診療案内

Medical guidance

子どもと被曝 福島とチェルノブイリ

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

現場の医療から離れたテーマで、小児科のトピックスとします。福島原発事故は地球規模で汚染を広げていますが、特に被害は子どもと原発労働者に集中しています。高汚染地域にいる子ども達を放射線の被害から守るために、真剣に考え取り組むきっかけにしたいと思います。

放射線感受性の高い子ども

放射線の影響は成長の時期によって異なってあらわれます。細胞分裂の活発な0才(胎児)から10才の子どもは被曝の影響を受け易い特徴があります。また、被曝後の余命が長い分、生涯にわたるリスクが大きくなります。被曝の年齢が低いほどリスクは高く、全集団に比べて3〜4倍高いことが分かっています。

被曝時年齢と生涯の発がんによる死亡リスクの表です(ゴフマンによる)。10才以下の発がんの多さ・被害の多さに注目し、特に子どもを優先して放射線の障害から守る必要があります。

チェルノブイリ放射線障害、甲状腺がん、セシウム蓄積の晩発性障害

マクロライド耐性化が報じられていても、白血球が10000以下で、好中球増多を示さず、CRPも高値とならない肺炎は、マクロライド薬投与で、『歩いて』帰宅し、walking pneumoniaの名の通り、歩き回りながら治癒に向かうことが期待できました。胸痛が強い、咳がひっきりなしなどで入院を余儀なくされる場合でも、マクロライド経口投与でほとんどが治癒に向かい、耐性化の実感はありませんでした。(流行がなく、症例が少なかったためかもしれません。)
チェルノブイリでは、甲状腺がんが多発しました。「チェルノブイリ事故の人体への影響IPPNW」によると、①事故後(1986~1991)に出生した子どもに比べて、事故当時すでに生まれていた、生まれたばかりのベビーを含めた子どもに、甲状腺がんが多発 ②ベラルーシ、ロシア、ウクライナの調査された全区域で、事故後4〜5年の潜伏期で0〜14才の子どもに甲状腺がんが著しく増加 ③1992年ベラルーシの子どもの甲状腺がんの発症率は世界平均の80倍、2004年には100倍になった(日本での悪性腫瘍の発生率は15才以下の子ども1万人に対し1.1人、このうち甲状腺がんの割合は2.5%)、2001年には子どもの甲状腺がんの発症数は1000に達したこと ④15年後、事故を直接経験した子どもの多くが成人したことで、子どもの甲状腺がんは減少、⑤一方、成人の間では事故4年後から増加し、「世界が経験したことのないレベルに到達。」30才以上10万人当たりの甲状腺がんの発症は1980年1.24→1990年1.90→2000年には5.69に達し、依然増加していることが報告されています。
また、半減期が30年の放射性セシウム137の汚染は現在も続いており、セシウム137の内部被曝・慢性的被曝による健康被害が報告されています。セシウムの体内蓄積量は、臓器重量当たりで、甲状腺・心筋には3倍、他の臓器で2倍検出されています。筋肉ばかりでなく、子どもでは甲状腺をはじめとする内分泌系に3倍高い集積が確認されています。
セシウムの体内蓄積による放射線障害として、感染症にかかりやすく病気がち、疲れ易いなどの不定愁訴、倦怠感などの原因となっている可能性があり、広島・長崎の被爆者や原発労働者、アメリカ湾岸戦争症候群(劣化ウラン弾)などにあらわれた慢性的影響による「ぶらぶら病」と共通する症状が報告されています。

汚染状態に合わせる基準の引き上げでなく、被害の最少化を!

福島原発事故以来、子どもの健康被害を食い止めるための真剣な対策がとられず、「現実の汚染に合わせた被曝限度量の引き上げ」によって、つじつまを合わせることが行われてきました。
国・東電は原発をスポンサーとする学者を動員し、事故と放射能汚染の危険性を過小評価するキャンペーンを張ってきました。「直ちに健康に影響はありません」、「20mSv/y程度の放射線を浴びても吐気や火傷などの身体的影響は出ない。発ガンのリスクはあるとされるが、避難しないですむというメリットがある場合は限度を引き上げるという選択肢がある(佐々木日本アイソトープ協会常任理事)」、「年間100mSv未満では、がん発症率の上昇が証明できていないので、心配する必要はない。」「放射線の影響はニコニコ笑っている人には来ない、くよくよしている人に来る(山下俊一長崎大・福島大教授)」などが有名です。
被曝限度の基準と一般人の目安は、国際勧告による1mSv/yでした。事故後、1mSv/yは長期目標とされ、内部線量は無視され限界放射線量の基準緩和が行われました。外部線量のみで≧20mSvで避難、20mSv(子どもも含む)では居住可能、小・中学校の屋外活動も可能=20mSvは危険ではないとのとてつもない方針が出されました。教育現場には、日本小児心身医学会の指導のもとに、「避難指示がない場合=暮らせる場所」、放射線に対する「誤解をなくそう」「こころの安定」を主旨とするキャンペーンが行われました。
この20mSv/yを子どもの被曝基準とする政府の方針は、日本医師会を含め、内外からの厳しい批判にさらされましたが、避難地域の拡大や、子どもの疎開の実施など、経済的な裏付けと種々の困難を伴うために、未だに撤回されていません。
8月26日文科省は学校で受ける被曝を1mSv/yに抑える方針を打ち出しました。学校での1日5時間の一年間の被曝線量が、一般人の一年間の24時間の被曝線量と同じ基準とされ、それ以外の通学路や家庭生活での19時間と休日に子ども達が受ける内部被曝・外部被曝が何倍になるかは全く不問とされています。まやかしの1mSv/y案です。

高汚染地域からは避難と疎開を!避難の権利が認められるべき。

福島では多くの子ども達が放射線管理区域を上回る線量下での生活を強いられています。子ども達の内部被曝も明らかになってきています。除染対策が行われるようになっていますが、半減期の長い放射性物質が長く環境に留まり続ける以上、高い汚染地域で留まれば留まるほど、被曝は増加して行きます。高汚染地域の住民、特に子どもの避難と疎開はもっと真剣に早急に行われるべきです。
「自らの判断で避難するのは勝手」といわれ、何の補償も受けられずに、放射能から逃れるために転校、転園した子どもの数は、小中生・園児1万3000人以上と報道されています。元々は、東電と原発を推進してきた国に責任があります。政府は「避難の権利」を認め、「自主的」避難者を含めた補償を早急に行う必要があります。

6月9日、原田正純先生をお招きして、「水俣病と関わって50年~水俣病が現代に問いかけるもの」というテーマで、院内で講演会を開催しました。この中で、先生は水俣病における企業、国、(御用)学者の態度と果たした役割が、同じ構図で、福島原発事故に起っていることを指摘されました。そして、東日本大震災・福島原発事故の被害者に哀悼の意を表された上で、「災害は天災ではない。想定外とは科学が無効ということ。専門家(研究者)・医療者の責任」を強く訴えられました。阪南中央病院は福島で被曝された方のお産を引き受けることをHP上に公開し、その体制をとっていますが、福島のかたがたと連帯し、医療者としての責任を果たして行きたいと考えています。