診療案内

Medical guidance

カンピロバクター

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

現在の細菌性食中毒の最大原因

食中毒統計では、1999年までは、サルモネラやビブリオの方が多かったのですが、2000年以後、それらは減少、この10年間では、2002年、2006年、2010年の3年をのぞいて、サルモネラやノロウイルスなどの病原物質を抜いて、カンピロバクターの発生件数が第1位となっています。
今年2月に2例、3月には4例のカンピロバクター腸炎があり、今年の流行が予感されます。

25年前のデータがあります。1987年の当院でのカンピロバクターとサルモネラ食中毒のものです。2012年度よりも症例数は多く、四半世紀前からカンピロバクター腸炎は細菌性食中毒の中で大きな位置を占めてきました。アカデミー賞になぞらえるなら、症状の強さから、主演男優・女優賞はO-157とサルモネラに譲ることになりますが、たくさんの映画に出演しつづける助演俳優賞は確実にカンピロバクターのものでしょう。

カンピロバクターの特徴

カンピロバクター属菌は、幅0.2~0.8μm、長さ0.5~5μmの細いらせん(S字)状にわん曲したグラム陰性桿菌で、両端にそれぞれ1本の鞭毛を持ちます。ニワトリ、野鳥、ウシ、ヒツジなどの家禽類、イヌ、ネコの腸管内に広く保因されています。
少量の菌数(500~800個)で、感染が成立することが特徴です。菌は通常の大気条件下では急速に死滅、付着した食品(生肉)では増殖はしませんが、低温では1ヶ月程度生存することがあり、冷蔵庫保存の過信は禁物です。20℃(以上)では数日で死滅します。冷蔵庫保存が菌の生存期間を長引かせているという、逆説的な関係が指摘されます。

予防対策  加熱が原則

一方、熱には弱く、60℃、1分で死滅するので加熱調理はきわめて有効です。また、乾燥にも弱く、調理器具の洗浄と乾燥という当たり前の対策で、「増やさない」「やっつける」対策は十分となります。
しかし、菌を「つけない」ことは非常に困難な状況です。①国内流通とり肉の50〜70%がカンピロバクター汚染されているといわれる現実があります。②少量の菌で感染が成立します。別の食品に付着しただけで、増殖なしで感染が成立する可能性が高いのです。③低温条件では比較的長く生存し、冷蔵庫では1週間以上(~30日)生存します。冷蔵庫は菌の生存期間を延長させる結果となり、カンピロバクターに対しては無力です。
潜伏期は、2~5日(又はそれ以上)で、潜伏期が比較的長いのは、少ない菌数での感染で症状発症までに時間が必要なためと考えられます。

症状と合併症 やはり血便が目立つ

腸炎症状は、他の細菌性腸炎と区別はありませんが、血便が多いこと、その割に比較的軽症であることが特徴です。この1年間の当院にご紹介いただいた14症例では、下痢(100%)、腹痛(100%)、発熱(93%)、嘔吐(29%)などで、血便は64%と高率で、下痢・熱・血便・腹痛と、とり肉の組み合わせでは、「カンピロバクター腸炎?」としてご紹介いただくことも多いです。

原因は主にとり肉(牛肉)のなま食

牛肉のなま食(レバー、ユッケ)はO-157の危険性から禁止されました。家庭でのとり肉、牛肉のなま食はほとんどないと考えられるので、家庭では調理の際の下ごしらえでの生肉から手や調理器具を介しての他の食品への付着が原因となります。
最近のカンピロバクター感染症のほとんどは、外食での、とり肉のなま食が原因だと考えられます。この1年間の14症例中、4例がとり肉の生食でした(生ささみ:2例、生レバー:1例、とりのたたき:1例)。たたきは、焼きが不十分な場合と、手や器具(包丁やまな板など)からの菌の付着による場合が考えられます。
サルモネラ同様に、ペットからの感染も報告されています。
発生場所は広範です。患者さんの住所は、松原市全域、羽曳野市、藤井寺市、大阪市平野区、大阪市東住吉区、堺市北区で、阪南中央病院の診療圏に満遍なく分布しており、広範囲でした。発症の大半が、外食によるものだとすれば、4月から夏にかけて、広範な地域で多発・流行することが懸念されます。

合併症

局所合併症として、胆嚢炎、膵炎、腹膜炎、まれに腸管外感染として菌血症、髄膜炎などが報告されていますが、実際の症例に遭遇したことはありません。
カンピロバクター感染によるGuillain-Barre症候群は有名です。GM1ガングリオシドに類似する糖鎖構造を保有するC.jejuni感染症に感染することにより、抗GM1抗体が産生され、神経系に存在するGM1エピトープに結合して機能障害を起こすと考えられています。カンピロバクター感染症2000〜5000例に1回合併すると推定されています。

治療

基本的には対症療法です。重症例には適切な抗菌治療が必要となります。マクロライドが第1選択です。
セフェムには、菌自体に自然耐性があるとされ不適です。
キノロンは成人では多用されていますが、近年耐性化の進行が報告されています。当院では、菌の感受性は、EMとCPFLの2種類で行っていますが、2012年4月〜12月の8例はともにすべてsensitiveであったのに対し、2013年の症例ではEMには全6例がsensitiveでしたが、CPFLについてはsensitive1例、intermediate3例、resistant2例の報告で、年明け後にキノロンに対する耐性化が進行していることを伺わせる結果となっています。
マクロライド耐性マイコプラズマ肺炎の流行で、小児科領域でもTFLXの使用が増加していますが、耐性化を考慮した抗菌薬の適正使用を徹底する必要があります。