診療案内

Medical guidance

手足口病

小児科医 ( 副院長 ) : 中田成慶

2006年10月、手足口病の流行が見られます。今回は手足口病を取り上げます。

病原体:
エンテロウイルス(コクサッキ−ウイルスA16、エンテロウイルス71、コクサッキ−ウイルスA10、およびその他のエンテロウイルス)
好発年齢:
乳幼児(5才以下が80%以上)
性差:
なし
分布:
世界的に分布
感染経路:
飛沫感染、糞口感染、水疱内容からの直接感染(主に口内炎の唾液鼻水など)
潜伏期:
およそ3~5日(~7日)
伝播可能期間:
急性期が最も感染力が強い
回復後も約4週間程度は便からウイルスが排出され、感染源となりうる

手足口病の症状

手掌、足底又は足背の水疱性発疹と口内疹が特徴です。
皮膚の水疱性発疹は手足全体、膝、臀部周辺に現れることもあります。
すべての部位の症状がそろわないこともあります。口内炎のみの場合、単純ヘルペス感染との鑑別が必要となりますが、周りの流行を見て、手足口病かどうかを判断できるはずです。(手足口病の口内炎は面積が大きい傾向があります)
熱は約1/3にみられます。高熱が長く続くことは普通ありません。

手足口病の治療と予後

感染経路:
特別な治療はありません。口内炎の痛みのために、飲食ができなくなることが稀にあり、実際の重症度は、口内炎の大きさ・多さに比例します。
予後:
ほとんどは数日のうちに自然治癒します。基本的には予後良好な疾患です。
免疫:
かかった手足口病の病原ウイルスに対する免疫は成立します。しかし、異なった種類のウイルスによる感染で手足口病を発症することはあります。手足口病に二度かかることがあるのはこのためです。

2次感染の予防

手洗いの励行が一番重要です。特に排泄物、おむつを扱った後の手洗いが重要です。
よだれや排泄物が付着した表面の汚れを拭き取ることも予防法の一つです。
急性期の手足口病の子どもとの密接な接触(キッス、頬すり等)が感染を起こすので、急性期の子どもとの濃密接触は注意が必要です。
このような衛生上の清潔さは重要ですが、次の項目で触れているように、2次感染を阻止できる可能性はほとんどないことも知っておかなければなりません。

幼稚園・保育所での感染管理学校伝染病第3種(その他の伝染病)の扱い方

感染力が強いのは急性期ですが、症状回復後も約4週間程度、便からウイルスの排出があります。また不顕性感染で症状なしにウイルスを排出する場合も多くあり(大人に多いとされています)、患者隔離による感染予防・流行阻止は期待できません。感染拡大阻止に「出席停止は効果なし」とされています。

( 南里清一郎:感染制御、小児科臨床58:2590,2005 )

また大部分は軽症であり、感染管理・流行阻止のために、長期に欠席を強いることは現実的ではありません。
出席停止、登園、登所許可については、流行阻止の目的というよりも患者本人の状態によって判断すべきであるというのが専門家の一致した見解です。(急性期で、口内炎があり、よだれを流し、手を口に入れるような年齢の子どもでは、集団から隔離することに意味があるかもしれないと考えられています。)

( CDC Fact Sheet Sept 5,2006 岡部伸彦 日本医師会 感染症 p240 )

学校伝染病第3種(その他の伝染病)の規定によると手足口病は「病状により、学校医またはその他の医師が伝染のおそれがないと認めるまで」とされていて、医師の裁量に任された記載となっています。有熱期間や口内炎が痛くて食欲がない場合など、安静目的での出席停止は意味があるかも知れませんが、感染阻止の面から出席停止の効果は期待できないということをよく理解して、対応する必要があります。

2006年秋の手足口病の流行

定点観測による国立感染症センターの最新の集計によると、エンテロウイルス71(EV71)がコクサッキーウイルスA16(CA16)よりも多く分離された2000年と2003年には、その年の手足口病の報告数も増加しており、EV71の流行が、感染者数の底上げを行っている傾向が見られています。
例年、手足口病は、7月中旬から下旬にかけて発生のピークを迎えますが、2006年第30週(8月)までの累計では、今年の報告数は例年に比べてやや少なかったこと、しかし、ウイルス分離ではEV71が71.3%と多数を占めていたことが報告されています。今年の流行ピークが遅れて、10月~11月になっているようですが、流行の原因ウイルスはEV71が主流だとすると、中枢神経の合併症に気をつけて経過を観察して行く必要があります。

EV71の合併症・続発症

EV71は稀に、髄膜炎、小脳失調症、脳炎などの中枢神経感染症や、急性心筋炎、弛緩性麻痺などをひき起こすことがあります。1997年以後、EV71感染による急性脳幹脳炎や脳症による死亡例が、マレーシア、大阪、台湾で報告されています。
どこの小児科病棟でも、手足口病に合併する髄膜炎の経験を持っているはずで、手足口病はウイルス性髄膜炎のポピュラーな原因疾患でもあります。経過中に頭痛、嘔吐、熱が2日以上続く、等の症状がある時には、慎重な経過観察が必要となります。我々には経験がありませんが、脳炎や心筋炎の合併があり得ることも意識して、診療に臨む必要がありそうです。
合併症の発症を予防する方法はないので、基本的には軽症の手足口病にも、稀に重い合併症があり得ることを理解して、慎重に対処して行く心がけが重要です。

手足口病にかかった子どもを持つ妊婦/周産期と手足口病

妊婦が免疫を持たない場合、手足口病に感染しますが、通常、重症化することはないとされています。現在のところ、流産・死産・先天異常の原因になるとの報告もありません。
周産期に母親が手足口病を発症した場合、ベビーにも感染します。ほとんどの場合、軽い症状で治癒しますが、稀に、全身に感染し、多臓器障害を引き起こすことが報告されています。危険な時期は、生後2週間とされています。
予防としては、手洗いの励行と、汚染された場所の清拭と塩素消毒以外に、特別な方法がありません。