診療案内

Medical guidance

EBウイルス関連血球貪食症候群

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

2009年7月に血球貪食症候群を取り上げました。(病院ホームページで見ていただけます。)今回、胸水貯留を伴ったEBウイルス関連血球貪食症候群の症例に遭遇しました。
血球貪食症候群(hemophagocytotic Syndrome:HPS)は血球貪食リンパ組織球症(hemophagocytotic lymphohistiocytosis:HLH)とも呼ばれます。発熱、血球減少、肝脾腫、胸水、中枢神経症状(無菌性髄膜炎、けいれん、意識障害など)、肝不全、腎不全などの多臓器の多彩な障害が発症したとき疑いを持つことが重要です。特に血小板減少と他の臓器の障害が合併したときには、HPS(HLH)をすぐに思い浮かべる必要があることを改めて学びました。胸水貯留という、まれな症状が前面に出た症例で、大変勉強になりました。

HLH 2004 : HLH診断ガイドライン

HLHは、以下のいずれかを満たすこと

  1. A.HLHに一致する遺伝子異常を有する PRFmutations , SAPmutations
  2. B.以下の8項目のうち5項目を、満たす場合
    1. 1.発熱
    2. 2.脾腫
    3. 3.二系統以上の血球減少
      Hb<9.0g/dl(乳児では<10g/dl)、血小板<10万/μL、好中球1000/μL)
    4. 4.高トリグリセライド血症(空腹時>265mg/dl)、又は低フィブリノーゲン血症(<150mg/dl)
    5. 5.骨髄、脾臓、またはリンパ節の血球貪食像があり、悪性所見がない
    6. 6.NK細胞活性低下または欠損(正常値はそれぞれの検査基準に従う)
    7. 7.血清フェリチン値>500ng/ml
    8. 8.血清可溶性CD25(sIL-2R)値>2400U/ml

症例 1歳4ヶ月 男

12月7日:
咳と37.6℃
12月8日:
熱、咳、夜から嘔吐。
12月9日:
嘔吐8回・下痢1回、Sクリニック受診、脱水症としてご紹介いただく。
ぐったりして、元気がない。
CRP1.5mg/dl 白血球6300 血小板12.5万 LDH434
ウイルス性腸炎として入院、輸液開始。
12月10日:
高熱、嘔吐・下痢が続く。
12月11日:
多呼吸が出現、胸部X線検査:胸水が大量に貯留、肺炎は認めない。
CRP0.7mg/dl 白血球9700  血小板10万 LDH1170 TP4.5g/dl Alb2.9g/dl
検尿(蛋白+、潜血±)→腎疾患ではなさそう。
胸水穿刺(淡黄色透明)し、アルブミン投与。mPSL 1mg/kg 投与。
12月12日:
解熱。熱、血小板減少、LDH高値、胸水貯留より、血球貪食症候群を疑う。
フェリチン847、トリグリセリド484と高値を示す。
血小板9.3万 白血球14600 異型リンパ球19% 可溶性IL2レセプター6096(後日判明) Fib144mg/dl γグロブリン1g/kg、 mPSL 3mg /kg 分3 投与。
12月14日:
解熱しているが、元気がない。トリグリ808mg/dlに上昇、血小板7.1万に更に減少したため、大阪府立母子センター血液腫瘍科に受け入れをお願いする。

府立母子センターで、血球貪食症候群の診断で、プレドニン1mg/kg投与で胸水は消失、血小板数も徐々に回復、しかし、けいれん、低補体、溶血性貧血が出現し、プレドニン2mg/kgに増量で改善。
EB VCAIgM抗体:陽性 EB VCAIgG抗体:陽性 ウイルス量は、2×e4copy/mlと基準値以上の増加が見られ、EBV初感染と考えれられ、EBウイルス関連血球貪食症候群と確定診断、ネオーラル3mg/kg/dayを併用、外来治療に移ったとの経過報告をいただく。

特異抗体の推移と抗体によるEBウイルス感染症の判定

特異抗体の推移と抗体によるEBウイルス感染症の判定

  VCA-IgG抗体 VCA-IgM抗体 EA-IgG抗体 EBNA抗体
未感染
初感染 -/+
既感染 -/+
活性化感染 ++ -/+ ++ -*/+/++

*:EBV-CTL機能不全があるときは、一般に低値となる。

活性化感染による慢性活動性EBウイルス感染症の場合、VCA-IgG、VCA-IgM抗体が高値をとるほか、VCAおよびEA-IgA抗体がしばしば陽性となる。

EBウイルス関連血球貪食症候群EBVAHS またはEB-HLH

EBV-HLHは日本に多く、一般的に重症化傾向が強く、注意が必要とされていますが、2009年に実施された調査では、10%で支持療法やγグロブリンで治癒、ステロイドパルスの奏功例が30%弱、残りの60%がHLH2004プロトコールによる多剤併用療法という、結果がでました。軽症なものもあるようですが、大部分は重症な経過をたどると受け止めておく必要があります。
通常のEBウイルス感染症では(伝染性単核症)では、EBウイルスはB細胞に感染しますが、EBウイルス関連血球貪食症候群では、T/NK細胞、特にT細胞に感染し、クローナルな増殖をとげ、過剰なサイトカインが産生(cytokine storm)され、免疫監視機構から逃れる機序が働き、重症化すると考えられています。
ステロイド、γグロブリン、CsAを用いることで、治療可能な場合が多いとされていますが、難治性、重症な場合にはHLH-2004で提唱されている多剤併用療法(Dex,Vp-16、CsA)が行われます。
EBV-HLHに対し、リツキシマブ(Bリンパ球の表面抗原CD20に対する遺伝子組み換え型のモノクローナル抗体製剤)を併用することで、効果が認められたことが報告されています。しかし、米国ではEBV感染細胞の殆どがB細胞であるため、リツキシマブの有効性はありうると考えられますが、日本で多いT細胞やNK細胞感染の場合には効果が低いのではないかとする推測がされています。