診療案内

Medical guidance

小児細菌性髄膜炎Empiric Therapy(経験的治療)

小児科医 ( 副院長 ) : 中田成慶

はじめに

2004年11月の小児感染症学会のランチョンセミナーで、北里大学の生方公子先生から「全国サーベイランス5年間のまとめ」が報告され、2006年11月、福島県立医大小児科 細矢光亮先生が編集員として参加して、日本神経学会、日本神経治療学会、日本神経感染症学会の合同のガイドラインが作成されました。抗菌薬の選択方法は、その時期、その地域の耐性化の進み具合によって更新される必要があり、このガイドラインの発表は、私たち現場での今の治療に大変役立つものです。
細菌性髄膜炎は、典型的な症状がそろう前に、診断することが重要ですが、三徴とされる「発熱、項部硬直、意識障害」が最初からそろうことは小児ではめったになく、常に細菌性髄膜炎を念頭において診察する以外に方法はありません。低年齢では、発熱のみでも、他に明らかな原因が見当たらなければ、細菌性髄膜炎を鑑別診断の一つとして考慮する必要があります。
日本での子どもの細菌性髄膜炎の発症数は年間約1000例と推定されています。後遺症を残す危険性のあるこの疾患の、早期診断と適切な治療は小児科医にとっての力量が試される疾患でもあります。

起炎菌と抗生剤の選択

日本におけるサーベイランスから、インフルエンザ菌(60%)、肺炎球菌(16%)、GBS(6%)、大腸菌(4%)、他にListeria、髄膜炎菌、MRSAなどがあげられています。起炎菌と年齢の間には強い関係があり、大腸菌とGBSは新生児期~4(5)ヵ月まで、インフルエンザ菌は5歳までに多く、肺炎球菌は生後3ヵ月から小児期全般を通じて検出されます。
インフルエンザ菌と肺炎球菌の薬剤感受性は、2000年以降、両者ともに耐性菌が増加傾向で、現在ではインフルエンザ菌の60-70%、肺炎球菌の70-80%が耐性化していると報告されており、耐性化をふまえた治療が選択されます。

ガイドラインによるEmpiric Therapy(ステップ1)

(起炎菌が不明な場合の「経験的な」抗菌薬の選択)

a.新生児期~4ヵ月未満での選択

大腸菌、GBSの頻度が高いことから第3世代セフェムを選択。リステリア菌を考慮して広域ペニシリン(アンピシリン)を併用する。

  • 第3世代セフェム系
    セフォタキシム200~300mg/kg/日 分3~4
    または、
    セフトリアキソン100~120mg/kg/日 分1~2
    及び、
    アンピシリン200~300mg/kg/日 分3~分4

b.4ヵ月以降における選択

インフルエンザ菌が最も多く、次いで肺炎球菌が多い。インフルエンザ菌はBLNAR、肺炎球菌はPRSPが増加しており、耐性菌を考慮した選択となる。PRSPにはカルバペネム系が、BLNARには第3セフェム系あるいはカルバペネム系のうちメロペネムが有効。従って、第3世代セフェム系およびカルバペネム系を併用する。

  • 第3世代セフェム系
    セフォタキシム200~300mg/kg/日 分3~4
    または、
    セフトリアキソン100~120mg/kg/日 分2
    及び、
  • カルバペネム系
    パニペネム・ベタミブロン合剤100~160mg/kg/日 分3~4
    または、
    メロペネム100~140mg/kg/日

ラテックス凝集反応による迅速診断(パストレックス・メニンジャイティス)
判明後の対応(ステップ2)

迅速診断キットで、起炎菌が判明すれば、単剤投与が可能となります。併用による相加効果はないとされているので、腸内細菌を保護するためにも1剤投与が望ましいからです。
このため、

  • インフルエンザ菌 MEPC
  • 肺炎球菌 PAPM
  • 大腸菌 MEPM
  • GBS PAPM
  • 髄膜炎菌 CTX

が、推奨されています。

(ステップ3) 起炎菌の感受性(MIC)が判明後

起炎菌の感受性(MIC)が判明後は、そのMICに基づいて抗菌薬が選択されます。
肺炎球菌でPAPM耐性の場合、VCMがインフルエンザ菌で、β-ラクタマーゼ陰性の場合は、PIPC400mg/kg/日が選択されます。

病態と臨床症状、デキサメタゾン療法

細菌性髄膜炎は次の様な連鎖で発症すると考えられます。
咽頭、未熟な腸粘膜、中耳などから病原菌が血中に侵入→くも膜に定着、くも膜と軟膜に囲まれたくも膜下腔で増殖、周辺組織を破壊→細菌成分のエンドトキシン、ペプチドグリカンなどが宿主のTNF-αやインターロイキンなどの炎症性サイトカインの産生を誘導→白血球の活性化、血管内皮細胞の障害、凝固系の活性化→生体の防御反応としての炎症反応が脳実質や脳血管に波及→神経細胞障害→この結果、後遺症、転帰不良につながることになります。
このため、細菌を破壊する前に、炎症性サイトカインの産生を抑制する治療を併用することで、後遺症を減少させることが期待され、デキサメタゾン投与の効果が実証されてきました。
補助療法としてのデキサメタゾン療法は、初回の抗菌薬投与より20分前に、あるいは遅くとも同時にデキサメタゾン0.15mg/kgを投与し、6時間ごと(1日4回)の抗菌薬使用前に、48時間(2日間)使用することが推奨されています。
この補助療法の有効性は最初インフルエンザ菌による髄膜炎で実証されましたが、肺炎球菌による髄膜炎に対する効果も示唆され、現在では乳幼児期~小児の細菌性髄膜炎の治療ではデキサメタゾンを併用することが推奨されています

Hibワクチン、肺炎球菌結合型ワクチンへの展望

インフルエンザ菌ワクチンは欧米では1990年ころから使用され、インフルエンザ菌性髄膜炎は激減したと報告されています。肺炎球菌ワクチンもアメリカで2002年以降、7価結合型ワクチンが導入され、成果が報告されています。
7価肺炎球菌ワクチンの無効な別の型の肺炎球菌による深部感染症の発症の報告など、今後の検討課題はありますが、すでに多くの国で実証されているこれらのワクチンの導入に真剣に取り組む時期に来ていると考えられます。