診療案内

Medical guidance

小児の肝損傷 injury alert

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

はじめに

不慮の事故は死亡原因としては、1~4歳、5~9歳で1位となっています(厚生労働省)。事故対策は、重要な課題です。

平成23年度人口動態統計の概況

小児の腹部打撲の原因は、交通事故が最も多く、転倒、転落、スポーツ外傷、虐待、自転車のハンドル外傷、シートベルトによる外傷などです。
腹部打撲は重症であっても初発症状は軽症なことがあり、自宅での経過観察がとして帰宅させた後に、遅れて症状が出現する可能性があり、注意が必要とされています。最近、そのような危険と背中合わせの症例を経験しました。一見とても元気で、甘く見くびって、危うく帰宅させる、そんな危険な肝損傷の症例に遭遇しました。

症例報告 8歳 女児 主訴 腹部打撲

初診時

歩いて診察室に入り、腹痛の訴えなく、表情もまったく普通で、腹部臓器の損傷があるとは、全く想像できない元気さ。自分でベッドに横になる。
上腹部に幅約1cm、長さ約10cmの横に走る打撲による発赤あり。他に症状なし。
腹部超音波検査、検尿程度を行い、帰宅していただくつもりで対応。

肝損傷

腹部超音波検査で、肝皮膜下血腫と肝組織の挫滅所見あり。
血液検査:AST181 IU/L ALT153 IU/L LDH 489 IU/L CPK 548 IU/L Hb 11.7g/dl
腹部造影CT検査:腹部超音波検査と同様

発生状況

障害の種類:転倒による打撲傷 学校の園庭で、鬼ごっこをしていて、校舎1階から突き出た車椅子用スロープを走って横切ろうとして、スロープ手前片方の約20cmの車椅子の脱輪予防の縁につまづき、うつぶせに反対側の縁に倒れ、腹部を打撲(写真の向かって右からスロープを走って横切ろうとして転倒、反対側の縁で、上腹部を打撲)。一瞬息が止まったぐらいの衝撃があったとのこと。その後、嘔吐が1回あり、徐々に元気さを取り戻し、1時間後の当科への受診では歩いて受診、元気に入室。

大阪府立母子保健総合医療センター小児外科のconsultationを受ける

このような場合は、大阪府立母子保健総合医療センター小児外科に電話をいれ、相談にのっていただくことにしています。小児外科の専門医サイドの見解では、皮膜が破裂し、大出血の状態での搬送は危険が伴うので、現在元気そうに見えても、今すぐ、小児外科に搬送すべきとの見解で、ベッドを確保していただき、すぐに転院・搬送となりました。小児外科の専門医の適切なアドバイスと受け入れで、最も適切な対処を行うことができました。
1週間後、保存的治療で血腫と実質損傷は徐々に縮小し、当科へのback transferとなりました。最低、合計2週間の安静の後退院されました。

日本外傷学会臓器損傷分類  肝損傷分類2008

肝損傷の場合、出血が急性期の最大の注意点となります。学会の分類があります。

  • Ⅰ型 肝皮膜下損傷 subcapsular injury 皮膜に損傷なく連続性が保たれている損傷
    a.皮膜下血腫 subcapsular hematoma
    b.実質内出血 intraparenchymal hematoma
  • Ⅱ型 表在性損傷 superficial injury 皮膜が破れ、肝臓に深さ3cm以内の損傷
  • Ⅲ型 深在性損症 deep injury  深さ3cm以上の肝損傷
    a.単純深在性損傷 simple deep injury  挫滅や壊死組織が少ないもの
    b.複雑深在性損傷 complex deep injury 組織挫滅や壊死組織が広範に及ぶもの

形態分類の説明では「Ⅰ型の血腫が時間の経過とともに増大し破裂したとき、損傷はⅠ型からⅡ型、Ⅲ型に移行する。Ⅰ型であっても、厳重な経過観察を要することがある。」と記載されています。
患児の場合は Ⅰa及びⅠbとなり、見かけの元気さに惑わされず、厳重な経過観察が必要な症例であったことは間違いありません。

腹部損傷、肝損傷の注意

以前はショック状態になるまで分からず緊急手術になる事もあったようです。診察時の注意点を整理します。

腹部診察で、圧痛、腹部膨満、擦過症や皮下出血があれば臓器損傷を疑う

「子どもの虐待医学」の中でも、「小児外傷患者全般において、腹部外傷は、見つかりにくいのに致死的となる損傷として最も多いもの」と指摘されており、転落・転倒事故だけでなく、事故による外傷の診察でも、虐待児の診察においても、腹部の診察所見をしっかり把握することは小児科医の重要な仕事です。

体表に所見が認められないときでも、臓器損傷を生じていることがあるため、検査結果と合わせて総合的な判断が必要

画像検査は重要

Free airの確認、超音波検査、必要に応じて腹部CT検査など。
成人では、FAST(focused assessment with sonography for trauma)の呼び名で、両側胸腔及び腹部の液体貯留の有無と、実質臓器の損傷有無のスクリーニングを超音波検査で行う方法が外傷の初期評価に有効とされています。小児でのFASTの有効性は確立されてはいませんが、損傷部位に向けた超音波検査は非常に有効なものです。

重症であっても初発時期は症状が軽微なこともある

感染症等では、受診時の全身状態がよければ、軽症であることも多いですが、外傷の場合は、自宅で経過観察ができそうな状態でも、遅れて症状が出てくる場合があることを知っておくことはとても重要です(頭部外傷でも同じ)。

受傷直後では必ずしも検査値に異常が生じているとは限らないので経過観察を怠らない

肝損傷ではトランスアミナーゼの上昇は特徴的であるが、膵損傷の場合にはアミラーゼが上昇しない場合があり、注意を要する

肝損傷の治療後の合併症として、再出血、感染、胆汁漏、胆汁嚢胞(biloma)、胆管閉塞などに注意

患児の場合、受傷直後の画像で小さな胆汁嚢胞様変化が見られたので、胆汁嚢胞(biloma)に注意して経過観察したが、幸い、合併症なく経過しています。

injury alert  障害速報

小児科学会雑誌に毎号、injury reportが掲載されます。肝損傷については、「自転車のハンドルによる肝損傷」の報告があります。11歳女児で、ハンドルにかけた傘が前輪のスポークに引っかかって、転倒、右腹部をハンドルの先端で強打し、腹痛が持続するため3時間後に受診、胸腹部エコーによる出血スクリーニング(FAST)では異常がなかったが、腹部造影CTで肝損傷(Ⅰb)を認め、保存療法で治癒した例です。
今回の症例では 「園庭に突出した車椅子用スロープの縁(縁)による肝損傷」となります。このスロープは校庭に突出したつまづきやすい障害物となっており、容易にまたいだり、横切ったりできるため、横切ったり、低い縁をまたごうとしてつまづくことは起こりがちな構造物となっており、今後の事故再発予防に向けた配慮が必要となります。

エピソード

病院へ来たときどうしてあんなに元気だっのかとの質問に対し、「学校から病院へのタクシーに乗るとき、パパが来てくれて、パパの顔を見たら元気になったの」と笑顔で答える1年生でした。
パパの面目躍如!