沈渣WBC30~40。第6病日、解熱せず、他の症状なし。抗生剤をPAPM/BPに変更、川崎病を考慮し心臓エコー検査を実施、冠動脈、心機能に異常を認めず。
    第7病日、熱以外の川崎病の5症状に加えて、BCG部の湿潤・発赤が出現。6/6の川崎病と確定。免疫グロブリン2g/kg投与開始、順調に沈静化。
  • 考察
    1. 尿所見異常のみの先行例で、診断に苦慮しました。抗生剤に反応せず、CRP20mg/dl以上、膿尿・血尿が持続しました。第6病日に行った当科のカンファレンスでは、川崎病でなかったら、第7病日以後、バンコマイシンを併用することなどを決めていましたので、川崎病の症状が出なければ、引き続き抗生剤の追加、変更で対処していた可能性があります。
    2. 川崎病を疑ったのは第6病日でした。川崎病を強く疑っていたわけではなく、保険をかけるつもりで、心臓超音波検査を行っています。
    3. 免疫グロブリンを投与開始と同時に、抗生剤は中止しました。川崎病罹患時の膿尿が、一部で細菌尿を伴っているとの報告もあり、抗生剤の使用継続は症例毎に判断することになります。
    4. 抗生剤に反応しない熱、膿尿が5日以上続く場合、不全型川崎病の可能性を教えられました。

【症例3】 1歳10ヶ月 川崎病の6ヶ月後の再発

  • 経過
    1歳4ヶ月で、川崎病に罹患。第4病日に熱以外のすべての診断基準が出そろい免疫グロブリン2g/kg使用。第7病日なお高熱で、免疫グロブリン2g/kg追加使用。しかし、微熱、結膜充血が続き、ミラクリッドを併用。その後、心臓の異常をきたさず沈静化。
    1歳10ヶ月、熱で始まり、第3病日に診断基準の5/6を満たし、BCG部の発赤が出現。川崎病の再発と診断。免疫グロブリン2g/kg投与で、すみやかに解熱、沈静化。心臓の合併症なし。
  • 考察
    1. この症例では再発例であったために早期の治療につながり経過が軽症化した可能性があります。
    2. 再発は、2011年全国調査では3.6%、同胞例は1.6%、両親のいずれかが川崎病の既往例は0.7%と報告されています。

第21回川崎病全国調査(2009年~2010年のまとめ)

自治医大2011年9月発表
青文字は筆者のコメントです。 )

  • 2年間の報告患者数は23,730人、男:女=1.32:1
  • 診断基準への一致度
    定型例(5/6基準を満たしたもの):78.7%
    不定型例(4/6+経過中に冠動脈の拡大・瘤が確認され、他の疾患の可能性が否定された症例):2.6%
    不全型(上記のいずれもに合致しないが、主治医が川崎病の疑いありと診断したもの):18.6%

    不全型で冠動脈瘤をきたした症例の報告が散見されることから、診断基準をふまえながら、「不全型」川崎病の診断を行い、早期の川崎病急性期治療とフォローアップを行う心構えも必要

  • 急性期異常の割合は9.3% 種類別では冠動脈の拡大7.26%、弁膜病変1.19%、瘤1.04%、巨大瘤0.24%、狭窄0.04%、心筋梗塞0.01%
  • 後遺症の割合は3.0% 種類別では、冠動脈の拡大1.90%、瘤0.78%、弁膜病変0.29%、瘤1.04%、巨大瘤0.22%、狭窄0.03%、心筋梗塞0.02%
  • 免疫グロブリン治療(IG)を受けた症例:89.5%

    症例の約10%はIG投与なしに治癒

  • 初回IG投与後の追加治療:追加IG(19.1%)、ステロイド(6.5%)、infliximab(0.9%)、免疫抑制剤(主にCyA)(0.8%)、血漿交換(0.5%)

    初回IG治療に反応しない例が約20%ある

    初回IG不応例の追加治療の割合:追加IG(91.5%)、ステロイド(29.0%)、infliximab(4.3%)、免疫抑制剤(主にCyA)(3.7%)、血漿交換(2.2%)

  • 合併症:重症心筋炎(0.16%)、脳炎・脳症(0.09%)、頻脈性不整脈(0.07%)、肉眼的血尿(0.04%)

    冠動脈瘤以外に、様々な重い合併症が報告されている

川崎病全国調査成績の概要 (川崎病研究班の資料から)

新しい治療法の模索

  • 初回IGへの不応例が約20%あることから、あらかじめ不応例を推定し、初回IGにステロイド剤を併用する治療法が考案されてきています。不応例を減らすことで、後遺症減少につなげようとするものです。IGとアスピリンは急性期治療の基礎ですが、エビデンスに基づいた新しい追加的な治療法の開発が期待されます。
  • second-lineの治療法として、ステロイド、免疫抑制剤(CyA、メソトレキセート)、抗TNFα、血漿交換などの治療が行われています。これらに加えて、抗CD-20(Rituximab リツキサン:B細胞の表面抗原CD20を抑制)が有効であった報告がなされています。
  • 川崎病診断の手引き(第5版)には、「4歳以下の乳幼児に好発する」と記載されています。あくまでも4歳以下に好発する疾患であって、60日未満の症例や、年長者の症例もあり、全年令に発症することも確認しなければなりません。
  • また、診断の手引きには、「主要症状を満たさなくても、本症が疑われる症例が約10%存在する。その中に、瘤が確認される例がある」とのコメントが併記されており、確定診断の症状が揃うまで待つことより、他の疾患が否定できる場合は、不全型川崎病として積極的な対応を行うことも示唆されています。