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Medical guidance

アプガースコア1点からの生還  新生児医療と地域周産期母子医療センターの活動

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

当院は地域周産期母子医療センターとして、産科・小児科の連携で地域の周産期の2次医療(NICU/MFICU)の向上に努力しています。今回は、最近の新生児医療における貴重な症例をご報告します。

症例1 アプガースコア1点からの生還

ゴールデンウィーク中の深夜、胎児基線頻脈(200回/分)による緊急帝王切開が小児科医2名の立会いのもとに行われました。在胎39週0日 体重3042gのベビーがアプガースコア1点で出生しました。新生児心肺蘇生法、気管内挿管、サーファクテン投与、人工換気療法、PIカテーテル、イノバン、ドブトレックス投与など、出生後の数時間は、低酸素性虚血性脳症(HIE)の発症の危険性、脳低温療法への移行の必要性を考えながらの治療でした。緊急帝切の判断から娩出までの産科側の手早い対応と、小児科医師2名による適切な新生児蘇生処置の実施により、その後の治療への反応は良好で、無事、危機を乗り切ることができました。
小児科・新生児側の蘇生の質によって、新生児の予後が左右されることがないよう、新生児心肺蘇生法(NCPR)ガイドライン2010に基づき質の高い蘇生法が実施できるよう、今後も研鑽を積んでいきたいと考えています。

分娩の経過

  • 【午前4時32分】 3042gで出生。羊水混濁著明。口腔、咽頭吸引で、吸引チューブに黄緑色の粘稠な羊水が付着、粘性が高く、チューブ内に吸引できず、チューブ先端に付着。
  • 1分後:アプガースコア1点(心拍50回/分)。マスクバッグ蘇生、肺の膨らみは不良。
  • 4分後:喘ぎ呼吸出現  3.5Fr気管チューブ挿管  ジャクソンリースでの陽圧  呼吸開始
  • 5分後:アプガースコア6点
  • 10分後:自発呼吸持続して出現 酸素飽和度80%代
  • 30分後:自発呼吸でNICU入室
  • 胎便吸引症候群の診断で、サーファクテン希釈液(1v=20ml)による気管内洗浄後、サーファクテン2vを3分割で気管内注入。人工呼吸器を装着。筋緊張に異常なく、Moro反射、吸畷反射出現、異常運動なく、四肢の動きも出現。
  • 人工呼吸器装着:IMV→SIMV modeを経て、26時間で離脱。酸素投与は50時間で終了
  • 経過で異常運動、けいれん、哺乳障害、無呼吸などの症状を伴わず。経時的な頭部超音波検査、12日目での頭部MRI検査:頭蓋内に著変なし。眼底検査:異常なし
  • 14日目:3578gで退院。今後の継続観察は必要だが、神経学的な異常所見は認めない。

仮死出生の原因

  • 母親の経過 初産 帰省分娩、当院産科で継続観察、妊娠経過に著変なし。
    分娩前日から、体がだるく胎動も鈍かった。分娩当日(39週0日)午前3時ごろ、性器出血、胎動が不明との、電話相談あり、直ちに来院を指示、その後も性器出血あり、腹痛、震えが出現。3時20分入院。頻回の子宮収縮と遅発性一過性徐脈を認め、その後、胎児は基線頻脈(200回/分)となり、緊急帝王切開に至りました。
  • 分娩直前の母のCRP3.5mg/dl、出生直後のベビーのCRP6.8mg/dlで、絨毛羊膜炎などの感染症が背景にあると考えられますが、細菌培養では原因となる病原菌を検出できませんでした。

症例2 早期に診断できた新生児GBS(B群連鎖球菌)敗血症の一例

胎内や出生直後に発症する新生児の感染症は進行が急速であり、早期に発見し対処することが求められます。母親の熱、ベビーの症状や検査所見から、重症感染症と判断し、早期に治療を開始できた症例の報告です。 熱、胎児心拍異常の妊婦がOGCSを経て、当院産科に緊急搬送入院しました。産科側から情報を受け、担当の小児科主治医は、出生前からベビーの細菌感染症を疑っていましたが、出生直後のベビーの白血球数が4100で極端に低いことから、重症感染症〜敗血症を強く疑い、培養結果を待たずに、抗生剤とγグロブリン製剤の投与を開始し、経過を見守ることにしました。24時間後、ベビーの血液培養で、GBSが検出され、GBS敗血症と診断しました。担当主治医の高度な判断が早期の適切な治療に結びつきました。

分娩の経過

  • 産婦人科医院で経過観察の38週4日の妊婦が、母体発熱し、医院にてABPC2g投与。胎児頻脈・胎動減少をきたしたため、OGCS経由で当院へ緊急搬送入院。母CRP0.7mg/dl
  • 破水なし。陣痛発来あり、人工破膜し、経膣分娩にて出生。羊水混濁なし。
  • ベビー:体重2424g(IUGR) アプガースコア8点(1分)/9点(5分)
    出生時の検査:白血球4100(好中球29%、リンパ球67%)CRP0.3mg/dl IgM≦5mg/dl
  • 母親の症状とベビーの白血球の低さから新生児重症感染症を疑い、抗生剤(ABPC+CTX)及びγグロブリン400mg/kgの投与を開始。
  • 生後6時間で39.5℃、髄液検査実施:細胞数50/μl(すべて単核球)、メニンギートパストレックスによる細菌抗原検査では、すべて陰性で、髄膜炎の発症は否定。
  • 24時間後、血液からGBSを検出、その後、母の膣分泌液、ベビーの出生時の鼻腔、耳孔からGBSが検出されました。感受性は、ABPC、CTRX、CFPN、MEPM、CAM、CLDMに対してsensitive、LVFXにresistantの結果でした。
  • 出生翌日、CRPは8.3mg/dlまで上昇した後、低下。白血球も増加、好中球増多を経て、正常化に向かっています。

GBS感染症

  • GBS及び大腸菌が新生児敗血症の2大原因菌とされています。
  • 10〜30%の妊婦は、膣前庭部と肛門周囲にGBSを保因しており、垂直感染予防の産科ガイドラインにそって、妊娠後期に培養でGBS+の妊婦に対して、分娩前にABPCを投与することになっています。
  • 新生児早発型GBS感染症は、生後数時間、ほとんどが24時間以内の発症とされ、感染症の進行は極めて早いのが特徴です。前期破水がある場合には、破水時点で感染が成立する可能性があるため、感染徴候の把握と、細菌培養検査が必要で、必要に応じて、ベビーに対する抗生剤の予防投与を行うことになります。
  • 今回の症例では、破水がなく、人工破膜での出産であり、産道感染は考えにくい経過です。母親の血液培養は陰性でしたが、母親の敗血症→胎盤感染→胎内感染の可能性や、羊膜感染→羊水炎→胎児感染のシナリオなどが考えられます。感染経路については今後、慎重な検討が必要と考えています。この点でも大変貴重な症例です。