診療案内

Medical guidance

マイコプラズマ肺炎関連血球貪食症候群

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

はじめに

マイコプラズマ肺炎は、2012年6月時点では、やや下火になりながらも、なお流行が続いています。マクロライドへの耐性化が進み、トスフロキサシンやミノマイシンに変更する例や、治療が長引き、ステロイド剤を併用する例が増えています。
肺炎マイコプラズマにはその細胞表面にヒトの体細胞と類似する抗原性を持つリポ蛋白があり、マイコプラズマ感染により宿主の免疫応答が過剰に刺激されることで、直接的な作用としては感染部位である下気道で肺炎が悪化し、間接的には肺外の他の様々な症状、病態が引き起こされます。高サイトカイン血症から広範な肺炎、胸水貯留、血球貪食症候群などに進展、重症化することがあり、このような場合、ステロイドの併用が有効です。この2年間で、肺炎(=マイコプラズマ肺炎)に対して(やむを得ず)ステロイド剤を併用することが多くなっています。

【症例】 11歳 学校でマイコプラズマ肺炎の流行あり

経過

□月7日:
熱、咳、頭痛が始まる。その後、熱は続き、咳も増加。
診療所受診、脱水によるけいれんの疑いで、ご紹介いただく。
□月11日:
診療所を受診。胸部レントゲン検査で右中葉の肺炎でクラリスロマイシンの処方を受ける。
□月14日:
症状改善せず、ミノマイシンに処方変更
□月15日:
レントゲン上肺炎は右中葉に限局しているが、症状の改善がないためご紹介いただき、入院。当院入院後、ミノマイシン継続投与で観察。
□月17日:
CRP改善に関わらず、40℃の高熱が続き、肝機能異常、白血球減少、血小板減少。
□月18日:
なお、高熱。呼吸困難はなく、ぐったりするほどではない。
レントゲン検査では、右中葉の肺炎及び無気肺状態。ミノマイシン中止、オゼックス投与。
フェリチンが4043ng/mlと高値を示す。マイコプラズマ肺炎による血球貪食症候群と診断し、プレドニン1mg/kg/日投与開始。
□月19日:
下熱、咳も軽減傾向を示す。その後検査所見も改善。

マイコプラズマ肺炎と白血球減少・血小板減少

マイコプラズマ肺炎では、白血球は増加せず、しばしば減少します。血小板も軽度の減少を示す症例をときどき見ます。サイトカイン血症による一過性の骨髄の血球産生系への影響、又は血球貪食が考えられますが、通常は、抗生剤投与で下熱とともに検査値も正常化します。
高サイトカイン血症の代理マーカーの一つであるフェリチンの上昇をステロイド剤併用の指標にできるとの報告が、今年の小児科学会で行われましたが、興味ある報告でした。
過剰な免疫反応が更に進行した場合には、血球貪食症候群を進行することがあります。①発熱の持続 ②2系統以上の血球の減少 ③高LDH,高フェリチン血症 ④肝機能障害 ⑤血球貪食像 ⑥その他(高トリグリ、sIL2R高値など)で診断します。
この症例では、血球減少の程度は軽度であったので、骨髄検査は行わず、プレドニンも2mg/kg/日でなく、1mg/kg/日を選択しましたが、これで有効でした。

感染症関連血球貪食症候群IHPS ウイルス性疾患で起こるものをVAHS

血球貪食症候群は、高サイトカイン血症を背景に、熱、血球減少、DIC、高フェリチン血症、骨髄で血球貪食像を示す、緊急度の高い病態です。1次的な遺伝性=家族性(FLH)なものと、2次的・後天的なものに分類されます。年間の発症は人口80万人に一人、基礎疾患は感染症が2/3を占め、その約半数がEBV関連で、リンパ腫関連、自己免疫疾患関連、家族性(遺伝性)と続きます。
EBV関連では、重症例が多く、致死的な経過をたどる危険が高い疾患とされています。適切で迅速な対応が求められる疾患で、急性死の原因としては、凝固障害による出血と臓器不全が多いとされ、2次小児医療を担当する小児科医として、3次後方病院への転送を念頭に、診療に当たることを心がけています。大阪府下では、大阪府立母子保健総合医療センターに置かれた「小児がん・白血病ホットライン」で、血球貪食症候群を含めた血液疾患について、エキスパートの助言がいつでも得られるようになっており、大きな支えになっています。EBV関連血球貪食症候群を“あんしんねっとわーく64号で、突発疹に伴う血球貪食症候群を、あんしんねっとわーく43号で取り上げましたので、あわせてご覧ください。

マイコプラズマ肺炎の治療戦略は今後の重要なテーマ

マクロライド耐性化の進行の現状で、マイコプラズマ肺炎に対する治療戦略は重要なテーマの一つです。これまで、行われているいくつかの提案を列挙します。括弧内は私のコメントです。

  1. in vitroでマクロライド耐性菌であっても、in vivoでの有効性はある(下熱期間は少しは長くなるが)ので、現在でもマクロライドがファーストチョイスである。(原則論としては正しいと考えますが、マクロライド治療で失敗した兄弟や同じクラスでの感染では、この原則論だけでは乗り切れないことがあります。)
  2. ノマイシンの使用は2~5日間以内にする。(この提案は、できるだけ守るようにしています。ミノマイシンは8歳以下では原則使用しません。8歳以上で、使用する際にも短期使用し、再燃の危険があると判断したときはマクロライドに切り替え投与するのがよいと考えます。ミノマイシンの長期投与は副作用の点から望ましくありません。)
  3. 長期の熱(7日以上が目安)に対して、ステロイド剤を併用する。(熱が続き、レントゲン検査上で肺炎が進行しているにかかわらず、CRPの上昇や白血球の増多がない場合などは、抗菌薬変更なしで、ステロイド剤併用で治癒に向かいます。フェリチンの値も参考になります。ただし、肺炎に対して、ステロイド剤の使用が日常的になってきている現状には違和感を持ちながら治療していることも事実です。)
  4. ニューキノロンの適正使用、耐性化阻止を常に考慮し、診療に当たる。(その通りですが、ニューキノロンを、正しく位置づけした治療戦略が、分かりやすく提案されない限り、「慎重に」投与している現状は変えられないと思われます。)