診療案内

Medical guidance

小児腸重積ガイドラインの役割

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

2012年日本小児救急医学会から「エビデンスに基づいた小児腸重積症の診療ガイドライン」が発表されました。
腸重積症に関しては、各地域、各病院ごとに、伝承されてきた各々の方法による治療がおこなわれてきましたが、医療技術の進歩によって、診断法、治療法について、いくつかの選択が可能となり、「小児救急の現場で、少なからず混乱が生じている」ことに対して、適切な対処法を提示することを目的としたものです。
2014年1月31日集計予定で、ガイドライン公表後調査が行われています。ガイドラインの意味を再確認し、次の症例に備えていきたいと考えています。

小児腸重積ガイドラインのポイント

小児腸重積症の疫学

  • 欧米では、1歳未満の発生頻度は10万人の出生に対して50人前後である。男女比は約2:1である。再発率は10%前後。1歳未満の乳児が半数を占める。
    →当院での過去3年間の小児腸重積症は17例、年間平均6例、そのうち、1歳未満は7例(35%)でした。男女比は10:7、再発例は1例でした。Up to Dateによると、発症率は1~4/1000出生です。私たちの病院の診療圏の年間出生数はコア部分で2500人(周辺地域で1000人)と考えると、年間発症数は2.5(3.5)~10(14)となります。年間6例の実績は診療圏での小児医療センターとしての役割をしっかり果たしていることを示しているデータと評価しています。

診 断

  • 腹痛の頻度が最も高く次いで反射性嘔吐を伴う頻度が高い。この段階で本症を疑う必要がある
  • 血便は本症に特徴的であるが病初期には頻度が低く、時間経過とともに頻度が増加する。
  • 超音波検査は感度、特異度とも100%に近い報告があり、スクリーニング検査に有用である。CT検査は被曝もあり、第1選択とはならない。
    →腸重積症の三主徴として、嘔吐、血便が挙げられますが、3つとも揃うのは10~50%程度とされます。超音波検査は、極めて有効腹痛で、target sign、doughnut sign、multiple concentric ring sign、Up to Dateではbull’s eye、長軸断面はpseudokidney signと称されます。私たちは、小児腸重積症でCT検査を行ったことはありません。

小児腸重積症の重症度分類

  • 以下の重症度分類を提唱する。
  • 重症度分類表に掲げられた項目は、それぞれ重要で、大変参考になるものです。症例毎に、重症度分類に当てはめることをルーチンに行う必要があります。

小児腸重積症の治療

  • 全身麻酔は必要ない。鎮静剤については、現時点では術者の選択にまかされる。
  • X線透視下と超音波下の選択については、超音波整復には放射線被爆がないという利点がある。現状では施設による医療環境の違い、医師の習熟度を考慮し、施設毎に慣れた方法を選択してかまわない。
    →超音波整復法に習熟することが次の課題であることが暗に示されているようです。
  • バリウム整復には長い歴史があり、なじみ深い整復法である。しかしながら、整復中に腸穿孔を起こすと重篤化するため、バリウムは勧められない。
    →空気、又は6倍希釈ガストログラフィンの使用が勧められています。
  • 超音波下非観血的整復術では、空気又は生理食塩水のいずれを用いても良い。
  • 整復圧 →以下の圧の設定は、多いに参考にすべきです。
    水溶性造影剤・生食 120cm溶液柱(94mmHgに相当)
    空気整復120mmHgまでの圧で整復
    低めの圧(溶液では100cm溶液柱、空気では80mmHg)で始めるのが良い。
    さらに、6ヶ月未満時では穿孔の危険が高いため、より低い圧(溶液では80cm溶液柱、空気では60mmHg)から開始する慎重さが必要。
  • delayed repeat enema(DRE)は有効。
    →状態を評価した上で、2~4時間後に再度非観血的整復にトライすることで、整復に成功する場合があることが示されています。大変参考になる方法です。
  • 手術適応は、ショックが改善できない場合、腸管の壊死・穿孔、腹膜炎がある場合、非観血的整復法で整復できない場合や病的先進部がある場合などである。腹腔鏡下整復術は有効性が期待できる。
    →乳児に対する腹腔鏡下手術は困難を伴いますが、外科の先生方の今後の課題となりそうです。

手術に至った症例 1歳0ヶ月 男児 

起床時から啼泣、元気なく午前6時半に嘔吐、数回嘔吐が続く。午前、U小児科受診、活気なく顔色不良、浣腸で血便で、腸重積症の診断でご紹介いただく。
腹部触診で左季肋部に腫瘤を触知。超音波検査で脾弯局部にtarget sign。ミダゾラム投与後、バリウムでの高圧浣腸を実施、先進部は120cmの圧で横行結腸を緩徐に移動、やっと肝弯曲部を通過し上行結腸上部に移動するも、それ以上の移動がなく、手術以外に方法がないと判断し、大阪府立母子保健総合医療センター小児外科に受け入れていただく。
母子センターでの超音波検査でも横行結腸にtarget signを認め、非観血的整復が困難との判断で手術に移行。Hatchinson法で整復、特別な器質的異常所見を認めず。

この症例は、2010年の症例ですが、この数年間で非観血的整復で治療できなかった唯一の症例です。先進部が脾弯曲部に達した場合、腫瘤は当然のことながら左季肋部に触れます。この三年間の小児16例では、先進部が脾弯曲部1例、横行結腸1例でした。内科で32歳の腸重積症例が1例あり、横行結腸型でした。幸い非観血的整復で治癒しています。
三年間の症例17例のうち、2011年の1例はバリウム使用でしたが、他の16例はすべて空気整復でした。2010年から2011年が当院でのバリウムから空気整復移行の時期でした。ガイドラインではバリウム使用を中止することを求めていますが、次には、超音波による整復確認に進むことが示唆されています。当院でも、今年1例、超音波での整復にチャレンジしましたが、成功せず、空気整復に移行しました。その症例は空気整復でも数回の手技を必要とした手強い症例でした。ガイドラインに後押しされて、2014年には超音波下での整復を行うようにしたいと考えています。

私たちが心がけていること

整復後の超音波による再確認

整復が正しく行われたかは、臨床経過と症状で確認することができます。このことより、原因として異常な先進部が超音波検査で検出できないかをみておくことが目的です。9歳の腸重積で、回腸末端の壁が整復1~2週間で急速に肥厚・増大し、Burkitリンパ腫であった症例を経験しています。

便培養検査の実施

腸重積が腸管出血性腸炎の合併症で引き起こされた症例を複数経験しました。血便に加えて、感染症の疑いがある場合、便培養を行うことにしています。

再発への注意

再発率が高いことから、腹部症状で受診する際には、必ず腸重積の既往を伝えるよう指導しています。

小腸小腸重積症

ウイルス性腸炎の場合、時に小腸小腸重積像が超音波検査で認められます。これまで経験した小腸小腸重積は全例自然整復されました。これはbenign small bowel intussusception(benign SBE)と呼ばれます。
ガイドラインには「重積部分が3.5cm以上あれば、手術になる可能性が有意に高いとの報告もある」、「嵌入腸管の壁が厚く、しだのような複雑な形態が特徴」と記載されており、複雑な形態のものには特別な注意を払う必要があります。

ロタウイルスワクチン服用後の乳児への注意

ロタウイルスワクチンの服用の最終期限はロタリックス24週、ロタテック32週となっています。
腸重積の増加年齢である6ヶ月以後での服用を避ける目的です。これまでこの2種類のワクチン服用で腸重積の増加の報告はありませんが、1世代前のワクチン(Rotashield)が腸重積症の増加で回収されたこともあり、いま少し注意が必要と考えています。