診療案内

Medical guidance

重症RSウイルス感染症

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

はじめに

今年のRSウイルス感染症は、7月から流行が始まり、現在なお流行中です。統計ではこれまでにない大流行を示しています。これは、迅速検査キットが利用しやすくなり報告数が増えた分もありますが、入院患者数も例年より多く、大流行であることは間違いありません。11月には、最重症のRSウイルス感染症を経験しました。

【症例】 生後35日 無呼吸発作  重症RSウイルス感染症

既往歴:
39週、約2900gで出生  1ヶ月検診では約3900gと成長は順調。
家族歴:
患児の、熱と咳が始まる2日前に、兄が熱と咳でRSV陽性。
第1病日:
鼻水が始まり、哺乳量低下。
第2病日:
熱と咳が始まる。昼間に一度無呼吸があり、顔色不良となる。
第3病日:
熱、哺乳力低下、無呼吸・多呼吸でT病院を受診、呼吸音fine crackles、SpO2 92%、PCO2 58.6mmHgで、重症RSV感染症として、Dr.付き添いで救急車にて当院に入院。
RSV迅速検査は陰性。酸素・アスプールによるインスピロン持続吸入で哺乳量は増加、SpO2も98%に上昇。しかし、夜間~翌朝にかけて無呼吸発作を繰り返すようになる。
第4病日:
無呼吸あり、元気なし。PCO2 81.0mmHgに上昇。気管内挿管を行い、PICU管理のため、大阪市立総合医療センターに受け入れていただき、搬送。
RSV抗原+。人工呼吸管理下で集中治療管理。
第5病日以後:
約2週間、痰が多く、呼吸管理に難渋したとのご報告をいただく。
第16病日:
RSV抗原陰性化。
第19病日:
14日間の人工呼吸管理の後、ようやく抜管可能となる。
第25病日:
阪南中央病院にバックトランスファーで、再入院。その後、退院。

RSウイルス(RSV)感染症 メモ

  1. RSVは、パラミクソウイルス科、ニューモウイルス属の一本鎖(-)RNAウイルス。
    ヒトメタニューモウイルスの近縁ウイルス。秋から冬までにかけて最も流行。
  2. 母体からの移行抗体は、感染を防ぐ力はない。2歳までに100%が感染する。飛沫及び接触感染。
    気道から排出されたRSVは、手の上では25分、布ガウンやティッシュでは30〜45分、カウンター上では6時間、感染力を持つ。
  3. まず鼻粘膜で感染が成立し、上気道炎を発症、鼻汁の多さも特徴的とされる。
    その後、下気道炎に進行、特徴的な細気管支炎となる。
  4. 生涯で何回も顕性感染を繰り返すが、再感染では典型的な症状を呈さない場合も多い。
    このため流行が毎年おこる。
  5. RSV細気管支炎は、乳児期のウイルス感染後に喘鳴を反復するRAD(reactive airway disease)の原因とされるが、もともと素因の児にアレルギーを顕在化させるだけであるとの考え方もある。
  6. ステロイドの有効性にエビデンスはない。(しかし、RSVが気管支喘息の誘因になっている場合にはステロイド剤が有効な場合もある)

細気管支炎のUp To Date(Sep. 18,2012)

院内小児科カンファレンスで、Up To Dateの“Bronchiolitis in infant and children乳幼児の細気管支炎”を取り上げました。重要と思われる、Up To Dateなコンセンサスを抜粋します。

  • 細気管支炎は通常、自然治癒するマイルドな疾患である。
  • 支持療法、対症療法を行う。(RSVに対する抗ウイルス薬はなく、対症療法のみ。適切な水分補給、気道分泌の除去、加湿など。)
  • 重症化の危険を予測した指導を行う。
  • 入院を必要とする場合:呼吸困難(鼻翼呼吸、陥没呼吸、呻吟、呼吸数増加、チアノーゼ)、Toxic appearance、食欲低下、不活発、無呼吸、低酸素血症など。
  • β2やエピネフリンの吸入(吸入前後で効果を確認、効果があれば4〜6時間毎に実施)
  • 初めての細気管支炎で入院した児が、もともと基礎疾患がなく健康な場合には、ルーチンにステロイド剤の全身投与を行うことは推奨しない。
  • 抗生剤投与は、細菌感染の併存が明らかな場合のみ行う。
  • ルーチンに高張生食水やヘリオックスを使用することは推奨しない。

重症RS感染症

通常、RS細気管支炎は、外来観察で治癒することの多い疾患ですが、ある割合で確実に重症化する例があります。京都府で行われた8年間の重症RSV感染症のアンケート調査では、挿管42例、CRAOA5例で、3ヶ月未満に重症例が多いこと、RSV感染症入院の1.8〜4.0%が最重症化すると報告されています。
今後もRSVは、乳児と乳児にかかわるすべての人にとっての大きな課題であり続けます。基礎疾患を持つ児や、出生間もない児は、重症化する危険が高く、CRAOAなどの報告もあることから、早めの対応が必要となります。

  • 早産児、慢性肺疾患、先天性心疾患、神経疾患、免疫疾患で重症化する危険性が高いので、最大限の注意で観察を行う必要があります。
  • 今年9月に、早産でシナジス予定であった、暦年令3ヶ月の児が、初回のシナジス直前にRSVに感染し、重症化した症例を経験しました。いつもより少し元気がなく、哺乳量が低下し、弱々しい感じでしたが、一見呼吸困難症状は呈さず、軽症に見えました。外来で、1日経過観察しましたが、翌日には酸素投与が必要な状態で入院となりました。新生児~早期の乳児では、細気管支炎が発症しても、喘鳴や明らかな努力性呼吸の症状が目立たず、哺乳量の低下や、動きの少なさ程度で無呼吸が発症することが、逆に重症な場合があることを再認識しました。CRAOAの危険性もあり、新生児(特に3ヶ月未満)では、重症化する危険性を考慮して、特に慎重な経過観察を行っていくことが欠かせません。
  • 重症型の臨床像として、典型的な細気管支炎、その重症の合併症としての無呼吸、肺炎、胸腔内圧上昇によるSIADHが報告されており、重症例の見極めはきわめて重要です。更に、呼吸器以外の重症合併症として脳症も報告されています。
  • シナジス投与対象者に、これまで9月又は10月から翌年3月までの6ヶ月間の投与を行ってきましたが、この数年の流行からは、遅くとも9月から(出来れば8月から)開始することが望ましい状況となっています。また、シナジス投与の条件を免疫疾患や神経疾患などにも拡大することが望まれます。

謝辞

重症RSV感染症児のPICU管理を担当していただいた、
大阪市立総合医療センター・小児総合診療科に感謝いたします。