診療案内

Medical guidance

手足口病

小児科医 ( 副院長 ) : 中田成慶

国立感染症研究所の週報最新版(2008年第24週)で、注目すべき感染症として、手足口病が取り上げられています。手足口病は、安心ネットワークでも特集(06年11月)しましたが、一部を再掲し、最近の特徴に注目して、再整理してみました。

手足口病の流行状況

この10年間は、毎年7月に流行のピークがあり、今年も例年のペースで、増加傾向を示しています。特に、今年の特徴としては、5歳以下が90%を占め、低年齢に感染者が多い傾向があります。
今年分離されたウイルスの型別検出状況では、コクサッキーA16(75%)、エンテロウイルス71(4.5%)、CA10(2.3%)、CA6(2.3%)で、中枢神経系の合併症を引き起こす危険の高いエンテロウイルス71の報告割合は、過去4年間で最も少ない結果となっています。

手足口病(2006年11月安心ネットワーク 再掲)

病原体:
エンテロウイルス(コクサッキ−ウイルスA16、エンテロウイルス71、その他、コクサッキ−A10、A6、A9などのエンテロウイルス)
好発年齢:
乳幼児(5才以下が80%以上)
性差:
なし
分布:
世界的に分布
潜伏期:
およそ3~5日(~7日)
伝播可能期間:
急性期が最も感染力が強い
回復後も約4週間程度は便からウイルスが排出され、感染源となりうる
感染経路:
飛沫感染、糞口感染、水疱内容からの直接感染(主に口内炎の唾液鼻水など)
感染予防対策:
手洗い、便・おむつの処理、塩素消毒
隔離対策:
回復した児に長期の欠席を求める事は現実的でない

エンテロウイルス71の日本での流行状況

日本では2006年にエンテロウイルス71の流行がありました。過去の統計からは、3年ごとの流行を繰り返す傾向が見られ、その統計データからすると、今年の流行がたいしたことがなければ、2009年には流行が拡大する危険性があります。

エンテロウイルス71による重症合併症(脳炎、肺水腫など)

エンテロウイスル71による手足口病は、1997年マレーシアで、1998年と2000年に台湾で流行があり、1998年の台湾の流行では、脳炎/脳症、ショック(循環不全)で97例の死亡が報告されています。
日本でも、2000年の流行で、死亡2人、脳炎・脳症7人、小脳失調18人、ミオクローヌス5人、急性弛緩性麻痺3人、心筋炎9人、循環不全2人、肺水腫/肺出血/ショック2人などの多数の重症合併症が発症したことが明らかとなっています。これ以外に、無菌性髄膜炎の発症例は、かなりの数に上ると思われます。(手足口病の髄膜炎は、日本の小児科医なら必ず遭遇する程度にポピュラーな無菌性髄膜炎の原因ウイルスの一つです。)
手足口病は、一般的には、軽症の疾患ですが、日常診療の際には、時に重症の合併症があり得ることを、必ず念頭に置いて子どもを診察することが必要です。

今年の春、中国でのアウトブレイク(2008年3月~5月)

今年4月から5月にかけて、中国・安徽省を中心にエンテロウイルス71による手足口病のアウトブレイクがあり、WHOとCDCによる調査が行われ、5月に、その速報が発表されました。流行の初期(3月1日〜4月23日)に死亡が18人、その後(4月24日〜5月9日)の死亡が4人、合計22人の死亡が報告されています。剖検された3例は、強い脳浮腫及び肺うっ血・肺浮腫を示し、脳幹脳炎、神経性肺浮腫などが、死因であったことが示されています。
死亡例では、多くが医療機関への受診後10時間以内で、死に至る急激な経過を辿っており、感染が劇症型の場合には、その進行が食い止められない可能性があることを示唆しています。
しかし、一方で、流行の初期段階で死亡例が多いのは、危険性が認知されておらず、医療機関へのアクセスが遅れたためではないかとの推察もなされています。

来年が日本での流行年?

ワクチンや特定の治療法がない疾患だけに、全身状態の把握、その維持のための指導など、初期段階での医療側の指導が重要となります。来年が3年間隔のEV71の流行年だとすると、我々も心して対処して行く必要があります。

他のエンテロウイルスのトピックス CVB1による新生児重症感染症

アメリカで、新生児のコクサッキーB1感染による多臓器不全で、2007年の1年間に5例の死亡が報告されました。経胎盤感染や2か月未満での水平感染によるものです。
小児科医として、生後2か月(〜3か月)までの熱発には、sepsis work-up を実施し、時間経過で見て、CRPや白血球に変化がない場合、多くの場合、72時間後には突発疹と思われる発疹が出現し、解熱することから、一般に軽症のウイルス感染症と判断して、安心している傾向が自分達の中にもあります。
しかし、重症な経過を辿るのは新生児ヘルペスや生後4日目までの水痘だけではなく、CBV1のような市中で流行するエンテロウイルス感染症であっても、多臓器障害が発症しうるとの報告に接して、今後はより慎重な対応・見方を行って行く必要を感じています。
EBMに基づいた確立された治療法はないので、手洗い、糞便の処理などの予防対策を励行するしかありません。
効果が実証されていませんが、免疫グロブリンは選択肢の一つです。抗ウイルス薬のプレコナリル(pleconaril)は、ピコルナウイルスのカプシド蛋白に結合し、ウイルスの吸着を抑制する抗ウイルス剤ですが、現在phase2の治験中です。免疫グロブリン治療は、EV71手足口病の場合にも、life-threatniigと判断した場合には使用を考慮することになります。