診療案内

Medical guidance

2007年・麻疹の大流行

小児科医 ( 副院長 ) : 中田成慶

麻疹が全国的に(大)流行しています。昨年来(2006年5月)感染症情報センターから、麻疹に対する緊急情報・緊急警報が出され、今年に入って大流行の状況を呈してきました。昨年8月の「あんしんネットワーク」で麻疹についの特集を行いましたが、再度麻疹についての特集といたします。

麻疹の知識の整理

潜伏期:
(10~12日)→カタル期(3~4日)→発疹期(4~5日)→回復期(3~4日)
家族内での発症の報告では、発疹の期間が14日とのやや長めの報告もあります。
修飾麻疹の場合は、潜伏期が長くなりがちです。
Koplic斑:
発熱3~4日目にKoplic斑が出現します。(5日目は稀)
合併症:
●麻疹肺炎
 約6% KL6の上昇と重症化の関連が指摘されています。
 麻疹ウイルスそのものによるウイルス性肺炎と細菌の2次感染肺炎があります。
●脳炎
 1000に対して1~2の割合
●角膜軟化症・角膜潰瘍
 失明 ビタミンAの投与
●細胞性免疫の低下
 結核の進行など(罹患後4週間)
特殊な経過:
●修飾麻疹
 麻疹ワクチン接種後の免疫力の低下(現在の流行のかなりの部分が修飾
 麻疹、γグロブリン注射を受けた人、母親からの移行抗体が残っている乳児期初期
●重症出血性麻疹(内向型麻疹)
 ショック、DICの合併
伝播様式:
空気感染、飛沫や接触でも感染  20分同室すれば感染が成立
伝染期間と
隔離期間:
熱やカタル症状発症の1~2日前(発疹出現4~5日前)から感染性があります。
(発疹が出て診断がついた時、同居の感受性者は通常感染4日目と判断されます。)
学校保健法によると麻疹の出席停止期間は「解熱した後3日が経過するまで」と規定されています。
アメリカ小児科医師会のRed Bookによると、隔離期間は発疹から4日間とされます。
治療:
麻疹ウイルスに対する特異的な治療はなく、症状や合併症に対する治療となります。
ビタミンA欠乏状態では、角膜疾患を始め重症化するので、投与が考慮されます。
投与量;6ヶ月~1歳未満児には10万単位1回、1歳以上児には20万単位1回
角膜潰瘍を認めたときには、翌日と4週間後の計3回投与)
日本では、ビタミンA欠乏はほとんど考えられないので、投与は推奨されません。
接触者への
対応:
顕性の麻疹患者との接触が判明した時、感受性者への対応は次の通りです。

  1. 暴露72時間以内なら、麻疹ワクチン接種で、発症を食い止めたり、軽症化を期待できる。
  2. 曝露6日以内なら、γグロブリン筋注(0.1~0.3ml/kg)で、感染防止、または軽症化を期待できる。

子どもだけだなく学校・職員の麻疹ワクチン歴・罹患歴の把握が重要

国立感染症研究所によると、40歳未満で約300万人の麻疹感受性者が推計されています。これは、麻疹未罹患で、ワクチンを受けていない人と、ワクチンを接種しているが免疫が獲得されていない人(primary vaccine failure)、及びワクチンを接種したが免疫の獲得が不十分なため麻疹にかかってしまう人(secondary vaccine failure→かかったとき修飾麻疹になる)の合計です。
ワクチン接種した人のうち、実際に誰が感受性者であるかどうかは、抗体測定結果で判断するしかありません。単回のワクチンの麻疹予防効果は、約10年と言われていること、MMRワクチンの中止時期にワクチン接種を差し控えた人がちょうど大学生になりつつあることなどで、現在の大学生での流行が説明されます。流行は大学だけでなく、乳幼児、小学校などでも報告されています。今後、更に注意が必要です。
園、学校の子どもは勿論のこと、職員全員の麻疹のワクチン歴、罹患歴を、把握する必要があります。嘱託医をされている先生方は、このことを強く園・学校に求めていただくことが必要です。
ワクチン歴・罹患歴のない子ども・麻疹に対する免疫のない職員には、出来るだけ早く麻疹ワクチンを受けるよう勧める必要があります。但し、ワクチンの在庫が不足し、臨時接種のためのワクチンが手に入りにくくなっています。

保育園・幼稚園・学校での、麻疹患者発生時の対応マニュアル(案)

保育所、幼稚園、学校、医療機関では、集団発生が起こる危険性があり、この対策のために、2006年5月23日付けで、国立感染症情報センター監修の「保育園・幼稚園・学校での、麻疹患者発生時の対応マニュアル(案)」が出されています。再掲します。
要点は以下の通りです。

平素から実施しておくこと

麻疹ワクチン未接種者・麻疹未罹患者の把握及びワクチン接種の勧奨

  • 発生時の対応
    麻疹患者発生1名の時点で、直ちに対応を開始
    関係機関への連絡、対策会議の開催、校内(園内)麻疹の発生状況の確認

患者との濃厚接触者への対応

  • 濃厚接触者の範囲を明らかにする。
  • 感染発症予防法
    1. 接触3日以内なら麻疹ワクチン接種により発症を予防できる可能性
    2. 6日以内であれば、ガンマグロブリンの注射で発症を予防できる可能性
      使用量は15~50mg/kg(0.1~0.33ml/kg)筋注

【ガンマグロブリン注射の注意点】

  • 血液製剤であること
  • 発症予防できる可能性はあるが、軽症発症の可能性もある。
    また発症する場合、潜伏期間が遅延する場合がある。
  • 注射後、麻疹ワクチン未接種者と同様の観察が必要で、注射すればすぐに安心できるというわけではない
  • 以上の事からやむを得ない場合の使用に留め、出来るだけ予防に充填をおくのが望ましい

医療機関での麻疹対応マニュアル

医療機関に対しても、2006年5月24日付けで、「医療機関での麻疹対応について(初版)」が出されています。医療機関の職員に対しては、麻疹抗体を測定を行い、抗体価の低い職員にはワクチン接種を行うことが推奨されています。(われわれの病院では、新入職員の抗体検査を行い、低い人にはワクチン接種を行っています。)
また、麻疹患者発生時には、その情報を全国的にすばやく共有するために、麻疹発生DB(データベース) への報告が求められています。
=https://idsc.nih.go.jp/disease/measles/meas0605.html

麻疹根絶対策に遅れを取っている日本の現状

WHOは麻疹根絶に向かう3つの段階を規定しています。

  • 第1段階
    制圧期(control)麻疹が恒常的に発生、麻疹患者の発生/死亡の減少を目指す段階
  • 第2段階
    集団発生予防期(outbreak prevention) 全体の発生を抑えつつ集団発生を防ぐことを目指す時期
  • 第3段階
    排除期(elimination) 国内伝播はほぼなくなり、根絶(eradication)に近い状態

この規定からすると、欧米諸国では第3段階に達しているのに、日本の現状はやっと第2段階に達したばかりというのが現状のようです。今回の流行を機会に、麻疹根絶に向けたワクチン早期・全員接種に向けた努力、成人の免疫力の測定と感受性者に対する臨時のワクチン接種の推奨、麻疹ワクチンの安定供給体制を強める必要があります。