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急性小脳失調症、その臨床特徴

小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶

2011年2月熱性けいれん後に、ふらつきで起きられなくなった1歳3ヶ月児の症例を経験し、小脳失調と診断しました。急性小脳失調症(acute cerebellar ataxia:ACA)は、2~4歳児に多く見られ、先行感染やワクチン接種後、一定期間をおいて、突然、体幹失調、失調歩行、測定障害、企図振戦、眼振、構音障害などの小脳症状で発症します。一般的に予後は良いとされています。2008年に経験した水痘後の小脳失調症の症例とを合わせて報告します。

【症例1】1歳3ヶ月/男 突発疹後の急性小脳失調症

現病歴と経過

2月12日:
夕方、熱っぽかった。
2月13日:
40℃、全身性強直けいれん2分 急病診療所受診。
2月14日:
熱が続き、15日I先生受診、診察の終わりに一点凝視(眠気?)あり、「熱性けいれん、原因は突発性発疹の可能性が高い」として、当院へご紹介いただく。
来院時、38.2℃、おもちゃで遊び、意識は正常インフルエンザ迅速検査(-) CRP0.9mg/dl、白血球4900 当院入院。
2月15日:
解熱、活気あり、坐位で遊ぶ。食欲も出て、バナナ1本にパンを食べる。
2月16日:
頚部、体幹に発疹出現、ボーとして、視線が合わない、ふらつきがあり、坐位もおぼつかない、つかまり立ちができない。膝蓋腱反射:正常。
2月17日:
坐位のバランスは取れるようになったがふらつきがある、つかまり立ちは可能になったが、ふらつきが強い。
2月18日:
ふらつきながら独歩可能となる。
2月19日:
ヨチヨチ歩き(以前は、小走りが可能であった)。
2月21日:
歩行がしっかりし、ふらつき消失、母親によると「これまでの90%回復」とのこと。外来で完全回復を確認することにして、退院。

検査

脳波の徐波化以外、血液、髄液、頭部CT、頭部MR検査で異常を認めず。

血液検査:
CRP、白血球、CPKは、経過中特に上昇・増加なし。
髄液検査:
2/17 細胞数2/μl 蛋白<10mg/dl 糖62mg/dl
脳 波:
2/16 徐波化を認める。突発波は認めない。 2/18 基礎波はほぼ正常化。
頭部CT:
2/15 頭蓋内に異常を認めない。
頭部MR:
2/16 2/18 brainに器質的な異常を認めない

考案

熱発と熱のけいれんの後、麻痺や失調なく、いったん回復した。その後、体幹の動揺が出現、数日の経過で改善した。二相性のけいれん重積型脳症の可能性もあるが、体幹の動揺、運動失調が主な症状で、予後も良く、急性小脳失調と診断した。

【症例2】4歳/男 水痘後の急性小脳失調症

経過(2008年)

2月9日:
水痘発疹が出現、熱が続く。
2月14日:
水痘発疹は痂皮化。急に、ふらつく、起き上がれない、ろれつが回らないなどの小脳失調が出現。
膝蓋腱反射:正常。
髄液検査:細胞数96/3(100%)単核球。水痘による小脳炎、小脳失調症と診断。
頭部MR検査:brainに器質的な異常を認めず
2月20日:
ふらつきながらも、自分で立ちあがれるようになる。
2月25日:
動揺、失調などの症状は、消失。

考 案

小脳失調症の原因となる感染症としては、水痘がもっともポピュラー(全体の4分の1を占める。成人では3分の1が、EBウイルス感染後)。髄液に異常を認めないことが多いが、この症例のように髄液に細胞増多を認めることもある。また、頭部MR検査で小脳に異常な高信号を認める場合もある。

急性小脳失調症

病因、病態

小脳への病原体や毒素の直接的な侵襲ではなく感染症やワクチンの抗原に対する自己抗体が小脳、特にPurkinje細胞に交叉反応を起こし自己免疫的な機序で炎症、脱髄が引き起こされると推定されている。

診断と検査

  • 血液検査:
    末梢血、一般化学検査では通常異常はない。
  • 髄液検査:
    約半数に軽度の細胞数増多を認める。
  • 画像診断:
    異常が見られないことが多い。小脳、その周囲に浮腫や低信号、高信号を認めることもある。
    これらの異常は通常、症状の改善とともに消失することが多い。
  • SPECT:
    MR検査で異常が認められなくても、SPECTで血流異常が指摘されている。
  • 脳 波:
    多くは正常、時に、徐波化、突発波を認めることがある。臨床的には、けいれんを伴わない。

治療

自然治癒傾向が強いので、経過観察のみで改善するものが多い。症状が重篤な場合、遷延する場合は、自己免疫的な機序が考えられるので、mPSLパルス療法、免疫グロブリン療法(2g/kg)が選択肢となる。

予後

一般的には良好。再発例、後遺症を残す症例も存在する。