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Medical guidance

流行続くマクロライド耐性・肺炎マイコプラズマの治療戦略

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

現在、学童期以後の小児肺炎の大部分がマイコプラズマ肺炎

6才以上の小児では、市中肺炎の約60%がマイコプラズマによると報告されていますが、現在では学童期の市中肺炎のほとんどがマイコプラズマという状態が続いています。マイコプラズマ肺炎の流行と、マクロライドへの反応の悪さを実感し始めたのは、2009年秋~冬にかけてでした。この間の統計は、2011年8月1日発行の「あんしんネットワーク・小児科のトピックス」にお示しましたが、その後も流行はさらに拡大し続けています。最新の国立感染症センター週報(2012年3月5日~11日)でも、「定点当たりの報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。」と報告されています。

マクロライド高度耐性・マイコプラズマの急速な増加
2011年には、耐性化は90%に及ぶ

マイコプラズマのマクロライド耐性株は、2000年以降、日本でも分離されるようになり、2007年〜2008年には約40%と報告されてきましたが、2011年には約90%にも及ぶとの報告がなされるようになりました(IASR2011/10/25 生方、諸角、岩田)。既に近隣諸国では90%耐性の報告があり、耐性化の進行に危惧はしていましたが、まさか現実にこのような事態になるとは予想していませんでした。臨床現場では、確かに、マクロライドの有効性が極端に低下し、一筋縄で治癒しない症例が多発しています。

肺炎発症と重症化のメカニズム

マイコプラズマは、飛沫感染により、経気道的に侵入し、下気道の線毛上皮に付着し感染が成立します。マイコプラズマは、下気道の表面で増殖しますが、組織内や細胞内には侵入せず、他の下気道感染病原体(例えばRSウイルスや肺炎球菌)のような細胞破壊性や組織侵襲性を示しません。しかし、菌表面のリポ蛋白を介した免疫反応による間接的な炎症過程が気管支炎を肺炎へと進展させる原因となります。Walking pneumoniaと呼ばれたりする全身状態に大きな影響の少ない肺炎とされてきましたが、マクロライド耐性化の進行で遷延化、重症化が問題になってきました。重症化の機序は、①β—ラクタム系抗菌薬による無効な初期治療、②マクロライド耐性化の進行による病態の長期化、③マイコプラズマに対する過剰免疫反応による炎症反応、④細菌性肺炎の合併、⑤細胞性免疫低下によるマイコプラズマの全身散布などがあります。①②に対しては、適切な抗菌薬の選択が、③に対してはステロイド剤の投与が有効です。④は、CRPの上昇や白血球の増多、重症感の臨床判断などで、β―ラクタム系をはじめ、適切な抗菌薬を併用する必要があります。⑤免疫低下などの特別な病態です。

ファーストチョイスはあくまでもマクロライドだが!

マイコプラズマ肺炎に対する治療戦略 その1

耐性化の進行で、臨床経過は遷延化していますが、耐性菌の増殖力は、感受性菌に比べて弱いことが分かっています。また、肺炎発症が菌の組織破壊によるものでなく免疫発生であることから、マイコプラズマ菌の耐性化が、臨床的な極端な重症化に結びついていないとする見解が一般的です。事実、これほどの流行の中でも、極めて重篤な経過をたどる症例は稀で、これまでのところ我々の病院では経験していません。もちろん油断はできませんが。
この点で、現状においては、マクロライドが第1選択であるとする基本方針を堅持すべきとの意見は依然として一定の説得力を持っています。原則的には、正しい見解であり、治療方針の基礎として、この考え方を持って治療に当たる事は重要です。

2000年以前のデータでは、16員環(RKMリカマイシン)のマイコプラズマに対するMICは低いとされ、耐性化が進行した現在、頻用されてこなかったこともあって16員環マクロライドに期待があります。しかし、2000年以後のデータでは、14員環(EM・CAM)や15員環(AZM)同様に、MICは上昇、耐性化が進行しています。MINOの使用が制限される8才未満には、マクロライドがファーストチョイスであるとの考え方に立っての一つの選択肢でありうると考えますが、EM、CAM、AZM投与で無効なマイコプラズマ肺炎をRKMで治療することは、現状では、現実的ではないと考えざるを得ません。

感染源が耐性と分かっていれば、マクロライドは避けるべき

マイコプラズマ肺炎に対する治療戦略 その2

しかし、同じクラス、同じ家族で、マクロライド耐性菌によるマイコプラズマが発生・流行した場合には、ファーストチョイスで、マクロライドを選択することはできません。実際、1番上の兄がマイコプラズマ肺炎に罹患し、マクロライドで解熱せず、ミノマイシンに変薬し、解熱・治癒に向かいました。軽い咳があった弟と妹に、マクロライドを投与していましたが、次々と熱が出て、肺炎が進行した苦い経験があります。
耐性菌が90%に達しているとの報告がある現状では、感染源の患者がマクロライド耐性である事がはっきりしているときは、マクロライドを選択せず、MINOやTFLXの選択することを考慮しなければならないと考えます。

MINOの使用上の注意

マイコプラズマ肺炎に対する治療戦略 その3

マクロライド以外で、実際にマイコプラズマ感染症に適応があるのはMINOのみで、MINOに対する耐性菌は認められていません。
しかし、MINOの使用は、「歯牙形成期にある8才未満の小児に対する使用は、予測される副作用を上回る効果が期待できる場合のみ」とされています。その他、嘔吐、めまい、発疹、薬剤熱、重症なものとしてはスティーブンス・ジョンソン症候群などの副作用もあり、副作用のやや多い薬剤として注意しておく必要があります。
生方らは、「MINOの3日間投与で菌はほとんど消失」するので、「使用期間は通常3日、長くても5日にとどめたい」と述べておられます。MINOの使用法として、傾聴すべき提案です。

8才未満のマクロライド耐性の場合、TFLXを使用

マイコプラズマ肺炎に対する治療戦略 その4

TFLXは、マクロライド耐性マイコプラズマの流行のさ中、2011年2月に使用可能となりました。添付文書には、マイコプラズマへの適応は記載されていませんが、実際にマクロライド耐性マイコプラズマ肺炎に有効で、使用する機会が増加しています。
MINOの使用が制限される8才未満の子どもに多く投与されてきていますが、副作用(関節症状)や、耐性化が危惧されており、乱用を慎むべきとの意見が多く出されていることも知っておくべきです。

ステロイド剤の使用 重症例と1週間の熱が目安

マイコプラズマ肺炎に対する治療戦略 その5

ステロイド剤使用の適応と投与量、期間についての確固としたエビデンスはありません。
一般的なコンセンサスとして、長期(1週間程度)に解熱しない症例と重症例に使用します。この数年間、マイコプラズマ肺炎で、ステロイド剤を使用することは極めて稀なことでした。しかし、この1年半前からは、長期に解熱せず、レントゲン上で肺炎の進行や胸膜炎を発症する症例が増えたために、ステロイド剤併用症例は急増しています。
プレドニン換算で1日1(~2)mg/kg、2〜4日程度を使用しています。インフルエンザ2009パンデミックでも、肺炎が多発し、重症化を予防するためにステロイド剤を使用しましたが、マイコプラズマ肺炎にも、ステロイド剤を使用することは日常的なこととなってしまいました。

待たれる調査結果別

2011年国立感染症研究所は、2011年6月頃から、定点当たりのマイコプラズマ肺炎の発症が過去最高の水準に達していることから、全国の医療機関に呼びかけて、臨床経過・治療方法などの調査を行いました。
2012年4月中には、報告が出される予定とのことです。新たな治療戦略につながる結果が待たれます。