診療案内

Medical guidance

けいれん重積と脳症

小小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

けいれんの群発やけいれん重積は、緊急対応が必要で、小児科医にとっては、緊張し注意して診療に当たらないといけない病態です。今回は、けいれん重積と脳症の最近の症例とその話題です。

症例1 けいれん重積型脳症 9ヶ月

第1病日

普段どおり元気で、機嫌もよかった。

11時:
①1分間の全身性けいれん、熱39.0度。救急車で当院へ。
二人の姉が、順にインフルエンザBに罹患。
搬入時、
②けいれん再発、拳を振るようなけいれん、眼球固定。
MDZ投与で止痙、入眠。
髄液検査、頭部CT検査:異常所見なし。
17時:
③上肢のピクツキ MDZ+ノーベルバール(18mg/kg)で止痙。
MDZ0.15mg/kg/hの持続投与開始。入眠。
インフルエンザ迅速検査(-)

第2病日

17時:
啼泣あり。
MDZ持続投与を減量。覚醒(JCS2~3)し、180ml哺乳。
頭部MR検査で小脳に異常信号を認めたため、大阪市立総合医療センターに転院。
搬送先で泣き方が異常、解熱しているのに心拍数が多いなどがあり、
脳波検査:全般化するけいれん波あり。
速やかに脳保護治療を開始、その後のMR検査で大脳全体の皮質下白質に高信号が出現、けいれん重積型脳症として、エリスロポエチン、ステロイドパルス療法などの積極的治療を実施するも脳障害を残す。

症例2 可逆性脳梁膨大部病変を有する脳症・脳炎(clinically mild encephalitis/encephalopathy with reversible splenial lesion:MERS)2歳

第1病日:
嘔吐、下痢が始まる。
第2病日:
嘔吐、下痢が続く。
診療所受診、ロタウイルス(+)で、ご紹介にて当院へ。
呼びかけには応じるが、ボーとしている(JCS1~2)。
血糖68mg/dl、尿素窒素22.2mg/dl。入院。
第3病日:
高熱、全身性けいれん3分、自然に止痙。
意識は二時間以内にJCS1に回復。
頭部MR検査:脳梁膨大部に拡散強調で高信号を認める。
「ぱいぱい」とおっぱいを欲しがる。
支えると立つがひとり立ちはおぼつかない。
第5病日:
歩行可能となる。
第7病日:
頭部MR検査:脳梁膨大部の変化は消失。
第9病日:
神経学的異常を認めず、退院。

けいれん重積型脳症:症例1

けいれん重積で発症し脳症にいたる病態を「けいれん重積型脳症」と呼び、熱性けいれんで始まる
「二相性けいれんと遅発性拡散強能低下を呈する急性脳症(acute encephalopathy with biphasic seizures and late reduced diffusion;AESD)が有名です。突発性発疹症などで高熱、熱性けいれんを発症し、いったん止痙、解熱後に再びけいれん重積がおこり、脳症へと進むタイプです。最初のけいれんで意識回復が遅れたり、意識状態が完全に正常化しない場合には、このタイプの脳症への進行を疑って経過を見ていく必要があります。当院でも、突発疹で熱性けいれんを起こし、解熱し、発疹が全身に出て、退院予定の9ヶ月児が、群発性(4回)のけいれんと意識障害(=けいれん重積状態?)で、このタイプの脳症と診断したケースがありました。
症例2は、皮質下の異常信号bright tree appearanceが捉えられ、その重症型でした。

けいれん重積の脳への悪影響

脳内でシナプス活動が起こると神経細胞の代謝が亢進し、それに見合う酸素やエネルギー(ブドウ糖)を供給するために血流が増加します。しかし、けいれん発作が長く続いた場合には脳血流が追いつかなくなり、代謝と供給の不均衡が起こり脳障害につながります。また、過剰な興奮性アミノ酸の過剰刺激による脳神経障害も重要です。けいれん重積による脳障害を防ぐには、バイタルを保つだけではなく、脳の異常な神経活動自体を止める必要があります。
けいれん重積とは、30分又は1時間以上、意識の回復がなく、けいれんを繰り返すものをいいます。持続時間の定義を30分では長すぎるので、15分や10分に短くすべきとの提言もあり、速やかに治療を開始するのが望ましいというのが一致した考えです。止痙後に意識回復が見られるものは、けいれん重積状態からは回復していると判断できます。

ミダゾラム持続投与の功罪

ミダゾラムは優れた抗けいれん薬ですが、持続投与によって、薬剤による睡眠効果で意識状態の把握ができにくく、けいれんは発症していないが、脳内の異常な変化=脳症の進展がつかめない結果をもたらす危険があります。症例1では、そのような事態の進行があったとも考えられ、「脳症か熱性けいれんか悩むような症例では意識レベルの評価をしづらくするため、脳症治療介入が遅れる危険がありうる」とのご指摘をいただきました。
けいれん重積がけいれん重積型脳症の入り口であることを、しっかり認識して、けいれんを止めることだけでなく、意識レベルの把握、病像の全体をイメージした治療計画を立てる必要のあることを再認識しています。

MERS:可逆性脳梁膨大部病変を有する脳症・脳炎:症例2

症例2は特徴的なMR所見を示しました。一般的には、mildで、reversibleとされています。症例2は、全身状態も良好で、名前の通り、支持療法以外の特別な治療なしに回復しました。ロタウイルス感染症に伴う脳症では、予後はおおむね良好とされています。しかし、小脳炎をきたすロタウイルス感染に伴う脳症は、予後不良・後遺症のリスクが高いとされています。
また、ロタウイルスを含む下痢性疾患には、「軽症胃腸炎に伴うけいれん:convulsion with mild gastroenteritis:CwG」があり、群発する傾向、カルバマゼピンが有効などの特徴があります。「軽症下痢に伴うけいれん」は軽症は機会関連性けいれんの一つとして、後遺症のない軽症のけいれんと考えられていますが、脳症の始まりの場合があり、今後は慎重に経過観察していく必要があると考えています。

脳症の原因・関連疾患、熱性けいれんと脳症の鑑別

脳症そのものの病態は解明されていませんが、小児の脳症は感染症に誘発されて発症します。統計的には、インフルエンザ、HHV-6・7(突発性発疹症)、ロタウイルス感染症の順に多いとされています。どのようなタイプの脳症でも、軽症から重症、後遺症なしから重い後遺症・死亡までのスペクトラムがあります。
急性脳症と熱性けいれんのとの鑑別のためには、A.意識障害(①けいれん後の状態 ②発熱によるせん妄 ③薬物の影響では説明できない意識障害)、B.繰り返すけいれん C.異常言動・異常行動が重要とされます。
大阪では、大阪市立総合医療センターや大阪府立母子保健総合医療センター・大学病院をはじめとするPICUの体制があり、後送病院への搬送先の体制が整備されてきています。2次医療機関として、1次医療機関からご紹介いただいた脳症症例に対し、PICUへの転送判断が遅れないよう、脳症の可能性を考慮した日常診療の心構えを持って診療に当たっていきます。