診療案内

Medical guidance

初回の髄液検査が正常であった肺炎球菌(PRSP)髄膜炎

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

2011年1月号に細菌性髄膜炎の覚え書きとして、臨床上注意すべき点を取り上げました。その中で、初回の血液検査でCRP低値なら髄膜炎を否定できるか?初回の髄液検査で細胞数の増加がない場合髄膜炎を否定できるか?について触れました。この5月に経験した1例は、初回、CRPが低く、髄液細胞数増多も見られなかった症例でした。

症例1 1歳4ヶ月 男  肺炎球菌性(PRSP)髄膜炎

母親に熱性けいれんの既往

第1病日:
夕方、保育所から帰った後、熱に気づく。
第2病日:
0時過ぎ、高熱で、強直性けいれんが約20分続き、S病院に救急搬送される。CRP1.4mg/dl、白血球数19730で、髄膜炎の疑いで髄液検査を実施。
髄液細胞数4/μl、蛋白26.1mg/dl、糖100mg/dl。頭部CT検査:脳に器質的な異常を認めず。意識は回復し、けいれんの再発なく、ウイルス感染の可能性が高いとの判断で抗生剤投与なしで、経過観察。病院での髄液細菌培養結果は陰性。
午前、家が当院に近いため、家人の希望で当院にご紹介いただき、当院に転院。40.3℃、検査でCRP9.4mg/dl、白血球数14600。細菌感染症として胸部X線検査など、focus検索を行う間に、眼球右方偏移、左半身間代性けいれん(ミダゾラム投与、4分で止痙)が再び発症したため、髄液検査を再検。
髄液細胞数69/μl(多核球86%、リンパ球12%、単球2%)、髄液蛋白31mg/dl、髄液糖88mg/dl、髄液塗抹;細菌は染色されず、パストレックス検査で肺炎球菌(+)。尿中肺炎球菌莢膜抗原(+)より、肺炎球菌性髄膜炎と判断。
Dex 1.5mg/kg/回(抗生剤投与15分前、1日4回、2日間)
PAPM/BP100mg/kg分4、及びCTRX100mg/kg分2を投与。
同様の左半身けいれんが再発(2分で止痙)、フェノバール10mg/kg iv後、ミダゾラム0.1mg/kg/hで持続投与し、その後、けいれんは消失し、意識も回復。
第3病日:
40℃の高熱が続くが、意識は正常。頭部MR検査:脳に器質的な異常を認めず。
CRP10.7mg/dl、白血球13500。髄液培養検査で、G+双球箘を認める。
第4病日:
体温37℃台に低下、CRP4.6mg/dl、白血球8400に改善。
第5病日:
体温37.2℃に解熱。
第6病日:
髄液細菌培養・同定検査結果判明:S.pneumoniae(PRSP)
第7病日:
髄液細菌培養・同定検査結果判明:S.pneumoniae(PRSP)

初回の血液検査でCRP低値、初回の髄液検査で細胞数の増加がない場合でも、
髄膜炎を否定しきれない!

CRPの上昇は12時間程度遅れます。髄液の変化も遅れることがあります。この症例では、髄液糖の低下も見られず、初回の髄液検査から、髄膜炎を疑わせる値はなく、むしろ、否定できるとさえ判断してしまうデータでした。初回のCRPが低くても、髄液検査で細胞増多が見られなくても、細菌性髄膜炎が疑わしければ、時間をおいて再検査する必要があることを再認識させられました。小児救急医学会に集う先生方による「これから出会う物語 小児科症例集40例」(中山書店2010)の中に、苦い経験や、自慢できる症例経験が語られていることをご紹介しましたが、この教訓がぴったりあてはまる症例でした。
今年3月に改訂第2版として出版された「小児救急治療ガイドライン(診断と治療社)」に、化膿性髄膜炎の3%は初回の髄液検査が正常との文献の紹介があります。髄膜炎を診断するのは髄液検査ですが、病初期では、正常であっても髄膜炎を否定できないことを肝に銘じた症例でした。

症例2 5か月 男  肺炎球菌性(PRSP)髄膜炎定

アトピー性皮膚炎

2011年4月 熱発3日目で、大泉門の膨隆と、元気のなさで、紹介入院。CRP28.6mg/dl、白血球23700で、髄液検査を行う前から細菌性髄膜炎を強く疑う。髄液細胞数5500/μl(多核球94%)、蛋白138mg/dl、糖72mg/dl、パストレックスで肺炎球菌(+)反応、G(+)双球菌あり、後日PRSPを検出。
Dex(2日間投与)、PAPM/BP+CTXで治療
第5病日 けいれんが頻発し、PAPM/BPをMEPMに変更。
第6病日 CRP4.7mg/dl、白血球15800、硬膜外水腫を合併し、けいれんが続き、大阪市立総合医療センターに転院を受け入れていただく。
CTX10日間、MEPM16日間使用で、抗生剤治療終了。硬膜外水腫は改善傾向で経過観察中との御報告をいただく。

肺炎球菌性髄膜炎の治療

2010年12月以後、3例の肺炎球菌性髄膜炎を経験しました。PSSPが1例、PRSPが2例でした。肺炎球菌の薬剤耐性化は進んできているのが実感です。
PRSPに効果が期待できるのはPAPM/BPとMEPM、及びVCMとされます。日本のガイドラインでは、PAPM/BPまたはMEPMが推奨され、G+菌にはやや効果が高いとして、肺炎球菌(PRSP)に対してはPAPM/BPの方が推奨されています。
Red Bookによると、米国では標準治療として、最初からVCM+CTXまたはCTRXが推奨されています。second lineは、MEPMとCP(クロラムフェニコール)です。
PAPM/BPは米国では販売されていないため記載がありません。カルバペネムの治療が有効な現段階で、VCMをファーストチョイスとすることにはためらいがありますが、必要な選択肢と暖めておく必要はあります。
起因菌が同定され、感受性検査から適切な抗菌薬に変更するde-escalationが推奨されます。症例1では、併用中のCTRXは10日程度で中止することとし、PAPM/BPを治癒と判断できるまで使用する計画です。

肺炎球菌結合型ワクチンとヒブワクチンの普及を!

侵襲性肺炎球菌感染(主に髄膜炎、肺炎)や、Hibによる髄膜炎と喉頭蓋炎は多発しているとは言えませんが、2次医療を担う私たちの病院では、年間数例は経験します。肺炎球菌髄膜炎はこの半年間で、3例で、3例とも肺炎球菌ワクチンを受けいていませんでした。抗生剤の多用により、これらの病原菌の抗生剤に対する耐性化が進行しています。抗生剤の使用を適正化する努力と合わせて、ワクチンによる予防対策がこれまで以上に重要となってきています。
松原市を始め、市レベルでの補助が行われるようになっており、ワクチンの重要性の認識も高まってきています。これらのワクチンの普及に努める必要があります。
この3月、ワクチン接種直後の死亡例が複数報告され、接種が一時中断されました。現在では再開されていますが、これまで以上に正確な副作用報告を収集し、ワクチンに対する信頼性を確保・向上させる努力も私たちの課題です。