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Medical guidance

乳児の熱ウイルス性、それとも細菌性、それとも本当に感染症なの?

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

生後1ヶ月までの熱

生後1ヶ月目での熱は、局所症状を伴わないものが多く、一過性のウイルス感染症も多いのですが、原則的に入院していただくことにしています。新生児ヘルペスやB群連鎖球菌感染症、リステリア髄膜炎など、分娩関連の疾患もあります。
全身状態とCRPと白血球数増加の程度を見て、重症細菌感染症が疑わしい場合、sepsis work-upを実施します。CBC、血液培養、尿検査、尿培養、髄液検査、胸部レントゲン検査がフルコースです。
2010年4月~2011年8月までに、熱で入院した生後1ヶ月未満児を検討しました。入院症例数は18人でした。うち、13人(72%)が一過性のウイルス感染症でした。突発疹が4人、RSウイルス感染が2人、手足口病が1人、不明6人でした。検査ではCRP値が0~0.7mg/dl、白血球数は4500~11400の間に分布していました。病因不明症例を含め、検査値は軽度の変化しか示さず、髄液検査を行ったのは3例でした。
細菌感染症と診断された症例は5例でした。高いCRP値(2.5~11.3mg/dl)、白血球数増多(1例のみ9100、他の4例は18700~26200)を伴っていました。肺炎が2例、尿路感染症が1例、病巣を伴わない症例が2例でした。このうち2例に髄液検査を行っています。全例に血液培養を行っていますが、全て陰性でした。
この間の入院には髄膜炎や後遺症をもたらすような疾患はありませんでしたが、今後もこの年齢の子どもには、慎重に検索を行っていく必要を痛感しています。

生後1ヶ月から3ヶ月までの熱

3ヶ月以下の乳児で、ill-appearing (toxic) febrile infantsに対しては入院させ、血液、尿、髄液検査を行うことが勧められます(小児科教科書ネルソン19版より)。抗生剤の投与が必要と判断される場合には、原則的には髄液検査を先行させる必要があります。Ill-appearing、またはtoxicかの判断が小児科医の力量?となりますが、どんなベテランでも、見かけで疾患の重症度をすべて判断できません。ですから、細菌性髄膜炎、及び重篤な細菌感染症を否定できるか、ということをいつも自分に問いかけ、髄液検査を避けて通らないことを自分に言い聞かせています。
逆に、危険性の低い患者(low-risk patients)の選択基準(low-risk criteria)が提案されています。Boston Criteria, Philadelphia Protocol ,Pittsburgh Guidelines, Rochester Criteriaなどです。このうち、最も引用されるのがロチェスタークライテリアです。

ROCHESTER CRITERIA

全身状態が良好で、理学的所見が正常。かつ、検査値が以下のもの

  • CBC : 白血球数が5000~15000/μl : 桿状球の絶対数が1500以下
  • 尿 : <10白血球/HPF(400倍)
  • 便(下痢がある場合) : <5白血球/HPF

ロチェスタークライテリアを満たす、状態の良い患者の場合、重症の細菌感染症の可能性は少ないと判断できます。

潜在性菌血症

【 症例1 前日からの熱 】 生後4ヶ月 男児

「前日から38℃台の熱が続き、それ以外には特に症状が目立ちません。
本日、検尿:問題なし、CRP9.7㎎/dl、白血球14400と細菌感染を疑わせる所見でした。」との、ご紹介をいただく。
髄液検査:細胞数11/μl 多核球54.4% 単核球45.5% 蛋白11mg/dl 糖56mg/dl
髄液メニンギートパストレックス:陰性 髄液培養(陰性)
入院の上、CTRX投与開始。入院時の血液培養で、グラム陽性双球菌を検出、PSSPと判明。
入院翌日より、下熱。局所症状なし。7日間CTRXを投与し、軽快退院。
潜在性菌血症(occult bacteremia)は、3か月から36か月の子どもに多い、局所症状なしの菌血症をいいます。肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、髄膜炎菌、サルモネラ菌などが原因となります。肺炎球菌による場合、全身状態のよい患者では30~40%で、治療しなくても後遺症なしに自然治癒があるとされていますが、インフルエンザ桿菌の場合は90%が敗血症や髄膜炎に移行すると言われています。
潜在性菌血症の危険因子は、①年令が36ヶ月以下 ②39℃以上の熱 ③白血球数15000以上 ④肺炎球菌ワクチン、Hibワクチン未接種者 ということになります。
結局、外来診察時に、36ヶ月以下の児では、39℃以上の熱があれば、白血球数を含む血液検査(CRPと血液培養)を実施することが、潜在性菌血症を発見する対策となります。

不明熱

【 症例2 18日間の不明熱 】 7ヶ月 男児

39℃の熱が続き、第5病日にU先生受診、全身状態は良好、CRP0.2mg/dl、白血球8200。咽頭アデノウイルス(-)。少し長い熱として、御紹介いただく。

第6病日:
当院初診、局所症状なし、全身状態は良好、CRP0.9mg/dl、白血球8700(桿状球7%、分節核球41%)、胸部X線:異常なし ツ反:弱陽性(BCG済)。念のため、耳鼻科紹介、通院で経過観察することに。
第7病日:
耳鼻科受診、軽度の中耳炎あり、治療を受けるも、熱は続く。
この後、全身状態が悪くないので、2日ごと外来診察、CRP、白血球のチェックで観察。
CRP<0.2mg/dl 白血球数8000以下が続く。
第11病日:
ヘルペスや体温調節中枢に影響のある病態がないか、頭部CT検査:異常なし。
第14病日:
1日のみ下熱。
第15病日:
再び熱発39℃
第16病日:
朝39℃。嘔吐1回あり、ついに入院。局所症状を認めない。
CRP<0.2mg/dl 白血球7600(桿状球4%、分節核球8%)
髄液検査:細胞数3/μl 髄液単純ヘルペスPCR(陰性)
第17病日:
38.8℃、骨髄検査実施:悪性所見を認めない
第18病日:
下熱とともに全身に発疹が出現 しかし、夜間、38.5℃に上昇
第19病日:
発疹は拡大、下熱。以後、再発熱なし。

18日間続く不明熱でしたが、全身状態が良好、血液検査に異常なく、経過観察中に重症感はありませんでした。48時間ごとに外来で観察を続け、16病日に入院。感染症、自己免疫疾患、自己炎症性疾患、甲状腺・内分泌異常、悪性腫瘍がないかなどを考慮し、血液検査のほか、頭部CT検査、髄液検査、髄液単純ヘルペスPCR、骨髄検査などを行いましたが、結果としては、不要な検査だったことになります。抗生剤は、中耳炎の治療以外に、使用しませんでした。結局、「連続したウイルス感染症+中耳炎:最後の数日間は突発性発疹症」と診断しました。18病日に発疹出現したあと、約36時間後に下熱、HHV-7による突発性発疹症と考えています。
小児科医師としての力量が問われる2週間でした。