診療案内

Medical guidance

熱中症に注意を

小児科医 ( 副院長 ) : 中田成慶

熱中症の季節

日中の気温が30℃を超えるようになると、熱中症が増えてきます。

症例1

6月中旬、プール掃除中の中学1年生が、気分が悪くなり搬送されてきました。到着時、腋窩体温は38.0℃、意識は正常でした。輸液を行い、クーラーの風下で、休んでもらい、約1時間後、体温は37.0℃で、元気になって帰宅されました。同時に行った血液検査には異常値は認めませんでした。

症例2

その2日後、炎天下で車に約50分閉じ込められた、1歳半のこどもが搬送されてきました。幸い、来院時には、37.3℃、顔色はよく、意識も正常で、水分摂取も普通に可能で、特別な対処なしに、診察だけで帰宅してもらいました。

最近の小児科の雑誌に熱中症で高体温になった後24時間~36時間後に肝機能障害をきたした4症例の報告が掲載されており、一見軽症に経過した症例でも翌日の経過観察が必要なことが指摘されています。

熱中症のⅠ~Ⅲ度分類

Ⅰ度:
熱けいれん(heat cramp)=こむら返り
熱失神(heat syncope)=立ちくらみ
Ⅱ度:
熱疲労(heat exhaustion)=体温上昇、強い疲労感、嘔気、頭痛など
Ⅲ度:
熱射病(heat stroke)=脳神経症状、肝・腎機能障害、DICなど
(深部体温39℃以上、腋窩体温38℃以上)

Ⅰ度の熱けいれんは、水分摂取をとり、膝裏筋やふくらはぎのストレッチを行うことで対応可能。
Ⅰ度の熱失神も、水分摂取と冷却・休息で対応が可能です。

Ⅱ度の熱疲労状態には、冷却・休息に加えて、輸液治療が必要になります。

Ⅲ度の熱射病は、意識低下、譫妄状態、小脳症状、けいれんなどの脳神経症状に、肝・腎臓障害とDICを合併するもので、生命の危険が極めて大きい状態で、3次医療機関への救急搬送が必要になります。(熱により惹起されたhemorrhagic shock and encephalopathy)
熱射病は、①古典的熱射病(classical heat stroke)と②努力性熱射病(exertional heat strokeに分類されます。前者は、小児、高齢者、慢性疾患の人が高温・多湿の環境下で発症するもの、後者はスポーツのトレーニングや軍隊などの訓練などの激しい労作が加わったための熱射病で、いずれも生命の危険が引き起こされます。

又、横紋筋融解は熱中症のどのレベルでも起こりうるとされています。

熱中症への対処 = FIRE

熱中症への対処法として、4項目の頭文字で、FIREと覚えておくことが役に立ちます。熱中症にはFIREで立ち向かいます。

F (Fluid)=輸液・補液

Ⅰ度の場合は、経口補液で対応可能
Ⅱ度ではラクテートリンゲル又はソリタT1などで20ml/kg/時間で開始

I (Ice)=全身冷却

衣服をとり、涼しい場所に寝かせる、頚部・腋窩・ソケイ部の氷嚢での冷却、体にアルコール又は水を霧状にして吹きかけるなど

R (Rest)=安静

Ⅰ度・Ⅱ度の場合でも、涼しい場所で、十分な休息、安静が重要

E (Emergency)=緊急事態の認識

Ⅱ度とⅢ度との境界は不明瞭で、しかもⅢ度の熱中症では、生命の危険性があります。緊急事態に陥る危険性があるかどうかの臨床医の認識が重要となります。重症化の可能性が疑われたら3次救急への搬送を依頼する必要があります。
又、冷水を用いた胃洗浄や膀胱洗浄も有効とされますが、Ⅲ度の熱射病の可能性がある時にはこれを実施するより、転送を考慮すべきです。

解熱剤は、無効です。

熱中症の予防  暑さ指数WBGT(湿球黒球温度)

熱中症は脱水をともなうので、脱水予防が熱中症予防につながることになります。特に夏場の運動や労作前には、十分な水分補給を行い、運動・労働中には20~30分ごとに水分摂取を勧めるようにします。(40kg以下では1回150ml、体重60kg以上なら300〜360ml)
1時間以内の運動なら、塩分の補給は不要で、水だけの補給で十分とされています。
薄着、汗の乾きの良い服装で、熱のこもる気密性の高い服は着ないようにします。
暑さに応じた運動の強さや持続時間の目安のために、湿球黒球温度(WBGT)による熱中症予防の運動指針が出されています。WBGT(湿球黒球温度)とは、Wet Bulb Globe temperatureの頭文字で、人体の熱収支に影響の大きい湿度、輻射熱、気温の3つを取り入れた指標で、乾球温度、湿球温度、黒球温度の値を使って計算します。

※WBGT(湿球黒球温度)の算出方法
屋外:WBGT = 0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度
屋内:WBGT = 0.7×湿球温度+0.3×黒球温度

ポータブルのWBGTの測定器具(約3万円)が売り出されていますが、WBGTは、普通に計る乾球温度から約3℃差し引いた値に近似します(WBGT25℃≒乾球温28℃)。ここでは、日本体育協会の指針を示します。アメリカ小児科学会(AAP)もWBGTに基づいた、ほぼ同様のガイドラインを出しています。

暑い時期には、思いがけなく熱中症に陥る危険性が、常にあります。熱中症に注意し、F:水分補給、I:涼しくする、冷やす、R:休息、E:緊急事態かどうか判断する、FIREを思い浮かべて、対処していきます。