診療案内

Medical guidance

脱水性ショック 4~5月のウイルス性腸炎の流行

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

2012年、ロタウイルスを中心とするウイルス性腸炎の流行は、冬ではなく、春先から増加し、4月にいったんピークを迎え、ゴールデンウィークで、少し下火になった後、5月中旬から再び流行するパターンとなりました。昨年4月に、あんしんねっとわーく63号の小児科のトピックスで「重症の脱水症と関連する話題」のテーマを取り上げましたが、2012年は2011年より更に1ヶ月遅れで、5月にも、脱水症を呈する小児患者が増加し、重症なショック例を経験しました。

下痢による脱水性(循環血液量減少性)ショックの症例 危機一髪

  • 症例
    生後6ヶ月男児 満期(38週) 3122g出生
    出生時より、母乳とミルクが半々程度。特別な疾患なし。体重6.5kg
  • 経過
    前日より下痢、当日、朝から高熱39.5度、1時間おきに下痢があった。

    • 7:00ごろから時々眼球が上転し、ぐったり。
      診療所受診、脱水によるけいれんの疑いで、ご紹介いただく。
    • 10:45病院到着、ぐったり、全身チアノーゼ、末梢冷感強く、眼球上転。
      心拍200回/分の頻脈、皮膚ツルゴールの低下著明、口内乾燥、大泉門陥没、眼窩陥没、呼吸は大きく、呼吸音は異常なし。
      脱水性ショックと判断し、直ちに末梢血管輸液路確保を試みるもルート確保不能。
      骨髄針(頚骨近位端)を挿入し、1.5mの高さで全開輸液開始。
      刺入時に、痛みに少し反応する程度の意識レベル(JCS200)、輸液が入りだすと、皮膚色少し改善。

    処置中、水様白色便を多量に排出、迅速検査ではロタウイルス(-)。

    • 11:35右上肢より静脈路確保
      心拍数は170回/分程度になる。
    • 左上肢より、もう1本静脈路確保し、頚部ルートは抜去。
    • 意識回復し、体動多くなり、追視も出現。

    翌日には、検査データはほぼ正常化。

採取日 2012/5/26
11:23
2012/5/27
10:54
2012/5/28
11:02
単位 基準値
CRP 2.3 0.6 0.2 mg/dl 0.2イカ
TP 149 149 133 mmol/L 134-145
ALB 5.8 3 3.7 g/dL 3.5-5.5
NA 149 149 133 mmol/L 134-145
K 6.4 3.3 4.4 mmol/L 3.4-4.9
CL 120 119 107 mmol/L 97-108
BUN 54.1 12.2 3.5 mg/dl
CRE 1.5 0.27 0.22 mg/dl 0.60-1.10
G-PH 7.082 7.389 7.43 7.350-7.450
G-PCO2 28.9 44.1 32 mmHg 35.0-45.0
G-BE -20.3 0.8 -2.6 mmol/L
ANIONGAP 32.3 14.1 14.3 mmol/L
WBC 26.2 15 11.1 ×10^3/μL 4.5~8.5
RBC 563 424 460 ×10^4/μL 430~570
HGB 15.5 11.6 12.3 g/dL 14.0~17.0

嘔吐下痢(脱水)を呈する子どもの【トリアージ・緊急度区分】と緊急対応

外来チームの懸命の対応で蘇生・救命することができました。
キーポイントは、

  1. 骨髄路をはじめとする輸液路の確保
  2. 20ml/kgの生食の急速静注

でした。国立成育医療センターの小児救急におけるトリアージ緊急度区分表では、緊急度を「蘇生」「緊急」「準緊急」「非緊急」の4段階に区分し、診療までの目標時間を各々、「直ちに」「15分以内」「60分」「120分以内」としています。
一部を引用させていただきます。


小児救急におけるトリアージ緊急度区分表(国立成育医療センター)

症状 蘇生 緊急 準緊急 非緊急
診療までの時間 直ちに 15分 60分 120分
下痢・嘔吐
(脱水)
循環血液量減少性ショック ぐったりしている 迅速血糖測定
末梢循環不全CRT≧3秒
涙が出ない 皮膚ツルゴール低下
胆汁性嘔吐、血性嘔吐
急性腹症疑い(歩けないなど)
吐血・下血、腹部症状を伴う著明な血便

骨髄針の準備は必須

骨髄針の使用は、蘇生が必要な場合で、直ちに静脈路を確保することが困難な場合に適応となります。通常、脛骨近位内側、脛骨結節1~3cm遠位を目安に穿刺、固定します。

  1. 針が支えなしで立つ
  2. 陰圧で骨髄液が引ける
  3. 生食10mlが抵抗なく入ることで、留置を確認します。

アドレナリン、ATP、輸液、血液製剤、カテコラミンなど、静脈内投与が可能なすべての薬剤を投与することができます。ただし、他の方法より薬剤が漏れにくいというエビデンスはなく、穿刺部位からの薬剤の漏れには注意が必要です。骨膜下、皮下に大量に漏れてはじめて漏れに気付くことが多いため、重篤になる危険性があることも指摘されています。

初期対応は生食20ml/kgの急速静注

脱水性ショックは循環血液量減少性ショックであり、生食20ml/kgの急速静注が緊急に行われるべき処置です。急速静注の後は、10分単位で状態の改善が確認できました。この症例では、生食20ml/kgの急速静注とその後の輸液治療の威力は絶大でした。
高K及び代謝性アシドーシスに対して、カルチコール、メイロンを使用し、速やかに改善がえられました。この患者さんには、基礎疾患がなく、合併症は発症せず、輸液補充計画以外の追加的な処置は不要であったことは幸いでした。当日の深夜には、検査データはかなり改善し、翌日には、ほぼ正常化し、良い経過をたどりました。
入院中、便のロタウイルス検査を3回行いましたが全て(-)でした。この時期、ロタウイルス腸炎の流行があり、原因はロタウイルス腸炎の可能性が高いと考えています。

4~5月の尿素窒素20mg/dl以上の脱水症症例
1~2時間ごとの水様下痢に注意

昨年に続き、ロタウイルス腸炎は今年も、冬ではなく春先にずれ込んで流行しています。今年は昨年より、さらに1ヶ月遅れです。4月以降、ウイルス性腸炎の入院が増加しています。
今年、4月1日~5月末の間、当院小児科で、尿素窒素が20mg/dl以上を示した患者さんを抽出してみました。全部で19人でした。5歳以上の6人では、嘔吐が長く続く経過での受診・ご紹介が多かったのに対して、年齢が小さい子どもたちでは、水様下痢が1~2時間ごとに、オムツに「ちびる」程度でなく大量に漏れ出すほどの下痢を繰り返すことで、急速に脱水症に陥った例が多い傾向があります。水様下痢を1時間に1回も排出するような場合は、嘔吐が目立たなくても、数時間(4~6時間程度)でショック状態に至る危険が高く、要注意のサインと認識すべきです。

【 メモ 】 尿素窒素とクレアチニン、尿酸

尿素窒素、クレアチニン、尿酸はともに蛋白質の最終産物であり、肝臓でアミノ酸から尿素サイクルを経て合成される。分子量は、それぞれ60、113、168と低分子であり、糸球体でほぼ濾過される。その後の尿細管での再吸収の挙動が異なることで、病態(例えば脱水症)ごとに変化が生じる。脱水では、尿素窒素はクレアチニンに比べて高値を示す(BUN/Crが上昇する)。尿酸は、脱水症では尿素窒素より早期に上昇する傾向がある。
脱水の時にはADH分泌が亢進し、髄質集合管でのADH依存性尿素トランスポーター(UT-A1)を通じて尿素再吸収が亢進し、尿量依存性に尿素窒素が上昇すると説明されている。

ロタウイルスワクチン

ロタウイルスワクチンが使用可能になっていますが、出生早期(24週までに2回服用)に服用を完了する必要があり、また高価なため、普及には至っていません。
しかし、全ての子どもが必ずかかるロタウイルス腸炎を予防する方法として、公費による費用援助、接種計画への組み込みなどが行われ、普及することが望まれます。