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Medical guidance

百日咳 最近の動向とEIA法による百日咳IgG抗体の測定への変更

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

百日咳の動向 20歳以上、医療従事者に多発の傾向

百日咳は、「14日以上の咳があり、百日咳に特有の咳(発作性の咳込み(paroxysmal cough/staccato)、吸気性笛声(whoop)、咳き込み後の嘔吐)」で診断しますが、咳発作が夜間に多いこと、眼瞼の浮腫(百日咳顔貌)を伴うこと、チアノーゼ・無呼吸を伴うなどがあります。
この5年間の統計では、20歳以上の百日咳患者の増加が特徴的です。これには、1975年2月から1980年まで、ワクチン事故のため百日咳ワクチンが中止され、この年代に生まれた人に免疫を持たない人が多いことも一因と思われます。

国立感染症センター  感染症発生動向調査 週報2010年第24週

下過去の百日咳の流行

百日咳は、1975年以前に、すでに稀な疾患となっていて、1年に1例も見ない年があるぐらい幻の疾患でした。しかし、事故の多発によりワクチンが中止になった1975年以後、百日咳は急激に流行し、1979年の大流行時には、阪南中央病院小児科外来の百日咳の新規患者数は以下の表の通りで、1ヶ月に50人を超す新規百日咳患者が押し寄せた月もありました。8月9月に多いのが特徴です。麻疹との合併例や3日間の昏睡の後回復した百日咳脳症例、チアノーゼ発作で新生児痙攣の診断でご紹介いただいた症例など、教科書にある典型的な経過を多く経験しました。1980年に百日咳無菌体ワクチンが開発され、新3種混合ワクチン(DTaP)として接種が再開されたあと、百日咳は徐々に減少し、今日に至っています。


阪南中央病院小児科外来の百日咳新患数

年/月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
1978 39 43 38
1979 30 18 34 24 26 35 51 43 24 13
1980 12 6 8 9 8 16 16 19 16 12 4

医療現場での流行:成人ではリンパ球増加が見られないことが多い

最近、医療現場での流行が増加しています。我々の病院でも、2011年度に散発的に5人の職員の発症がありました。看護師の一人は、咳のため2本の肋骨骨折を経験、助産師の一人が罹患した際には、分娩室と新生児室に勤務したため、8組の新生児と母親にクラリスロマイシン7日間の予防服用をお願いしたことなど、院内感染対策上も、百日咳は重要になっています。「長く(14日以上)続く咳と、特有の咳」で百日咳を疑うだけでなく、臨床診断する内科の医師の診断力が問われます。成人では、長く続く咳の約20%は百日咳との報告があり、子どもでの診断の根拠となる白血球増多(15000以上)、リンパ球増多(70%以上)が認められないことが多いことなども知っておく必要があります。

EIA法 PT(百日咳毒素)IgGの実用化

従来の百日咳凝集素価(山口株、東浜株)の測定に変わって、PT(百日咳毒素)IgGの測定が、新しくキット化され、実用化されました。今後、血清診断はこのPTIgG(EIA)の抗体価で診断されるようになっていきます。
この抗体は感染後、平均4ヶ月半で、cut-off値以下まで低下し、1年以内に82%が陰性化すると報告されています。

小児感染症学会の「百日咳診断基準2011」

  • 臨床症状
    14日以上の咳があり、かつ下記症状を1つ以上伴う
    (CDC1997,WHO2000)

    1. 発作性の咳き込み
    2. 吸気性笛声(whoop)
    3. 咳き込みの後の嘔吐
  • 実験室診断
    発症から4週間以内:培養、LAMP法+ペア血清による診断
    発症から4週間以降:LAMP法+ペア血清による血清診断

    1. 百日咳菌分離
    2. 遺伝子診断:PCRまたはLAMP法
      現時点ではLAMP法は全国数カ所の百日咳リファレンスセンター(国立感染症研究所および地方衛生研究所)など限られた施設しかできない
    3. 血清診断
      【 凝集素価 】

      1. DPTワクチン未接種児・者
        流行株(山口株)、ワクチン株(東浜株)いずれか40倍以上
      2. DPTワクチン未接種児・者または不明
        単血清では評価できないペア血清での流行株、ワクチン株のいずれか4倍以上の有意上昇を確認する必要がある。

        【 EIA法:PT(百日咳毒素)-IgG 】
      3. ・DPTワクチン未接種児・者
        10EU/mL以上(Ball-ELIZA)
      4. ・DPTワクチン未接種児・者または不明
        ペア血清:確立された基準はないが、2倍以上を原則とする
        参考:単血清:94EU/mL以上(Baughman AL 2004) 100 EU/mL以上(de Melker HE 2000)
  • 臨床診断
    臨床症状は該当するが、実験室診断はいずれも該当しないとき
  • 確定診断
    1. 臨床症状は該当し、実験室診断の1~3のいずれかが該当するとき
    2. 臨床症状は該当し、実験室診断された患者との接触があったとき

※2012年版では、青文字部分が削除されることになる模様です。

血清診断の基準 目安

診断基準に基づく、PAIgG抗体価を基準とした、診断は以下のようになります。

治療と感染管理

  • 抗菌薬としては:EM:14日又はCAM:7(~14)日
  • 経静脈的投与としては、PIPC
  • 乳児の重症例には免疫グロブリン
  • 家族内や保育施設内の濃厚接触者には、できるだけ早期に予防内服(EM14日、CAM7日)
  • 濃厚感染者:3フィート以内での接触 1時間以上の同室
  • 接触21日までの観察(潜伏期は通常7~10日 最長21日が根拠となっています)
  • 百日咳が疑われる医療従事者は、適切な抗菌薬(通常CAM)を5日間内服終了まで就業制限
【 メモ 】 新生児(2ヶ月まで)へのEM・CAM投与

EM・CAMが肥厚性幽門狭窄症を起こす危険があり、アメリカではAZM5日投与が勧められていますが、日本では百日咳へのAZMの適応はありません。
新生児が百日咳に罹患したときには、EM・CAMの有用性はその危険性を大きく上回ると考えられます。
我々は、肥厚性幽門狭窄症に注意を払いつつ、CAMを使用することを選んでいます。

ワクチンの重要性

現行2期接種(11~12歳)DTワクチンに替えて、百日咳ワクチンを加えた3種混合ワクチンへの変更(DT→DTaP)が強く望まれており、準備が進められています。
早期の法整備が期待されます。
また、感染予防のための追加接種(特に、医療従事者や、未接種乳幼児へのcatch-up接種など)も早急に検討し実行されるべきと考えます。