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Medical guidance

重症の脱水症とそれに関連する話題

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

この数年、日本でのロタウイルス腸炎の流行のピークは3月~4月となっていて、今年も3月になってロタウイルス腸炎が多発しています。稀なことではありますが、診察で皮膚のturgor低下、眼瞼の陥没、大泉門の強度の陥没、ショックなどの強い脱水に陥る乳児の入院があります。この場合、20ml/kgの生理食塩水の急速静注、その後、適切な輸液治療が必要となります。この数年間に経験した特別に重症な症例をお示しします。

【症例1】1歳5ヶ月 男

2月28日:
嘔吐・下痢。
3月 1日:
少量の水分摂取が可能。しかし、5時間以上にわたって1時間に2回の割合で、大量の水様下痢。
ぐったり、不機嫌、眼瞼の落ち込み、皮膚turgorの低下、けいれん重積を発症し、当科紹介受診。Na147、尿素窒素47、クレアチニン1.0、pH7.11、BE-16.1 生食100mlシリンジで静注、その後、生食の輸液→ソリタT3輸液に継ぐ。
3月 2日:
尿素窒素26、クレアチニン0.4に改善。けいれん重積性脳症による意識障害が数日続いた。
3月 8日:
意識障害は消失し、退院。ノロウイルスを検出。

【症例2】2歳6ヶ月 女 ファロー四徴症術後でラシックス・アルダクトンを服用中

1月16日:
嘔吐、下痢が始まる。
1月19日:
嘔吐・下痢が続き、ぐったり、39.4℃、皮膚turgor低下あり、ご紹介で当科受診。
尿素窒素110、クレアチニン1.4、Na182、K3.8。
生食による慎重な輸液補正で、徐々に改善。
1月23日:
データは正常化。

【症例3】6ヶ月 男
VATER連合(食道閉鎖→根治術後、鎖肛→人工肛門、VURあり)

2月16日:
ロタウイルス腸炎に罹患。重症化せず、回復に向かう。
2月19日:
腸炎は回復期で、泌尿器科を受診、尿路感染の予防のためにケフラールの処方を受け1回服用、その後、不機嫌、顔色不良、ストマパウチに水様下痢。
2月20日:
ぐったり、眼瞼部の落ち込み、皮膚turgorの低下が出現、尿素窒素68、クレアチニン1.5に上昇。ショック状態で静脈ルートが確保できず、骨髄針で急速輸液、数時間後に肘静脈からPIカテを挿入可能となり、骨髄針抜去。
2月21日:
血液データは改善。

【症例4】6ヶ月 男 全身のアトピー性皮膚炎あり

3月24日:
下痢・嘔吐が始まる。夜間10回以上、大量の水様下痢あり。
3月25日:
ご紹介で受診。皮膚turgor低下、眼瞼の落ち込み、大泉門が強く陥没、Na156、尿素窒素37.2、クレアチニン1.75、生食の急速輸液を実施。
3月28日:
症状、データともに回復。ロタウイルスは検出されず。

脱水症の治療とそれに関連する話題

  • 生食の急速静注 : 脱水症が強い場合、20ml/kgの生食の急速静注が必要です。その後、Holliday-Segarの計算式に基づいて、必要水分量を算出し、不足分を加えて輸液量を決定します。
  • 維持輸液(T3)により、しばしば低Na血症(hospital-acquired hyponatremia)が引き起こされることから、初期輸液には、生食又は乳酸リンゲル、又はNa濃度が90mEq/l程度のT1又はT2(Na84、K20)の使用が勧められています。
  • 軽症から中等症には、ORT(oral-rehydration therapy)が有効です。市販のイオン飲料はNa濃度が低くOS1が推薦されます。
  • 1時間に1回以上、毎回大量の水様下痢があるときには、少しぐらいの水分摂取では追いつかず、急激な脱水に陥ることがあります。飲めているからといって安心できない場合があります。
  • ショック状態で静脈路が確保できない場合は、ためらわずに骨髄ルートをとる必要があります。2次医療機関として、常に準備(心構えを含めて)しておくことが重要だと考えています。
  • 最近の報告で、感染性腸炎(ロタやノロ)の経過で、尿路結石が発症し、腎後性の腎不全に至る症例が20例以上報告されています。尿酸及び酸性尿酸アンモニウム結石が殆どです。まだ、結石発症のメカニズム、予防法は分かっていません。折に触れて、エコー検査をおこなうことが重要です。(当院では経験していません。)
  • 「胃腸炎関連けいれんCwG」=「軽症下痢に伴うけいれん」は群発する傾向があり、ジアゼパムは効果がなく、カルバマゼピン1回投与やリドカインの静注が有効とされています。2010年10月の小児科学会雑誌に、フェニトイン10mg/kgの点滴静注が有効との報告がでました。嘔吐があり、カルバマゼピンが服用できない場合に、代替として使用でき、魅力ある報告です。
  • 国際的に、ロタウイルスに対するワクチンが普及しつつあります。国立感染症研究所、感染症情報センターの病原体情報・月報3月号【IASR】は、ロタウイルス特集です。2種類のワクチン(Rotarixグラクソスミスクライン、RotaTeqメルク)の紹介や、日本における費用対効果比の分析なども検討されています。現在のような流行を目の当たりにすると、ワクチンについて真剣に検討することも必要と考えます。
Holliday-Segarの計算式

 0~10kg
100/kg
10~20kg
1000ml+50ml(Wt-10kg)
20~30kg
1500ml+20ml(Wt-20kg)
または約1500~2000ml/㎡/day