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Medical guidance

鉄欠乏性貧血とヘリコバクターピロリ菌感染症

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

鉄欠乏性貧血とヘリコバクタピロリ菌感染

鉄欠乏性貧血は、「小児期ではH.pylori関連疾患として重要である。特に10歳以降の年長児の原因不明の鉄欠乏性貧血児の約60~70%がH.pylori感染があり、除菌成功した症例では貧血が治癒し再発を認めない。スポーツ貧血との合併で更に強い貧血をきたしたと思われる症例も多い。年少児の鉄欠乏性貧血におけるH.pylori感染率は高くない。」(小児感染症マニュアル2012  日本小児感染症学会 ヘリコバクター・ピロリの項)と言及されています。最近、この指摘にぴったり当てはまる、Hbが4.2g/dlの極度の貧血を呈した、H.pylori関連鉄欠乏性貧血児の症例をご紹介いただきました。

【症例】  13歳  女  身長161cm 体重44kg

経過

夏休みごろから、色が白いといわれる

9月末:
生理はほぼ規則的 量も多くない 中学校でテニス部所属
10月:
ふらつきが見られるようになり、Mクリニック受診 強度の鉄欠乏性貧血でご紹介いただく。

この2週間程度、食欲が落ちたが、神経性食欲不振症に相当するような食欲不振はなく、その他の消化器症状なし ダイエット志向なし 牛乳摂取:間欠的で多くない
タール便なし(便Hb:陰性) 特別な出血巣を認めない。

考察

RBC281、Hb4.2g/dl、Hct16.4%、MVC58.4fL、MCH14.9pg、MCHC25.6%、RDW21.5%
ピロリ菌検索 尿素呼気試験(UBT)24%陽性 便中抗原測定法 陽性
上部消化管内視鏡検査:慢性胃炎(萎縮性化生性胃炎)食道・十二指腸;異常なし 迅速ウレアーゼテスト 陽性

鉄欠乏が強いため、受診当日から鉄剤投与を始めました。最初の4日間はフェジン点滴、その後、経口鉄剤に変更しました。貧血は急速に改善中です。

H.pylori関連鉄欠乏性貧血の特徴

以下のようにまとめられています。(小児感染症マニュアル2012)

  1. 患児の多くは腹痛などの消化器症状を訴えない
  2. 繰り返し便潜血検査を行っても消化管出血が確認されない。
  3. 鉄の摂取不足が認められない
  4. 内視鏡検査による病理組織検査でH.pylori胃炎が確認される
  5. 貧血が鉄剤による治療に不応である(鉄剤不反応)か、鉄剤に反応しても投与中止によって貧血が再燃する(鉄剤依存性)
  6. 鉄剤を補充しなくてもH.pyloriの除菌のみで貧血が改善されることもある

今回の症例では、鉄剤投与で急速な改善がみられますが、ピロリ菌によると思われる萎縮性胃炎が原因で、再燃の恐れが強いと判断し、ピロリ菌除菌療法を開始しました。

小児期のH.pyloriの除菌治療

「小児期ヘリコバクター・ピロリ感染症の診断・治療、および管理指針」によると次のような五つの疾患が除菌治療の対象とされています。

  1. 潰瘍・十二指腸潰瘍
  2. 慢性胃炎
  3. 蛋白漏出性胃症
  4. 鉄欠乏性貧血
  5. ITP

この症例では、鉄欠乏性貧血と慢性胃炎として、医学的には除菌の対象となります。
2012年4月以降、H.pylori感染がある胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、ITP、早期胃がんに対する内視鏡術後胃に対しては、除菌治療が保険適用されることになりました。しかし、鉄欠乏性貧血や慢性胃炎などでは、文言上では適用外です。本人・家族に対する十分な説明を経て、治療方針を決定することとしました。

小児期の鉄欠乏性貧血

教科書によると、鉄欠乏性貧血の鑑別診断として次のような項目があげられています

  1. 乳児期後期貧血=離乳期貧血:母乳中の鉄不足、離乳の遅れ
  2. 未熟児貧血牛乳貧血:多量の牛乳摂取で起こることがある
  3. 牛乳貧血
  4. 思春期貧血:身体発育の加速、女子では月経による喪失、ダイエット、偏食など
  5. スポーツ貧血:激しいスポーツで、尿や汗への鉄の喪失、消化管や尿中への喪失
  6. H.pylori感染
  7. 慢性的な出血による鉄欠乏性貧血:消化管出血性疾患、特発性肺ホモシデローシス など

このうち、乳児期後期貧血にはしばしば遭遇します。今回の症例のような、思春期の貧血は、極端な貧血に進行して初めて受診することがあり、注意を向ける必要があります。

参考

貧血の判定基準と小球性貧血の鑑別

  • 貧血の判定基準(WHO/UNICEF/UNU)(表1)
  • 貧血の判定基準(WHO/UNICEF/UNU)(表2)

Coulter counterで得られるの赤血球に関する7つ値

  • 実測値
    1. 赤血球数RBC
    2. 平均赤血球容積MCV
    3. ヘモグロビンHb
  • 計算値

    1. 平均赤血球ヘモグロビンMCH
    2. 平均赤血球ヘモグロビン濃度
    3. ヘマトクリット
    4. 赤血球容積分布幅(red cell distribution width:RDW)=赤血球サイズの変動係数RDWが小球性貧血で上昇していれば、サラセミア保因によるものよりも、鉄欠乏を疑う通常11.6~13.7 鉄欠乏性貧血からの回復期には、一次的に値は更に増加する