水痘と帯状疱疹・水痘ワクチン
小児科医 ( 副院長 ) : 中田成慶
水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella‐zoster virus = VZV)感染症
ヒトヘルペスウイルスα亜科に属する2本鎖DNAウイルス
- 家族内2次感染
一般に皮疹数は2倍に重症化する傾向があるとされています。 - 合併症
- 細菌の2次感染
皮膚感染及び深部感染への注意が必要で、皮疹からの蜂巣炎、関節炎などがあります。 - 呼吸器感染
水痘肺炎の報告がありますが、多く場合、細菌性肺炎の合併です。 - 髄膜脳炎・急性小脳失調症
ヘルペス脳炎とは違い、予後良好なものが多いとされています。
- 細菌の2次感染
ハイリスク患者の水痘
- 新生児、免疫不全(白血病、臓器移植、先天性免疫不全、ステロイドホルモン剤の服用者)で、肺炎・肝炎・DICなどにより高率にfatalになります。
- 胎内、周産期
母親が分娩5日以前に水痘を発症した場合は、児は母からの移行も免疫をもらえるので予防は良好とされていますが、分娩4日前から、分娩2日後の間に母親が水痘を発症した場合、児は重症化し、死亡する可能性があります。
帯状疱疹
免疫抑制剤の使用時や、65歳以上で好発。神経節に潜伏したVZVの再活性化による。
- 治療
水痘の重症者に使用。帯状疱疹患者の場合はファーストチョイス。 - アシクロビル(ACV)
- バラシクロビル
ACVのプロドラッグで消化管からの吸収効率が改善されています。
この1年間の小児科での水痘関連入院データ
(2007.10~2008.9阪南中央病院)
重症水痘及び水痘合併症での入院患者 : 19名
肺炎及び気管支炎等の気道感染症の合併 : 9名
蜂巣炎及び皮膚感染(膿痂疹)の合併 : 3名
肝機能障害 : 1名
髄膜脳炎 : 1名
症例
- 蜂巣炎合併 1歳男
- 1月11日:
- 水痘発疹、顔面に多発、眉間から眼瞼にかけて発赤・腫脹が出現、入院の上、ACVと抗生剤投与で改善。
- 髄膜脳炎(症状は急性小脳失調症)合併例 4歳男
- 2月9日:
- 水痘発疹が出現、数は多くないが熱が続く。
- 2月14日:
- ふらつく、起きあげれない、ろれつが回らないとの訴えで、U小児科受診、急性小脳失調症の診断でご紹介いただく。髄液細胞数96/3で、水痘による髄膜脳炎と診断。ACV投与。
- 2月20日:
- ふらつきながらも、自分で立てるようになる。
- 2月25日:
- 症状ほぼ消失、脳の画像診断上は異常を認めず。
水痘ワクチンの現状
水痘の予防には2回接種が趨勢
水痘ワクチンは日本で開発されました。1987年小児白血病患者などのハイリスク患者への接種が認められ、1990年には、任意で、健常者にも予防的に投与することができるようになりました。また、接触72時間以内なら、ワクチン接種で80%以上の確立で水痘の発症を抑えることができることもわかっています。ワクチン接種後の、水痘感染率は20%程度のようですが、再感染の殆どは軽症とされています。しかし、水痘ワクチンの接種率は、30%以下で、殆ど普及していないのが現状です。
諸外国の状況
アメリカでは、全員へのワクチン接種(universal vaccination)が推奨され、現在では、MMRV(麻しん・風しん・ムンプス+水痘ワクチン)として12ヶ月~15ヶ月に1回目、4~6歳で2回目を受けるスケジュールになっています。韓国、カナダなど十数ヶ国で定期接種が行われています。
今後、MMRV化が進むにつれて、定期接種、2回投与が世界的な趨勢になるものと考えられます。日本でも、定期接種化の取り組が一部で進められていますが、現在の予防接種行政の停滞からすると、まだずいぶん先の議論になりそうです。
帯状疱疹の予防に高齢者にワクチン接種の流れ
子供の水痘に接する職業である保育士が高齢になっても帯状疱疹になりにくいという経験的データから、高齢者にワクチンでブースターをかける予防法が試され有効性が確かめられました。ワクチンの追加接種で、帯状疱疹の発症が51.3%減少、帯状疱疹後神経痛(post-herpetic neuralgiaPHN)は66.5%減少したことから、日本でも2004年1月から、50歳以上で帯状疱疹の予防のために、同じワクチンの使用が認可されています。
帯状疱疹の予防ワクチンZOSTAVACS
アメリカCDCのMMWRの2008年6月6日号に、「帯状疱疹の予防」の表題で、勧告が掲載されました。小児用の水痘ワクチンを14倍力価を高めた帯状疱疹予防のための高齢者用ワクチンZOSTAVACS(60歳以上)が認可され、帯状疱疹の予防に使用することが推奨されています。9月末に放映されたNHK「ためしてガッテン」でも高齢者へのワクチン接種が推奨されていました。日本では小児に使用するものと同じものが使用されます。少し値段の高いワクチンですが、神経痛の痛みとのバランスで、今後徐々に接種が普及するものと思われます。