診療案内

Medical guidance

りんご病(伝染性紅班)について

小児科医 ( 副院長 ) : 中田成慶

伝染性紅斑の小流行が報じられています。実際、6月に入って、患者が増加しています。
パルボウイルスB19感染症には、新しい治験が増え、紫斑病や心筋炎が注目されています。蝶形紅斑や関節炎がおこることから、SLEや関節リウマチの病因ではないかとする考えもあります。
りんご病として軽症に経過するものがほとんどですが、その広い臨床スペクトラムを理解して、対処することが必要です。特に、成人では、関節炎や紫斑病として発症することが多く、パルボB19感染症だったのではないかと、思い当たる症例があるのではないでしょうか。

パルボB19感染症=伝染性紅斑=りんご病

病原ウイルス

2.3nmの単鎖DNAウイルスで、主に赤血球P抗原(globoside)をレセプターとし、erythropoietin存在下の赤芽球前駆細胞と前期赤芽球で増殖し、大量のウイルスが血中に放出され、P抗原をもつ、ヒトの赤芽球前駆細胞、巨核球、血管内皮細胞、胎盤などの細胞が標的となる。

抗体及び検査

IgM抗体は、感染3ヵ月間検出される。IgG抗体は通常、永続する。時に再感染がある。

  • 網赤血球
    著減する。
  • 赤血球・ヘモグロビン
    正常範囲下限程度までに、減少、1ヶ月で正常中央値に戻る。
  • 血小板
    時に減少、3週間で正常化。
  • 白血球
    時に減少、3週間で正常化。
  • 補体
    低下し、病勢のマーカーとして利用できるとされる。
  • AST、ALT
    上昇することがある。

潜伏期と感染経路

通常は、飛沫及び接触感染。
感染7~11日後のウイルス血症に伴って、熱、関節痛などの感冒様症状がおこる(第1相)。その後、抗体の産生が始まり、ウイルス血症は消褪、感染17〜18日皮膚症状が出始める(第2相)。 ウイルスの排出と伝染は、ウイルス血症の時期に起こる。りんご病としての皮膚症状が現れた時点での感染性はほとんどない。

症状とその多彩な臨床的スペクトラム

伝染性紅斑

両頬の蝶形紅斑が特徴で、りんご病と称される。腕、脚にも両側性にレース様の紅斑がでる。日光などの刺激により再燃する。発疹が出現した時には、既に感染性はほとんどなくなっている。
子どもでは、典型的な「りんご病」で終わることが多いが、成人では風疹様、網状紅斑、紫斑などの多彩な皮疹が生じることがあり、発疹の発現率も40%程度である。発熱、関節痛、手足の腫脹など全身症状が強く出ることも多く、典型的なりんご病でない場合は診断が難しい。

紫斑(紫斑病)

成人では紫斑・点状出血は約20%に見られる。紫斑には血小板減少性(PB19感染による巨核球の減少による)と非減少性(血管内皮細胞の直接障害=免疫性)とがある。血小板非減少性の方が多いとされ、一見シェーンライン・ヘノッホ紫斑病に似る(区別がつかない)。
血小板減少時には、同時に白血球減少もおこり、ウイルス感染による一過性の骨髄抑制(インフルエンザなどでしばしば見られる)を呈することが多い。
γグロブリンまたは副腎皮質ホルモン剤投与が必要なことがある。

手・足グローブ様発疹症

papulopurpuric gloves-and-socks syndrome(PPGS)とも呼ばれる。手袋、ソックスをはめたような融合性の紅斑が出現、痛みやかゆみ、全身症状としての熱を伴う。この状態は、抗体反応が起こる前の、ウイルス血症の時期(第1相)におこる。そのため、この時期の患者は感染性を有している。その後、抗体反応が高まるにつれて、解熱し、典型的なりんご病として、頬、全身の紅斑に移行することがある。

関節炎

子どもでは、軽度の関節炎症状を訴えることは多いが、運動制限を必要とするほど重症なものは少ない。成人では、関節痛は多く、特に女性に好発する。歩行障害を来すこともあるが、約2ヶ月で消褪する。稀に4ヶ月以後に、慢性関節炎を発症する例が報告されている。

心筋炎

心筋炎の原因としては、コクサッキーBやエコーウイルスによるものが多いが、パルボB19での報告が増加しつつある。心筋炎は医師側の心筋炎マインドなしには、診断にたどり着くことが難しい。胸痛、背部痛、上腹部痛と顔色不良、元気なく横になりたがるなどの訴え、頻脈、不整脈、低血圧等のとき、心電図検査(合わせてCK、心筋トロポニン検査)を行うかどうかが決定的である。伝染性紅斑では頭の片隅で「心筋炎」を意識して診察に当たるよう心がけたい。

脳炎

伝染性紅斑の回復期に発症するとされている。脳圧亢進性脳症で、急速に重篤な状態に陥る。けいれんの発症は勿論のこと、インフルエンザ脳症の診断と同様、軽度の意識障害と全身状態の把握が診断上重要となる。「伝染性紅斑は軽症なので心配ない」と医師から言われた後、脳炎を発症した4例が報告されており、軽症の伝染性紅斑に対しても、説明に一工夫必要である。

胎児水腫

妊婦感染の感染による。妊婦の抗体陽性率は、約40%、感染妊婦における胎児感染率は33%、胎児死亡率は約10%。胎児感染は妊娠初期でもおこるが、B19は持続感染し、妊娠20~32週に非免疫性胎児水腫がはじまる。胎児水腫が発症したときには、胎児輸血(経臍静脈又は胎児腹腔内への赤血球輸血)を行う。

骨髄無形成症(aplastic crisis)

溶血性貧血の保因患者で起こる。洗浄濃厚赤血球の輸血、γグロブリンの投与が必要となる。免疫抑制状態では、中和抗体が産生できず、持続感染のために慢性骨髄不全を起こすことがある。

治療と予防

典型的な伝染性紅斑=りんご病には特別な治療は必要ない。成人では不顕性感染が約50%である。
重篤な症状(血小板減少、強い紫斑、心筋炎、脳炎、aplastic crisis等)には、免疫グロブリン療法と副腎皮質ホルモン剤投与(パルス療法)が行われる。γグロブリン製剤は、どの銘柄でも、高力価の抗パルボB19抗体を含んでおり、一回投与で有効性が期待できるとされる。パルボB19感染の患者と接触した妊婦に対して、γグロブリン投与による予防が試みられることがある。

隔離

伝染性紅斑は、学校伝染病予防法では登校禁止規定がなく、登校は規制されない。典型的な発疹が出現する時期には、ウイルス血症は消褪しているので、感染性は低下しているからである(なお数日間感染の可能性はあり得る)。
手・足・グローブ様発疹症には、感染性がある。